174.ニワトリのエサを調達しに
ニワトリたちが駐車場の周りで虫をつついている。飛んでいる虫などもひょいひょい捕っては食べているから、動体視力すごいなぁと感心してしまう。ユマは俺の側にいて、俺に向かって飛んでくる虫を捕まえては食べている。優しいんだよなと嬉しくなる。
そうやってのんびり待っていたら松山さんがニワトリの畜舎から出てきた。
「あ、佐野君。こんにちは。ちょっと待っててくれるかい?」
「こんにちはー。わかりました」
松山さんは畜舎の後ろに向かい、大きなバケツを持ってきた。いわゆるポリバケツである。
「あとはー……」
「何が必要か教えていただければ手伝います」
「えーと、それじゃあ……」
松山さんはうちのニワトリたちを見て考えるような顔をした。
「佐野君、ニワトリたちにどうやって餌をあげてる?」
「え?」
どうやってって言われても。
「ええと、金盥に餌を入れて、ですけど……」
「高さとか考えてる?」
「高さ、ですか?」
イマイチ、ピンとこない。
「普通のニワトリなら地面にタライを直置きでもいいけど、佐野君ちのニワトリは大きいだろう?」
「ああっ!」
言われてやっと気づいた。そういえばヒヨコが育った程度の大きさの頃からタライは土間に直置きしていた。そうなると首を前に倒して……。
愕然とした。俺はどれだけニワトリたちのことを考えてなかったんだろう。
「まぁ、ニワトリがここまで大きくなるとは誰も思わないからね。そうだな、せめてビールケースぐらいの高さはあった方が食べやすいんじゃないかな」
倉庫からビールケース等を出して裏返す。確かにこれぐらいの高さはないと食べづらいだろう。そこにボウルを置いて餌を入れてもらった。
「ポチ、タマ、ユマ、食べてみてくれ。口に合えば冬の間はこれを出すから」
ニワトリたちが頭をふりふり近づいてきて、各自ボウルに頭を突っ込んだ。高さがあった方が食べやすそうだった。確かビールケースならうちの倉庫にも転がっていた気がする。あったら掃除して使ってみることにしよう。もしなければどこかから調達した方がいいな。
「口に合ったみたいだね。よかったよかった」
三羽はガツガツと細かくなっている餌をよく食べた。ぺろりとキレイに平らげた後は、首を持ち上げて、コキャッと首を傾げた。これはあれだ。おかわりよこせだ。
「……すみません。もう少しいただいてもいいですか?」
「いいよいいよ。いやあ、佐野君ちのニワトリの口に合うなんて光栄だなぁ」
おじさんはとても嬉しそうに、ポリバケツから餌を掬うとまたタライに入れてくれた。
「これで終りだからな」
味見なんだからこれ以上は迷惑だろう。そう思って言ったらポチが首を上げた。そしてじっと俺を見る。なんだかその目が抗議しているみたいだった。
「……ポチ、今日は味見だから……」
……コッ! としぶしぶ返事してくれた。わかってくれて嬉しいよ。なんか家に帰ったらつつかれそうだけど。
「そんなに気に入ってくれたなら、このバケツ分は持って帰っていいよ。次来た時に返してくれればいいから」
「じゃあお金払います。おいくらですか?」
「この分はいいから」
「それじゃ気が済みませんよ。買わせてください」
押し問答をしていたらおばさんが家から出てきた。
「アンタ! 払うって言ってんだからもらっときな! その分もてなせばいいんだから!」
「それもそうだな」
「え、ええと、あのぅ……」
もてなしをする方が松山さんちの負担になるのではないだろうか。
「餌はいつから入用だい?」
「そうですね。11月以降にいただけると助かります」
「随分食べそうだもんね……。下手したら一樽分で三日も持たないんじゃないかい?」
マジか。まぁ確かにうちのニワトリたちはよく食べる。おばさんに言われてニワトリたちを見た。三羽はタライの中身をまたキレイに食べ切ったようだった。遊びに行きたそうな顔をして待っている。
「そうですね。事前に一樽分購入させてもらって、それで様子を見てもいいですか」
「かまわないよ。おなかいっぱいになったかい? 畜舎の方に近づかなければ遊んできていいよ」
コッ! とポチが返事をし、俺を見てからタマと共に駆けて行った。食べたらすぐ運動。俺なんかがそんなことをしたら脇腹が痛くなってたいへんそうだが、ニワトリは違うのだろうか。
「そっちの子はいいのかい?」
おばさんに聞かれてユマはコキャッと首を傾げた。ユマは俺の側にいてくれる。
「ユマは俺のことが心配らしくて、側にいてくれるんですよ」
「あらあら優しいのねぇ。大事にしてあげなよ」
「はい、ありがとうございます」
そうして餌の購入についての話を詰める為に松山さんのお宅にお邪魔した。ユマは外でのんびりするようだった。
またいろいろごちそうになった。鶏料理、最高である。大丈夫、うちのニワトリは絶対に食べない。
漬物がいっぱいに盛られ、チキンステーキ、竜田揚げ、鶏を使った煮物も出てきた。
「鶏ばっかですまんなぁ」
「いやいや、すごいですよ。とてもおいしいです!」
もりもり食べてご機嫌である。野菜は少ないが、やはり肉を食べないと活力が出ない。だからこれでいいのだと思う。
ごちそうさまでした。
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