171.うちのニワトリはただのニワトリです

「レンコン、そんなに好きなら持ってく?」


 とおばさんに聞かれたがさすがに断った。おっちゃんちで作っているものならともかく、そうでないものをいただくわけにはいかない。甘えるにも限度というものがある。


「そういえばイノシシ、どうしますか?」


 被害は絶対にたぬき程度ではおさまらないという。イノシシの繁殖時期の巣があったということは間違いなく増えているはずだ。おっちゃんが嘆息した。


「今年はうちの山も解禁するか。狩猟時期もそろそろだしな」

「そうですね。顔見知りには解禁してもいいかもしれません」


 相川さんが同意した。


「すいません、質問いいですかー?」


 桂木さんの妹が勢いよく手を上げる。


「おお、なんだ?」


 おっちゃんが楽しそうに応じた。


「しゅりょーってことは、銃とか持ってる人いるんですかー?」

「ああ、狩猟免許持ってる奴は大概持ってるんじゃねえか? 相川君とかな」

「すごーい!」


 相川さんはハハハと苦笑いした。できれば話のタネにしないでほしいのだろう。


「でもー、銃とかって危険じゃないんですか?」

「許可のあるところでしか使わないし、その時期にならなければ使用もしない」


 事務的に相川さんが答えた。桂木妹を見もしない。けっこう重症ではないかと思うが、俺が言うことでもなかった。


「へー。けっこう面倒くさいんですねー」


 人を殺せる武器なのだからある程度の規制はすべきだろう。ガチガチだなと思う部分もあるがしかたないとも思う。


「そういえば今日たぬき捕まえたんですよね? たぬきってどうするんですか?」


 桂木さんに聞かれて、おっちゃんは明後日の方向を見た。うまいものじゃないからそのまま駆除ってのはなんか言いづらいんだろう。


「たぬきは食べられないからそのまま駆除かな」


 俺が答えると、「おいしくないんですねー」と桂木さんは頷いた。ジビエは個体によって味が変わるから難しい。特に肉食が多い時期のたぬきは臭くて食べられたものではないようだ。確か食べる地域もあるらしいが、それも悪食をしないとされる11~2月ぐらいに食べると聞いたような気がする。


「たぬきもこの辺りいるんですかー?」


 桂木妹が聞く。


「おう、いるぞ。厄介なんだよなぁ」


 おっちゃんが苦笑して答えた。


「山が近いからですかー?」

「いや? 最近は餌があるから街中でもいるだろ? さすがに自然の少ないところにはいないんだろうが……」

「うちの周りでもたぬきが出たって聞いたことあるよ」

「えー? おねーちゃん、ホントにー?」


 たぬきの目撃情報は意外と多いのである。うちの実家の近くでも聞いた。まぁうちの実家は郊外でも田舎寄りだからそんなものだろう。


「そっかー、じゃあ田舎暮らしとかってけっこーたいへんなんですねー」

「住めば都だがなぁ。田舎に夢見て移住してくるのは勧めねえな」


 桂木妹、意外と話がわかる子のようだ。


「あ、でもでもー、おねえの畑はなんともないよねー?」


 桂木妹が首を傾げる。


「うちはタツキがいるからじゃないかな」

「ってことはー、おにーさんちの畑もなんともない?」


 うちのニワトリをドラゴンさんと同列に語るのはどうかと思うが、おそらくそういうことなんだろうとは思う。


「うん、虫と病気以外はないかな」

「そっかー。田舎暮らしには頼りになるペットが必要なんですねー」


 そこまで頼りになるペットはそうそういないとは思う。


「えーと、そちらのイケメンさんちは?」


 相川さんのことらしい。相川さんが固まった。


「相川さんちには大蛇がいるんだよ」

「大蛇!? うわー、どれぐらいの長さがあるんですかー?」

「5,6m? もっとありますか?」


 さすがに測ったわけではないのでよくわからない。


「そうですね……多分それぐらいはあるかと……」


 やっと相川さんが戻ってきて返事をした。でも桂木妹の方は絶対に見ない。


「じゃあ畑の被害とかないんですー?」

「……全然ないね」

「竜と、でっかいニワトリさんと大蛇さんかー。面白いですねー」


 そう言われてみると面白いかもしれない。ここまで揃うことは珍しいだろう。


「すいません、多分一週間ぐらい妹がこちらにいるかもしれません。できるだけご迷惑をかけないようにしますのでよろしくお願いします」


 桂木さんが申し訳なさそうに深々と頭を下げた。


「迷惑なんてこたあねえよ。花があっていいじゃねえか!」


 おっちゃんがガハハと笑う。一週間ぐらいならこちらに絡んでくることもないだろう。俺もそれなりに忙しいしな。


「なにか困ったことがあったら声をかけてくれればいいよ。応えられるかどうかはわからないけど」

「はい」

「おにーさん、そこは泥舟に乗ったつもりで任せて! って言う場面じゃないのー?」

「泥舟じゃ沈むぞ?」

「あれ? 木の船だっけ?」

「かちかち山か?」


 おっちゃんがまたガハハと笑った。


「んー、とにかくなんかソレ!」

「大船に乗ったつもりで、なんて無責任なことは言えないからね」

「真面目かっ!」

「いちいちネタ突っ込んでくんなー」


 うん、桂木妹面白い。一週間楽しんでいってくれればいいと思った。


ーーーーー

連載も二か月経ったので近況ノートを書きました。いつも応援ありがとうございます!

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16816927863152233089


明日以降は一日二話更新になります。

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