165.また明日も作業します

 桂木さんの山の内側の柵についてはおっちゃんと相川さんも知っているので、一応内側の柵だけでも一日二日は大丈夫だろうと判断したようだった。俺も一応大丈夫だと思う。もうストーカー男はいないから、2mぐらいの柵で十分だろう。


「ちょっと4mはやりすぎましたかねー」


 桂木さんはそう言って舌を出したが、あれが恐怖にかられて設置した気持ちの高さだったのだろうと思う。いろいろなところに爪痕を残していくものだ。


「みやちゃん、大丈夫だった?」

「おばさん、ご心配をおかけして……」

「いいのよ、そんなことは! 柵が壊れたんですって? 怪我とかしてない? もう昇ちゃんとかうちの人なんかいくらでもこき使ってやってちょうだい!」


 おっちゃんちに戻るとおばさんが家の外でうろうろしながら待っていた。その姿を見て、俺も心配かけてしまったのかもしれないと反省した。力仕事は以前より筋肉がついたので任せてほしいと思う。

 何事かとユマが近くまできてくれた。


「ユマ、ただいま。また後でなー」


 ユマは俺の側まで来てなんともないことを確認すると、また畑に戻っていった。


「ユマちゃん、優しいですねー」

「お土産がないか確認してたのかもしれないぞー」


 桂木さんが感心したように言った言葉に、おっちゃんが茶化すように返した。俺としては別にそれでもいい。


「ユマがよければそれでいいんですよー」


 と笑って応えた。確認しに来てくれたことが嬉しいのだから。


「めろめろだな」

「おっちゃん、それは死語だよ」

「なんだとー!?」


 みんな笑顔でよかったよかったと言い合った。桂木さんは荷台にドラゴンさんを載せてきていた。ドラゴンさんはのっそりと荷台から下りると、家の横の影に納まった。普段あまり動かないけど、やる時はやるドラゴンさんである。


「タツキさん、こんにちは。うちのニワトリたちもいますのでよろしくお願いします」


 改めて挨拶したら、目を細めて軽く頷いてくれたように見えた。ドラゴンさんに限ってそんなことはないだろうと思うが、うまそうなニワトリがいる、パクッとしようとしたら戦争勃発なんてことは勘弁してほしいのだ。うちのニワトリ三羽とドラゴンさんだと決着がつく気がしない。

 おっちゃんちに入り、居間で一息ついたらまたおばさんがいろいろ用意してくれたのでみんなでわいわい食べた。桂木さんがおばさんの手伝いをしようとしたが、


「今日は疲れたでしょう。いいのよ、座ってて」


 と言われて戻ってきた。


「私、何もやってないんですが……」

「精神的に疲れただろ? おばさんがいいって言ってるんだから気にすることないって」


 なんなら俺が手伝うし。料理運ぶぐらいしかできないけど。今日は桂木さんを奥に座らせて、お盆を運んだりは相川さんがかってでてくれた。うん、役立たずは俺である。


「残り物でごめんねー」


 天ぷらや唐揚げ、煮物と漬物が並ぶ。どこが残り物だというのか。意外と腹がすいていたらしく、みんないくらでも食べられた。ってよく考えたら午前中は木を切って運んで、午後は桂木さんちの柵を外してたじゃないか。腹も減るはずである。


「内側に柵があるって聞いたけど、本当に大丈夫なの?」

「はい、高さも2mはありますから大丈夫です」

「明日には手前の柵をまたつけられるのかしら?」

「金具さえありゃあすぐつくだろう」


 おじさんが答えた。


「でもねぇ……心配だわ。今夜はうちに泊まっていったらどう?」

「とても魅力的なお誘いなんですが、着替えがないので……」


 桂木さんがやんわりと断る。


「私のでよければ下着も新品があるから貸してあげるわよ?」


 いや、いくら新品でもおばちゃんのじゃなぁ……とか俺が余計なことを考えてしまった。以前は柵が一つだった(外側)というから内側に一つでも問題はないだろうけど心配という気持ちもわかる。そうしてふと思った。桂木さんの山の麓に柵の残骸を置いてきているのだ。明日行ったらごみが増えているなんてことにならなければいいけど。あと、今日もし桂木さんが山に帰らないなら外側の柵のところにロープなどをかけた方がいいのではないかと思った。

 それを提案すると、壊れた柵にはビニールシートを被せることにしようとか案がでてきた。桂木さんは恐縮していたが、とにかく不法投棄をされない為にはできるだけキレイにしておく他ないのだ。

 人間というのは不思議なもので、キレイなところにはごみを捨てないが、ごみがちらほらあるところには平気でごみを捨てるのである。銀行に五分用があると自転車を停めて戻ってきたら、本当は停めてはいけないところなのに自転車がずらーっと並んでいたなんて経験はないだろうか。あの時ごめんなさいごめんなさいと思いながら逃げるように帰ったことを思い出した。そんな話をしたら、確かにそうかもしれない~とみんな笑った。

 おばさんが心配だというので桂木さんは今夜おっちゃんちに泊まることになった。食休みをしてからまた桂木さんの山の麓に行って作業をし、明日やるべきことを確認してから帰路についた。帰る時ポチとタマがまたおっちゃんちの畑から山を見上げていたりしたが、「行かないよ」と言ったら興味を失ったようだった。今日も濃い一日だったと思う。

 とりあえずうちにある工具の確認をして、いつも通りユマとお風呂に入って寝た。


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