156.重機の免許はあった方がいいかもしれない
次の日は歩いて危険箇所などをメモして回った。木が密集しているところや倒れているところなども忘れずに。こういうのを放置しておくとたいへんなことになるのだ。倒れた木は撤去した方がいい。確か村で重機の貸し出しをしていたはずだ。聞いてみることにしよう。
と思って村の役場に電話したらすでに貸し出し中で、今月いっぱいは予約が満杯で無理だと言われた。
「台風がくるっつーから予約がいっぱいなんですよ」
「ああ……そうですよねぇ……」
みんな考えることは一緒だ。
「山で暮らされるなら一台ぐらい買われた方がいいと思いますよー」
そんなことはわかっているがそれなりの値段はするのだ。おいそれとは買えない。
重機なぁ、重機。ショベルカーとか一台あるだけで違うよなぁ。いやちょっと待て。そういうの買う前にそもそのその手の免許がなきゃだめじゃん。免許取るにもお金が必要だし。世知辛い世の中だ。
重機借りられたとしてもそもそも免許なかったじゃん。だめだめだ。
という愚痴を相川さんとおっちゃんにしてみた。
「免許は持ってた方がいいですけど、公道に出なければ免許なしでも……」
相川さんがあっけらかんと言った。ああそっか免許って公道を走らせる為のもので……つっても借りたら公道走らせてくるよな。やっぱだめだよな。
「僕は一応、一通り免許は取ってますから重機が借りれればどうにかなりますけど……」
さすが相川さんである。
「おっちゃんは?」
「俺は一応……小型車両系のは講習を受けたぞ。確か、3t未満だったら油圧ショベルとかブルドーザーも扱えるな」
「おおう……」
やっぱり講習など受けているものらしい。やっぱり山って気軽に買っていいものではないのだということがわかった。
「油圧ショベルぐらいは扱えた方がいいだろうな」
「ですよね。教習所とか行けばいいんですか?」
「普通に免許持ってるんだから所定の時間講習を受ければいいはずだぞ。物にはよるが」
「わかりました。調べてみます」
いろいろ面倒くさそうだ。
「ところでおっちゃんは持ってないの?」
「うちも前は持ってたんだがなー。畑を縮小したから売っちまった」
年を取るとさすがにいろいろ維持していくのも難しいんだろう。跡取り問題とかどうするんだろうと思ったが、それは俺には関係ないので考えないことにした。
「……そろそろうちで買った方がいいかもしれませんね。そうすればお手伝いもできますし」
相川さんは株で稼いでるからって気前がよすぎである。
「あればあったで便利だろうが……まぁ、相川君はそんなに村の
「? なんで付き合いがないといいんです?」
首を傾げる。
「あんまりこういうことは言いたかねえが、どこどこの家の者が持ってるとか言うとそれを便利に使おうとする奴が必ず出てくんだよ。村の重機ならみんなのものだからいいが、個人に負担をかけるわけにはいかねえだろ?」
そういうものなのか。相川さんは笑んだ。
「湯本さんがいろいろ考えてくださるのでとても助かります。一応重機は今のところ陸奥さんが所持されてますのでそちらを借りたりはしているんですよ。ただこういう台風とかがあった時は自分で持っていた方がいいかと思いまして。佐野さんとか、桂木さんが困っていたら助けることもできるじゃないですか」
「相川君がいい奴だってことは俺も知ってる。山繋がりで仲がいいのはいいが、無理はしないでくれよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
重機系の免許は一応取っておいた方がいいな。真面目に調べてみようと思った。
山についてはとりあえず応急処置で網をかけたり、倉庫に残っていた柵を挿したりと、できるだけ補強はしてみた。アスファルトの舗装は見積もりをとってやってもらうようらしい。私有地だしな。
昼は煮込みうどんにした。おっちゃんがうどんを打ってきてくれたのだ。
「蕎麦打ちのついでだからな」
「おいしい……」
「自分で作るっていいですね」
おっちゃんは蕎麦を打つのが趣味らしく、俺も何度かお土産にもらっている。でもみんなで囲むならやっぱり煮込み系の鍋がいい。
今回は当然のことながらリンさんも同行していないので、タマには朝乗られるぐらいで済んだ。ポチとタマは一日中山の中を駆けずり回っている。ユマは土間で野菜くずと肉の切れ端を食べ、後は家の周りや畑、俺の見回りについてきていろいろ摘まんでいた。
「そういや、相川君とこの大蛇は冬眠するのか?」
「ええ、します」
「そうか、なら食料にはそれほど困らないか」
「そうですね」
相川さんは苦笑した。リンさんは起きているから多少は考えるようだろう。
「昇平、冬の間ニワトリの食料はどうするんだ?」
「N町で買い込んでくるのと……あとは養鶏場で分けてもらうようですかね」
「そうだな。潰しちまうわけにはいかねえからな」
おっちゃんがユマを眺めて物騒なことを言った。
「……多分ですけど、返り討ちに遭いますよ」
「違えねえ」
おっちゃんはガハハと笑ったが、ユマがじっとこちらを見ていた。ちょっと怖かった。
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