167.そんな展開は望んでいなかった

 隣同士で駐車場に軽トラを停める。窓を開けておけばリンさんとユマが何やらおしゃべりを始める。声を発してることもあれば、ただ二人で見つめ合っていることもある。仲がいいなって思いながらスーパーだの銀行だのと各自用事を済ませに向かった。


「すいません、お一人ですかー?」


 スーパーの近くで桂木さんからのLINEを確認していたらそんな声がして顔を上げた。その時は、もしかしたら相川さんが近くにいてナンパでもされたのかと思っていた。が、違った。


「? 俺?」


 自分を指さしてしまった。


「はい!」


 すぐ目の前にギャル(死語)がいた。このギャル、どっかで見たような……。


「ごめん、一人じゃないし忙しいんだ。他あたって」

「そうなんですかー? じゃあじゃあー、おにーさんK村への行き方って知りません?」


 ギャルから離れようとした俺の足が止まった。K村といえば麓の村のことである。


「……誰か知り合いとかいないの?」

「姉がいるんですけどー、できればサプライズで行きたいなーって思っててー」

「……そうなんだ」


 なんだか嫌な予感がひしひしとする。兄弟いるようなこと言ってたっけ? なんか似てるようにも思えるけど、まさかなとも。さすがに世界はそんなに狭くないと思いたい。


「行く方法が見つかるといいね」


 関わり合いにはなりたくないと思い踵を返したら、相川さんが前から歩いてくるところだった。なんてタイミングが悪い。


「佐野さん、これからスーパーですか」

「ええ」


 相川さんは俺の後ろにいるだろうギャルには気づいていないようだった。意外と視野が狭いんだよな。


「桂木さんに頼まれた分もあるんですよね」

「ええ……」


 あああ、今ちょっとその名前は聞きたくなかった。


「桂木? 今おにーさん、桂木って言った?」


 後ろから案の定ギャルが出てきた。相川さんは瞬時に固まった。


「……聞き間違いじゃないかな」


 どうあっても回避したくて彼女の方は見ないことにした。


「じゃあおにーさんなんて言ったの?」


 詰め寄られた相川さんが後ずさる。その顔色に気づいたのか、彼女も一歩下がった。


「ごめんなさい、アタシ距離感近いって言われてて! もし、桂木実弥子って女の人のこと知ってたら教えてほしいです!」


 あー、言っちゃったよこの子……。

 俺は内心頭を抱えたくなった。


「あのさ……俺たちがその桂木さんって人を知ってるって嘘ついて、君に悪いことをしようと考えてたらどうするの?」


 桂木さんもそうなのだか、どうもこの姉妹には危機感が足りないように見える。


「あ! そうですね! よく姉にもそれで怒られてて! ……おにーさん、悪い人?」


 困ったような顔をして首を傾げた彼女を見て、頭悪そうだけど憎めないなって思った。ここで本当に悪い人に捕まっても困るので保護することにしよう。気分は保育園児を保護する保父さんである。なったことないけど。俺はまだ固まっている相川さんに声をかけた。


「相川さん、どうもこのお嬢さん桂木さんの妹さんみたいですよ」

「あ、ああ……そうなん、ですね……」


 呆然としたように相川さんがどうにか応えた。


「一つ確認するけど、お姉さんはK村のどこにいるって聞いてる?」

「んー……」


 彼女は首を傾げた。


「なんかー……山って聞いた気がしますー。でっかい竜がいるって聞いてー、いいなーって」

「……わかった。ちょっと買物だけ付き合ってくれたら近くまでは連れて行くよ」

「うわー、おにーさん話わかる! あ、でも悪い人じゃない?」


 保育園児かな。


「悪い人かもしれないよ」

「や、優しくしてねー」


 悪いけど欲情しそうもないなぁ。


「バカなこと言ってないで買物しよう。相川さんは?」

「……これからです」


 というわけでスーパーで一緒に買物をした。その間に軽く桂木さんにLINEを入れた。


「妹っている? 今N町にいる」


 すぐに返事があった。


「名前聞いてください。リエです」

「OK」

「そういえばお嬢さんの名前は?」

「ナンパですか? リエでーす。18歳。結婚もできちゃいますよー」


 わざわざポーズつけなくてもいいから。


「リエ、18歳だって」

「妹みたいです……申し訳ありません」


 ビンゴだった。こういうわけわからない引き、どうにかならないもんか。


「結婚したいの?」

「できれば! 結婚して専業主婦になって三食昼寝付き生活したいですー」

「……なかなかに正直だね」

「よく言われます!」


 いいキャラだと思うけどちょっと疲れるかんじだった。


「昼飯どうしますか?」


 相川さんに聞いてみた。


「買って……帰ってからで」

「わかりました」

「えー、外食しないんですかー? おごってもらおうと思ったのにー」


 いさぎいいな。そういうの嫌いじゃない。おごらないけど。


「おごらないよ。連れて行ってあげるんだからかえってお礼がほしいぐらいだ」

「おにーさんモテないよー?」

「いいよ」

「おにーさん、面白いねー」


 買物を終えて、駐車場に戻る時になってはっとした。


「あ」

「どうしたんですかー?」

「座席がない」

「えー?」


 ユマを荷台に、と思ったのだが座席は外して山の家に保管してあるのだ。座る場所がない。街中で荷台に乗せたら捕まるだろうか。


「座席ないけど、乗ってみる? 町から出たら荷台に移ってもらうけど」

「何ソレ、ちょー面白そー」


 意外とウケタようだった。

 彼女はユマを見て目を輝かせた。


「うわー! おおきーい! 何コレ、かわいーい! さ、触っていい?」


 ユマがナニコレ? ってコキャッと首を傾げた。


「桂木さんの妹さんみたいだよ」


 それなら、みたいなかんじでユマは彼女に触らせてくれた。


「うわー、羽キレー! かわいーい!」


 彼女はユマを褒めまくったのでいい子だと思う。ユマもまんざらではない顔をしていた。俺たちけっこう単純だな。


「じゃあ行くよ。しっかり捕まってて」

「はい!」


 本当は座席がないところに人を乗せるのもアウトだろうが、クーラーボックスを座席代わりにして乗ってもらった。動くから危険だと思うので町から出たら荷台に移ることになっている。相川さんには先に帰ってもらった。後で相川さんちにお邪魔することになっている。

 そうして俺は、偶然出会った桂木さんの妹と共に戻ったのだった。



ーーーー

書いてて楽しいです。リエちゃん、イイ子です(笑)

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