175.冬はやっぱり雪がそれなりに降るらしい
お昼ご飯をいただいて、おばさんの話し相手をしてから帰った。
養鶏場なので基本は鶏の世話と家事などで一日が潰れてしまう。することがないよりはあった方がいいのだろうが、こうしてお客でもこないと話し相手がいないようなことは言っていた。
「うちの人と話したって楽しくもないでしょーよ」
おばさんが笑いながら言う。
「そうだなぁ。いつも同じ話しかせんもんなぁ」
松山さんが頭を掻いた。TVぐらいしか娯楽がないから話す内容も似たり寄ったりになってしまうのだという。
もちろん旅行等に出かけることもない。
「家空けるわけにはいかねえからな」
「そうですね」
生き物の面倒を看ているのだ。それはしょうがないことだった。相手はうちのニワトリではないのだ。それでも実家に帰った時は心配した。
お子さんはいるらしいが離れたところに暮らしていて、毎年春とお盆の頃ぐらいしかこないらしい。
「息子だからね、電話もあんまりしてこないんだわ」
おばさんが寂しそうに言う。母とはLINEは一応しているがそんなに頻繁にとはいえない。母に聞かれたことに答えるぐらいだ。もう少しこちらの生活のことなど書いて送った方がいいかもしれないと反省した。
そういえば息子さん家族は正月は帰ってこないのか気になったが、正月は雪深くなるので危ないということで、こないように言っているらしい。
そう、ここも山だからそれはしかたないことだ。俺たちの山ほどではないが、ここも多少上がってきたところにある。
「冬はやっぱり雪が降るんですか」
「ああ、麓でみぞれが降ってりゃあこっちは雪だな」
「やっぱり下と上では全然違うんですね」
「佐野君ちぐらい高いと夏もクーラーはいらなかったんじゃないか?」
「……さすがにいらないってほどではありませんでしたけど……朝晩は過ごしやすかったですね」
「そういうことだよ」
松山さんに言われて納得した。山は全体的に気温が低いのだ。確か1000mで3度下がるなんて話は聞いたことがある。さすがにうちの山は1000mもないけど1度違うだけでもえらい違いだろう。
「佐野君はいつ頃こっちに来たんだっけ?」
「3月の終わりぐらいですね」
「じゃあ雪降ったんじゃないの?」
「一度は降りましたね……」
ひよこたちと引きこもって寒さにぶるぶる震えていたからよくわからなかった。あの時は死なせないように必死だったし。それが今やあんなに逞しく……。
「早ければ11月頃から山には降り始めるから、ちゃんと備えた方がいいよ」
「ありがとうございます」
11月か。思っていたより早いかもしれない。
帰宅して、ポチとタマが遊びに行くのを見送ってから倉庫を漁った。倉庫は元庄屋さんの家の隣にあって、ほぼガラクタ置き場のようになっている。でもここから意外と使えるものが出てきたりするからバカにならない。……そーゆーこと言ってるから片付かないんだよな。自分でもよくわかってる。
しっかり扉を閉めていたつもりなのだが、開けたら蜘蛛の巣に突っ込んでしまった。なんでだ。
つか、入口に巣を張るなよって思う。でっかいジョロウグモが何すんのよとばかりに近づいてきて巣を修復しようとする。だからここに作るなっての。
「……こんなところに餌はこないから別のところに張ってくれよ~」
ぼやいて倉庫の床に置いてあるプラスチックのビールケースを見つけた。黄色い、ビール瓶が入っていただろうプラスチックケースを見てなつかしいなって思う。じいちゃんちにも普通にあった。昔は缶じゃなくてみんな瓶だったなーなんて思った。意外と数があったので三ケースを表に出し、外でよく洗った。さすがに埃まみれだった。年代物である。(古い物という意味で使ってみたかっただけだ)家の壁に立て掛けて夜までに乾けばいいなと思った。
中途半端な時間だったのであとは家の中を軽く掃除したりして過ごした。
夕飯時にはビールケースが役に立った。高さがあるので三羽とも食べやすそうだった。でも台としては穴だらけだから、なんか専用に買った方がいいかもしれない。そこはおいおい考えることにした。
「……今まで気づかなくてごめんな」
飼主失格だなって落ち込んだ。
でも
「……明日、相川さんたち来るから。ザリガニ掃除に」
「ワカッター」
「…………」
「ワカッター」
案の定タマは無言だった。
「ザリガニがいなくなったらもう来ないと思うからさ。タマ、頼むよ」
「……ワカッター」
しぶしぶという体でタマが返事をくれた。
「みんな、ありがとうなー」
なんだかんだいってうちのニワトリたちは優しい。苦手なら苦手でもかまわない。無理に好きになる必要はない。でも、ちょっとだけ妥協してもらえたらって思うのだ。
今日は養鶏場から、ニワトリたちの餌を買ってきたのとは別に鶏肉も買ってきた。養鶏場に行くと新鮮な鶏肉が食べられるのがいい。冷凍してあった肉ならそのまま分けてくれようとするのが問題だ。そんなにサービスしてもらうわけにはいかないからちゃんとお金を払ってきている。
「明日の昼飯どーすっかな……」
鶏肉料理って種類はいっぱいあるけど、明日は何が一番いいだろうか。
ーーーー
今月以降は一日二回更新です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます