204.元庄屋さんの息子さんがきまして

 うちの山も居住区域はしっかり電波が届くので問題はない。場所によっては繋がりにくいところはあるが、繋がる場所まで移動すればいいだけのことだ。

 で、改めておっちゃんに電話してみた。イノシシの獲れ高は俺が思っていたより多かった。


「三頭ですかっ!?」


 一頭はウリ坊に毛が生えたぐらいだったらしいが、二頭は成体らしい。撃ったのは相川さんと戸山さんで、みんなで食べようという話になったようだ。元々おっちゃんが依頼したものだったので、みんなほくほくである。今回畑野さんは参加されていないそうだ。まぁ平日だしな。川中さんも週末に合流する予定だったらしい。それにしてもみんな元気だなと思った。


「じゃあ明日の予定はどうなりますか?」

「夕方にニワトリたちと来ればいいだろ。内臓はさすがに一部しか分けてやれねえがな」

「わかりました。聞いてみます」


 さすがに自分たちで捕ったのでなければ内臓総取りなんてことはできない。一部だけでも我慢してもらうしかなかった。

 それにしてももうイノシシが捕れたとは僥倖である。さすがにその三頭で全てではないかもしれないが、少しでも害獣を減らせるのはいいことだ。畑を荒らさないにしても、突進とかされたら死ぬし。


「追い込み猟(集団猟)みたいなものだったのかなぁ」


 ちょっと近くで見てみたかったなとは思ったが、こちらの山に来てくれればもしかしたら見る機会があるかもしれないとも思い直した。

 夕方帰ってきたポチとタマに、


「明日の夕方からおっちゃんちに泊まるから。イノシシ捕ったって聞いたけどどうする?」


 と聞いたら。


「イクー」

「イクー」

「イクー」


 と即答だった。肉食系ニワトリとかどこに需要があるんだろう。ホラー映画かな。


「あ、内臓は少ししかないって。お前たちが狩ったわけじゃないからな」


 一応言っておいた。これがまたのちにニワトリの失踪に繋がるとは思ってもみなかった。

 翌朝である。

 タマとユマの卵を取り、汚れを布などで軽く拭きとってから冷蔵庫へ。普通の卵を入れるところにははまらないので皿に入れてである。なんか入れ物作れって? そろそろそうしようかな。


「今日は親子丼でも振舞うか」


 タマとユマの卵はとにかく絶品なのだ。親はいくらなんでもうちのニワトリたちではない。養鶏場から買ってきたものである。こういうのって他人丼って言うんだっけ?

 十時頃元庄屋さんの息子さんである山倉圭司さんが見えられた。


「おはようございます、佐野さん。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。山倉さんはどうですか?」

「おかげさまですっかりよくなりまして、今日は私の妹のところへ行っています」

「ああ、そうなんですね。それはよかったです」


 圭司さんの妹さんというと、山倉さんがぎっくり腰をやる前にお子さんが生まれた娘さんのことだ。山倉さん夫妻は孫の面倒を看にいっているのかもしれなかった。


「いやあ、いいかげん一緒に暮らそうと声をかけてはいるんですが、こちらの生活の方がいいと言われてしまうと何も言えませんね」


 きっと息子さん夫婦に苦労をかけたくないんだろうなと想像した。


「その時が来たらまた同居できると思いますよ。じゃあ行きましょうか」


 圭司さんにもご自分の車に乗ってもらって墓のところまで移動した。当然俺の軽トラの助手席にはユマが乗っている。ユマが乗らないにしても座席がないから圭司さんを乗せるのは無理だ。圭司さんは何か言いたそうにしていたが、ユマが助手席の位置に乗ったらなるほどというような顔をした。うちはニワトリが中心なんです。

 山登りだとは言ってあったから圭司さんはそれ相応の恰好をしてきてくれた。この山に住んでいた人々の先祖代々の墓に手を合わせ、昨日雑貨屋で買ってきた花を少しずつ供えた。


「佐野さん、ありがとうございます……」


 圭司さんが困ったような顔をしていた。


「最近までは花が咲いていたのでそこらへんから取ればよかったんですけど……」


 俺は頭を掻いた。どうせ花だって高いものを買ったわけではない。そんなにそんなに交換はできないし、たまにだからと見栄を張ったのだ。

 そしてユマを先導させて山に登った。ユマも何回か登るうちに道を覚えてくれたので、できるだけ短い距離で、人が登れるようなルートを通って山頂へ導いてくれた。ユマ、優秀である。


「ここが、山頂なんですか……」

「ええ。登る用に整備されてる山じゃないですからハゲの部分はないんですよ」

「そう言われてみればそうですね」


 確かにもう登る場所がないと認識するまでは山頂だとはわかりにくいだろう。この木も一部は切った方がいいんだろうかと思ったりもするが、切ったはいいがどうやって運ぶのだという問題もある。どれも立派だから雑草を抜いて帰るぐらいしかできないのだった。


「こちらです。適当な石を置いただけで恥ずかしいんですけど……」

「いえ、ここに山の神様がいらっしゃると佐野さんが気づいてくれたから父はあの程度で済んだんです。先にご挨拶をさせてください」


 水を取り替えて、二人でご神体替わりの石に挨拶をした。


「こちらの石を納める祠を用意すればいいんですね」

「そうですね。すいませんがよろしくお願いします」

「任せてください。また挨拶に参りますし、こちらに上がってくる道も多少整えた方がいいでしょうね」

「そうですね。来年の今頃までに形になればいいかと思っています」

「協力させてください」


 圭司さんがにっこりと笑んで言う。


「いえ、あの……もう今はうちの山ですから」

「でもまた顔を出してもいいでしょう」

「ええまぁ、お墓もありますし」

「道作り、手伝わせてくださいね」

「はい……」


 一円も出してもらうつもりはなかったんだけどなぁ。圭司さんはなかなかに強引な人のようだった。墓のところまで下りてうちに移動し、昼食は予定通り親子丼にした。タマとユマの卵だと教えたら、


「おいしいです。優秀ですね」


 と褒められた。そうだ、うちのニワトリたちはかしこくて優秀なんだぞ、と内心ドヤッたのだった。


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