173.冬支度をどんどんしていきます
……タマにつつかれて起きた。声をかけてくれればいいと思うんだけどそういうのはないんでしょうか。タマ的にはつついた方が早いんだろうな。
「おー、ありがと。……ってまた随分暴れてきたなぁ……」
ところどころ汚れているし、足元は泥だらけだ。うちの山は川が多いからもしかしたらぬかるんだところに突っ込んだのかもしれない。ユマは、と思うとどうやら一緒に昼寝していたらしく羽が何ヶ所かピンピン跳ねていた。かわいい。(土間でお座りして居間の方にもたれて昼寝するのだ)
タマを家の外に出し、土間をはいて汚れを表に出す。外はそれなりに暗くなってきていた。ポチは虫をつついていた。タマに負けず劣らず汚れている。
「お湯沸かすから待ってろよー」
日が陰ってくると水だけで洗うのはさすがに冷たい。ニワトリに風邪引かれても困るのでそこらへんはきちんとやることにしている。
「ガス、またそろそろ交換に行くようか……早い方がいいよな」
うちはプロパンガスなんである。都市ガスの方が安いらしいが山には来ない。それはもうしょうがない。不便は不便なりに楽しんでやっていけばいい。幸い電気は通ってるし。元庄屋さん、電気引いてくれててありがとう。台風でも大丈夫だった。当然ながら発電機もある。
「冬ってどれぐらい寒くなるんだろうなー……」
三月に来た当初もかなり寒かった。寒くて寒くてちょっと後悔したことを思い出した。お祭りが村の方であって、カラーひよこを三羽買って、一緒に寒さに震えたっけ。でもちっちゃくてかわいくて、俺が守らなければ死んでしまうって布団に入れて暖をとった。
それが今や……。
ちら、とざっと洗ったポチとタマを眺めた。視線に気づいたのか、タマがこっちを向く。ちょっと敏感すぎじゃないですかね。
いや、もちろんいつまでもひよこじゃ困るよ? 一緒になってふるふるしてちゃ困るよ? でもなぁ、大きさってものがさあ。イノシシとか狩っちゃうし、蛇はひょいひょい捕るし、スズメバチにも負けないし……そろそろクマとか狩ってきそうで怖い。クマさん可哀そうだから手加減してやってほしい。つか、クマ逃げろ。
ニワトリ繋がりで養鶏場を営んでいる松山さんに電話した。
「ニワトリのエサ? ああ、いいよ。備えて作ってるのがあるから譲ってあげるよ。でも佐野君ちのニワトリの口に合うかなぁ……」
「そうですね……じゃあ味見とかさせてもらいに行くことってできますか? もちろんお金は払いますんで」
「味見分ぐらいならサービスするよ。特に予定もないから来たい時に来てくれればいいよ」
松山さんはなかなか話が早かった。とても助かる。
「あ、そうだ。毎年冬の間はいるようだったら夏の頃には声かけてね。それによって飼料の準備とかも変わってくるから」
「ああ! そうですよね、すみません……」
こんなぎりぎりに声をかけていいものではなかった。
「今年はしょうがないよね。初めてのことだし」
「来年は早めに声をかけるようにします。さっそく明日お伺いしてもよろしいですか?」
「いいよー。昼前においで」
「ありがとうございます、伺います」
後ろにおばさんがいたらしい。またごちそうしてくれるようだ。手土産どうしよう。
どうせ行くのは明日だけじゃないから、明日は雑貨屋で物色して……通販で注文するのは紅茶と果物、どちらがいいだろうか。
アメリカザリガニも冬眠する前に食べてもらっちゃった方がいいよな。明日養鶏場行っていつ餌をもらうか話してからにするか。いろいろ考えることが多すぎて頭がパンクしそうである。でも本来冬支度ってそういうことだ。
「雪降ったらどうなるんだろうなぁ……」
車のタイヤに巻くチェーンも買ってある。いくら山道が舗装してあるといっても冬タイヤだけでは生きていけない。もちろん冬タイヤも大事だと思うから準備してある。
大分山も色づいてきた。ところどころ葉が黄色くなってきている。紅葉も見た。
「秋だよなぁ」
紅葉を見ながら露天風呂とか風情があっていいかもしれない。また今度相川さんちにお邪魔させてもらいに行こうと思った。
翌日、雑貨屋で豚肉のブロックを買って養鶏場へ出かけた。もちろんニワトリたちを全員連れてである。
朝ごはんの際に今日は養鶏場の方に行くと言ったら、ポチとタマは他人事のような顔をしていた。寒い間のごはんを味見してほしいから一緒に行こうと言ったがしぶしぶついてくるというかんじだった。さすがに昨日は暴れたりなかったのかもしれない。でも昼過ぎまで山登ってたはずなんだが……。自分のテリトリーで暴れ足りないということか。なかなか面倒だと思った。
で、昼前に養鶏場に着いた。
「ポチ、タマ、ユマ、ちょっと待っててくれ。遊びに行くなよ!」
釘を刺して家の呼び鈴を押す。すぐにおばさんが出てきてくれた。
「こんにちは、急なお願いをしてしまってすいません」
「佐野君こんにちは! あら、手土産なんかいいのに~。でもわかってるわね~」
豚肉の塊を受け取っておばさんはうふふと笑った。手土産としてはどうかと思うがチョイスは間違っていなかったらしい。
「うちの人、畜舎に行ってるからちょっと待っててね~」
「はい、ニワトリたちいるんで外で待ってますね」
確かニワトリの飼料はオリジナルブレンドだと言っていた。うちのニワトリたちが気に入ってくれるといいなと思いながら、松山さんが戻ってくるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます