166.台風の後始末には時間がかかるようです
金具って意外と持ってそうでないものだ。うちの工具箱などを見てみたが、さすがに扉を取り付ける
おっちゃんが倉庫などを探してやっと見つけたらしい。ちょっと錆びていたから磨いたと言っていた。当然ながら桂木さんに確認済だ。(昨夜桂木さんはおっちゃんちに泊まった)
「これでつけられるといいんだがな」
桂木さんの家の横の倉庫から以前使っていた柵を取り出し、麓まで運んで作業をした。どうにか取り付けられて、みなでほっとした。
「あ、南京錠……」
そういえば、と壊れた柵についてた南京錠を取って再利用した。けっこう丈夫なもんなんだなと感心した。
「産廃の業者が明日取りにくることになってるから、半分に切断しちまおう」
ということでおっちゃんが持ってきた工具で柵の鉄の枠の部分を切った。(鉄が切れるノコギリなんてあるんだな)金網の部分は慎重に折ったので怪我などはしなかった。こういうところで気を抜くと怪我をする。
「本当にありがとうございました。お礼はまた後日改めてします」
「いいってことよ! 困った時はお互いさまだろ!」
桂木さんが深々と頭を下げた。おっちゃんがガハハと笑って気にするなという。
「いえいえ、そういうことはきちんとさせてくださいね~」
明日も産廃業者が来たら立ち会うことにして、今日は疲れているだろうからと撤収した。
「明日終わったらN町まで買い出しに行きませんか?」
桂木さんがしっかり鍵をかけて柵の向こうから手を振ったのに振り返してから、相川さんに言われた。それもいいかなと思った。
「桂木さんにも声かけてみます?」
「……うーん、それでもいいんですけど……リンがいるので……」
「あー、そうですよねー……」
買い出しには必ずリンさんが付いてくるという。さすがにリンさんの正体を知られるわけにはいかない。そうじゃなくても妙齢の女性が苦手なのは継続中なようだった。
「ってことは明日の立ち会いにもリンさん付き合います?」
「いえ、それはさすがに。うちの麓の近くで待っているというのでピックアップしていこうかと。けっこうドライブ好きなんですよ」
「へえ」
テンさんとは違うらしい。テンさんはあまり外に出たくないと言っていた気がする。
「明後日は……おっちゃんちの山の確認をしに行こうと思っているんですが……」
「ああ、そうですね。なんともないようなことはおっしゃられていましたが、獣害の件もありますから見に行った方がいいですよね」
たぬきの姿もそれなりに見ると聞いたが、たぬきは鳥獣保護管理法とかいうので守られているので狩猟許可等がないと難しいそうだ。許可を取れば罠を設置して捕ることも可能らしいが、イノシシやシカと違って食べられないらしい。
「あんなもんとても食えたもんじゃねえ」
とおっちゃんが言っていた。
「たぬき、ですか……うちは食べているところは見かけませんね」
たぬきの害などもあるのでは、という話からたぬきってどうなんでしょうといったところで、相川さんからはそんな返しがあった。相川さんからするとリンさんたちが食べているのを見ているか見ていないからしい。ちなみに畑への獣害は一切ないそうだ。そういえばうちも畑に獣害ってないな。虫害っぽいのはたまにあるけど、虫がーって言ってればニワトリが食べてくれるしな。便利だ。ニワトリのおかげで無農薬農薬を撒くぐらいでなんちゃって農業ができている。うん、やはりうちのニワトリたちの経済効果はすごいぞ、うち限定だが。
「たぬきってまずいって聞きますけど、昔話なんかのたぬき汁ってどうだったんでしょうね」
「うーん、たぬきは雑食ですから肉類を多く食べていると匂いがひどいなんて話は聞いたことがあります」
「食べ物によるんですね」
「そういうことでしょうね」
ちなみにたぬき汁とはこんにゃくのみそ汁のこともそう言うらしい。精進料理であると聞いた。実際たぬきやムジナ(ニホンアナグマ)の肉を使って作った汁のこともいうらしいが、獣臭が強いので今ではあまり聞かない。ただムジナを使った汁は美味らしい。
もし捕まえたなら食べた方がいいのだろうが、たぬきだけは遠慮した方がいいかもしれないと思った。(雑食なので食べる物によるそうです)
そんなこんなでまた次の日、桂木さんの山の麓で産廃業者が柵の残骸を引き取りにきたのに立ち会った。業者が来るのでニワトリたちには遠慮してもらった。さすがにうちのニワトリはもうでかすぎる。ユマは後で迎えに行くことになっていた。
こちらの産廃業者はおっちゃんも使っている業者さんらしい。
「河野(こうの)と申します。お三方とも山で暮らされてるんですか? なかなかたいへんでしょう」
四十代ぐらいの優しそうな顔をしたおじさんと、金髪の若いにーちゃんがやってきた。挨拶をしてくれたのは社長だという四十代のおじさんである。
「そうですね。でもまぁ、住めば都です」
相川さんがそつなく答えた。
「もしお困りのことがあればなんでもおっしゃってください。解体なども請け負いますので」
と聞いて驚いた。
「あー、そういえばそういうこともやってたか」
おっちゃんが今やっと思い出したように呟いて、頭を掻いた。おっちゃんの場合大概のことは自分でやってしまうので忘れていたようだった。
「ごみの処理だけではなかなかやっていけませんからね。どちらかといえば壊す、捨てるが専門です。倒木の撤去作業なども請け負いますよ」
俺はおっちゃんをじとーっと見つめた。
「い、いいじゃねえか。どうにかなったんだし」
「そうですね。その節はお世話になりました。ありがとうございました」
倒木については一昨日撤去したばかりだが、なんかいろいろあってもう何日も経っているような気がする。こっちにもあっちにもお礼をしないといけない。身内だからそれが面倒とは思わないが、そうでなければ面倒である。知り合いが誰もいなければこういう業者に頼んだ方がいいだろう。
名刺をもらい、壊れた柵を運んでいってもらった。
「ありがとうございました。……処分するのにもお金かかりますねー。勢いであんな大きい柵取り付けなきゃよかったです。もー、原因を作った本人に請求したいぐらいですよー!」
桂木さんがものすごく怒っていた。
「そうだなぁ。でも、またあの人と関わりたい?」
「絶対に関わりたくないです!!」
即答だった。おっちゃんには明日山を見に行くという話をした。「悪いなぁ」なんて言いながらおっちゃんは嬉しそうだった。
「今日これからN町に買い出しに行くけど、なんか買ってくるものある?」
桂木さんに聞いたら食いつかれた。
「えー? 私も一緒に行っちゃまずいですか?」
俺は相川さんと顔を見合わせた。
「リンが……一緒に行くので……その」
相川さんが言いにくそうに呟く。それで桂木さんは察したようだった。
「あー……そうですよね。じゃあ遠慮しておきます。リスト、LINEで送るんでお願いします」
「わかった。帰りに寄るよ」
「お願いします」
そうして一度解散した。
俺はユマをピックアップし、相川さんはリンさんを連れて、西の山の麓で合流した。
「……まだ苦手ですか」
「……そうですね。ご迷惑おかけします」
「いえ、迷惑なんかじゃないですよ」
相川さんの、妙齢の女性への苦手意識はなかなか消えないようだ。急ぐことはないだろうし、相川さんの人生だから俺がとやかく言う必要もない。そうしてN町へ向かった。
ーーーーー
昨日レビューコメントいただきました! ありがとうございます!
アルファポリス版からは多少修正はして上げています~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます