172.ただのニワトリだけどえらいのである

 おっちゃんちから帰るという段になって、桂木妹はうちのニワトリたちを見て目を輝かせた。


「うわー、みんなおっきー! かわいーい!」


 山から戻ってきた時に見たはずだが、その時は近寄りたいのを我慢していたらしい。


「あの時はー、お仕事帰りだと思って自重しましたー!」


 うん、物言いはともかくそれなりにしっかりしている。一応軽トラに乗せる前に、ニワトリたちにはざっと水浴びをさせてもらった。


「昇ちゃんてば本当に几帳面よねぇ。こんなにちゃんとお世話されてれば満足よねー」


 おばさんが感心したように言う。いや、俺としてはいろいろうちの山に持ち込んでほしくないというのがあるのだけど。なにせたぬき捕まえてくれちゃったし。野生動物何持ってるかわからないし。

 うちのニワトリたちは基本キレイ好きだとは思うがニワトリの基準としてである。少し虫がついてるぐらいならポチもタマも気にしない。俺の身体についた虫とかはけっこうキレイにつついて取ってくれるんだけどな。毛だの羽だのがないから見つけやすいのかもしれない。

 みんなから離れたところでぶるぶるしてもらい、うちから持ってきたバスタオルで水気をざっときったところで、桂木妹が突撃してきたわけである。

 ユマは昨日会っているのでコキャッと首を傾げただけだったが、ポチとタマはその勢いに押されるようにして一歩下がった。おお、あのツンデレのタマさんが後ずさった! とかなんとか関係あんのかと突っ込まれそうなことを思ったら、何故か思ったことが伝わったのか、はたまた一歩下がったことを見られたのが恥ずかしかったのか、タマにつつかれた。なんでだ。


「やっぱりニワトリさんってつつくんですねー。触っちゃダメ?」


 桂木妹は首を傾げた。あざといけどかわいい仕草である。こういうのが好きな奴にはたまらないだろう。見た目かわいいし。

 ユマが桂木妹に一歩近づいた。


「わぁ! いいの? ありがとー」


 昨日のように優しく羽を撫でたりわしゃわしゃしたりする。ユマはなんだか気持ちよさそうだった。それを見てポチとタマも彼女に寄る。


「いいの? いいの? かわいーい!」


 なでなでわしゃわしゃ。

 そうだよな。男なんかより若くてかわいい娘に撫でられる方が嬉しいよな。俺はちょっとだけ遠い目をした。く、くやしくなんかないんだからねッ!(何故かツンデレ風味)


「リエ、迷惑だよ。そろそろ帰るよー」

「はーい! じゃあ大きいニワトリさんたちまたねー。おにーさん、ありがとうございました!」


 ぴょこんっ! と頭を下げて桂木妹は桂木さんの軽トラに向かって駆けて行った。


「…………」


 なんというか、台風みたいな娘だなと思った。桂木さんの軽トラを見送ってからニワトリたちを軽トラに乗せる。


「お疲れさまでした」

「佐野さんも、お疲れさまでした」


 相川さんとぺこぺこ頭を下げ合った。そうしてアメリカザリガニのことを思い出した。


「あ、そうだ。ザリガニのことなんですけど、明日改めて連絡してもいいですか?」

「はい、連絡お待ちしてますね」


 帰ったら養鶏場に電話しなくては。ニワトリの餌の確保は必至である。

 家に戻ってニワトリたちを軽トラから降ろしたら、ポチとタマが足をたしたしし始めた。太陽は傾いてきてはいるがまだ明るい時間である。


「日が暮れる前には帰ってこいよ。遊んできていいよ」

「イッテクルー!」

「イッテクルー!」


 ポチとタマはツッタカターと駆けて行った。元気だなぁと思った。


「……午前中に山登りしたってのに、なんでアイツらはあんなに元気なんだ……」


 俺はもう倒れたい。が、もらってきた白菜を保管場所に移さねば……。外側の部分もうちのニワトリたちは食べるからまとめてもらってきたのだ。


「どーせ畑に埋めちまうか燃やすだけだからなー。持ってけ持ってけ」


 とおっちゃんに言われてもらってきた。これだけでも餌代が助かる。そういえば野菜が豊作の年は出荷しないで潰すしかないようなことを聞いたことがある。そんなことがあるならうちのニワトリの餌としてもらえないかなと思ったりもする。もちろん売れるような部分だったらお金は払うけど。

 うちのニワトリはとても優秀で、白菜に虫がついてたら食べていいよ、でも葉っぱは食べないでくれと言っておくと、見えた虫だけキレイに食べてくれたりするのだ。野菜などは俺も食べるって認識してるからなんだろうな。本当にうちのニワトリたちはえらいんである。


「……また汚れて帰ってくるんだろうなー……」


 せっかくおっちゃんちでざっと洗ったのにと思わないでもない。でもまだ外は明るいのだから我慢させることはない。我慢させたっていいことなんかないし。

 だけど今日の俺はもう疲れた。


「ユマー……ちょっと昼寝するわ。みんなが帰ってきたら起こしてくれ……」

「ワカッター」


 土間から上がった居間で、俺はバタッと倒れた。

 それほど高い山ではなかったが、気を張りながらの行軍はなかなかに疲れたようである。

 もっと体力つけなきゃなーと思っているうちに意識が溶けていった。

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