203.穏やかな冬の一日のはずだったけど
ポチとユマが帰ってくる前に起きたので、タマにつつかれずに済んだ。でも目を覚ました時日が陰ってきていたから危なかったなと思った。
「よく、寝たな~……」
タマは土間で座っていた。目を閉じていたようだが、俺が呟くと目が開いたから起きていたのだろう。
「遊びに行かなかったのか? 行ってきてよかったのに」
キッと睨まれて、つつかれた。だからなんでなんだっての。
そうしているうちにポチとユマが帰ってきた。今日は泥だらけではなくてほっとした。日が完全に落ちる前に三羽を洗った。タマはお風呂に入ってくれないのでこのタイミングで洗うしかないのだ。
日が落ちるのが早くなってきたのでニワトリたちも寝る時間が増えたように思う。でもやっぱり朝の4時か5時ぐらいにはコケコッコー! とやっているようだ。眠りが浅い日はその声で一旦起きることもある。大概はまだ早いじゃん、と時計を確認してまた寝てしまうのだが。ニワトリの雄叫びにも慣れたものだ。なんであれで毎朝起きないくせにスマホの目覚ましでは起きられるんだろうな。人体は不思議だ。
翌日も寒さに震えながら起き出した。あんまり寝ているとタマに乗っかられてしまうのでほどほどで起きるようにはしている。意外と重いんだよ、あれ。
玄関、土間、台所、居間がくっついた部屋には夜の間中オイルヒーターを稼働させている。電気代がけっこうかかるが安全とニワトリたちの健康には欠かせない。最初ここに来た時は石油ストーブを使っていたが、危ないと思い人に譲った。俺の生活はニワトリ中心なのである。
おかげで我家は玄関の方が温かいのだ。ちなみに俺の寝る部屋にはハロゲンヒーターがあるのみである。布団に入れば消してしまうので夜中にトイレとかで目が覚めるとかなりつらい。
そろそろ居間にこたつを作ろうと思い、今日はこたつ布団等を干すことにした。え? 遅いって? そうかもしれないけど朝はオイルヒーターのおかげで温かいからいいんだよ。
今日はいつも通りポチとタマがツッタカターと出かけて行った。また泥だらけだったら困るなぁ。でも元気が一番だよな。
「ユマ、川をちょっと見てこよう」
「ミヨー」
川の周りは寒いし冷たいだろうが、ためらいもなく一緒に行ってくれる辺りかわいいと思う。まぁここらへんはポチもタマも同じなんだけど。足の裏とかって冷たくないんだろうか。
まだ川に氷が張る気配はなかった。さすがにザリガニの姿は見えない。いるとしてももう冬眠しているだろう。木が倒れたりとか、草が生えすぎて水が溜まっているとかそういう様子がないことを確認してから戻った。汚れが多いと水が淀むので管理は大事である。後は畑の見回りと、更地になった廃屋の場所を見るぐらいである。
「ホント、すっきりしたよなぁ……」
まだ数日しか経っていないせいか、ないということの違和感がすごい。でも本当にキレイになくなってしまっているから、そのうちここに家があったことも忘れてしまうんだろう。家のすぐ側にあった廃屋でさえそうなんだから、たまに行く町で店が変わったって気づくはずがないのだ。(普段使ってる店は除く)
明日は山倉の圭司さんが来る。お昼ごはんを何にしようか考える。気にしなくていいとは言われたがそういうわけにもいかないだろう。何せ山の中で採れるのはせいぜい木の実ぐらいである。(これは冗談だ)
「よし、買物に行くか」
「イクー」
冷蔵庫や食糧庫を覗いて、ちょっと足りない物を村へ買いに降りることにした。もちろんユマも一緒である。当たり前のように返事してくれるのがかわいい。ユマの尾がふりふり揺れていることからご機嫌なのがわかった。トカゲっぽい頑丈な尻尾だからあんまり可愛く見えないのはご愛敬である。下手なこと言ってあれを打ち付けられたら足の骨が折れそうだ。うちのニワトリ怖い。
さっそく村の雑貨屋へ行ったらおばさんに声をかけられた。
「佐野君はイノシシ狩りはしないのかい?」
「え? なんの話ですか?」
以前ニワトリたちがイノシシを狩ったという話はここのおばさんも知ってはいるが、最近はおっちゃんちで狩ったぐらいである。今月はまだそんな話は出ていないはずだった。
「いやぁ……狩りの季節が始まったじゃないの」
「ああそうですね。でも俺自身狩猟免許は持ってないんですよ」
「そうなのかい?」
罠猟も免許が必要だったはずだ。うちのニワトリたちが勝手に捕ってくる分には必要ないとは思うけど。買う物を買って帰ろうとしたら電話があった。おっちゃんからだった。
「もしもし?」
「昇平か? 明日はなんか予定あるか?」
「昼間は山倉さんの息子さんが来ますけど?」
「じゃあ夕方から泊まりに来い」
「どうかしたんですか?」
「イノシシが捕れたんだよ」
「あー……おめでとうございます。わかりました!」
明日の夜はおっちゃんちでイノシシ祭りのようだ。詳細は帰ってからまた聞くことにした。ニワトリたちを連れていってもいいのかとか、いろいろ確認しなければならないし。でもちょっとわくわくしてきたのは内緒である。
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