170.それほど高くなくても山登りはたいへん

 おっちゃんちの山は、うちや相川さんのところと違って畑からのスタートである。柿の木があるところまではそれなりの幅はあるが、舗装されているわけではないので危険だ。上るのはたいへんだがもう車では入らないとおっちゃんも言っている。


「やっぱここまで来てるな」


 おっちゃんが柿の木の周りを見回して言った。木の根元に毛が落ちていた。


「イノシシなら登れないが……タヌキもいるなこりゃ」

「厄介ですね」

「ああ、たまーに屋根裏とかに入ってくることがあるからな。巣作りとかされると厄介だ。うまくもねえし」


 せめておいしく食べられるならいいのだろうが、おいしくない害獣では積極的に捕りたいとも思わない。タヌキに関していうと鳥獣保護管理法とかいう面倒なのもあるし。

 確認してから更に山を登る。柿の木の枝が折れたりとか、ところどころ細い木が倒れていたりするのを確認した。ポイントポイントを見て回り、山の上について小休止してからは道なき道を行くことにした。おっちゃんにはメインの道を歩いてもらい、相川さんと俺がおっちゃんを挟んで10mぐらい離れていくかんじである。ニワトリたちには自由に回ってもいいが俺たちの姿が見えるところにいるようにと言いつけた。そうして草を刈ったりしながら麓に向かって下りていくと、クアーッと相川さんの向こうでポチが呼ぶ声が聞こえた。何か見つけたらしい。急いで駆けつけるとそれは木の下にあるうろだった。そういうところも見かけたら声をかけるように言っておいたのだ。


「こりゃあもしかしたらタヌキかもしれねえな」


 それほど大きな穴ではない。だが中が暗くて見えなかった。直接棒などで突くのは危ないので、枯れ枝を集めてきて煙などの風向きを確かめながら火を炊いた。残念ながら空振りだったが、その後二か所ぐらい怪しいうろを見つけた。


「ここも空ですかねー」


 どちらも火を炊いたがいなかった。残念だが、動物が住みやすそうな場所が多いことはわかった。

 麓に近いが、メインの道から30mほど西に怪しげな藪を見かけた。明らかに何者かが積み上げたような形である。ちょっと見ただけでは気づかないだろうが、なんかおかしいなと思ったのだ。一番最初に気づいたのはタマだった。


「あー、こんなところで繁殖してやがったかー……」


 おっちゃんが頭を抱えた。


「? これ、なんかの巣ですか?」

「多分もういないだろうがな。イノシシだよ。子育ての時期になるとこういう巣を作るんだ。とりあえず、いぶしてみっか」


 イノシシは巣を作るらしい。けっこう生態って知らないものだなと思った。

 風向きなどを考慮して、ダメ元でいぶしたら一匹出てきた。イノシシじゃなくてタヌキだった。ポチが踏んで捕まえてくれた。


「おー、ポチ。ありがとうなー。助かったわ」


 タマがコキャッと首を傾げた。

 食べるのかどうか聞きたいのだろう。


「これ、食べませんよね」

「まだこの時期はまずくて食えたもんじゃねえ。役場に持ってって処分だな」


 タマはがっかりしたようだった。どうせ食べるならおいしいもの食べたいだろ?


「でもこれ、なんか鳥獣保護法とか……」

「捕ったのはニワトリじゃねえか。勝手に捕まえてやっちまったとでも言えば問題ねえよ」


 実際捕ったのはポチだしな。嘘はついてない。生かしておいても困るのでおっちゃんがしめた。農家はたいへんだ。人が食べるものを作る他に害獣なども相手しなければならないし、人間が作った法律なども守らなければならない。そりゃあ年々農家が減っていくわけである。タヌキはポリ袋に入れ、一応手を合わせた。

 それから東側を見たりといろいろ回ったが、今回の収穫はタヌキが一匹だけだった。それでも収穫があるだけすごいとは思った。

 畑に下りてほっとした。途中柿の木から大きな柿をいくつか取ってきた。


「おかえりー、どうだったー?」


 家に近づくと、縁側でおばさんと桂木さん姉妹がお茶を飲んでいるのが見えた。


「タヌキ一匹だ。あとで役場へ持ってく」

「そう」


 家に上がる前によく作業着をはたいていたら、ニワトリたちが俺たちをツンツンつついて掃除してくれた。


「おお! やっぱニワトリいいな! タマ、ありがとよ!」


 おっちゃんが感動したように言った。相川さんはポチが、俺のことはユマがつついてくれた。よーく手を洗って家に上がる。今日の昼ごはんもなかなかに豪勢だった。


「おばさん、いつもありがとうございます」

「お礼なんか言うことないのよ。昇ちゃん、相川君、いつもありがとうね」


 恐縮する。俺たちにはそれぐらいしかできないからいいのだ。

 今回は煮物が多い。里芋と鶏肉の煮物がとてもおいしかった。レンコンのきんぴらも。


「レンコンって村で採れますか?」

「蓮専用の池を持ってる家はあるけど、あんまりこの村では作ってないねえ」

「じゃあ雑貨屋で買うかんじですか?」

「うちは野菜同士交換だよ」

「ですよねー」


 レンコン好きなんだよな。池を持っているというお宅を教えてもらおうと思った。できれば売ってほしい。

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