155.定期的なメンテナンスは重要です
リンさんの細腕に食い込むぐらいアメリカザリガニをバケツに入れて、彼らは上機嫌だった。それは全然かまわないのだが、どこにあんなにいたのだろう。なかなかにざわざわする。
「思ったよりいるようですから、来週も参りますね。ニワトリさんたちによろしく」
「ありがとうございました、また」
日が暮れる前に相川さん一行は帰って行った。軽トラの最大積載量について雑談した際、そろそろもっと積載量が多くてもいいものに替えなくてはと言っていた。
「軽トラは350kgまでなのでもっと積めるのに替えたいですね」
相川さんはそう言っていた。もっと積めるとなると小型トラックになるのだろうか。うちの山道では無理そうな気がする。
「今年に入ってから更に成長している気はします。……もしかして、相乗効果みたいなものがあるんですかね」
ユマを見ながら相川さんが言う。負けじと成長したりするんだろうか。うちの周りの動物たちはいったいどこまで育ってしまうんだろう。
「ニワトリさんたちもどこまで大きくなるんでしょうね」
「今ぐらいで止まってくれるといいんですけどね~」
今はポチがトサカの分一番大きくて俺の胸辺りまで背がある。これぐらいで留めてくれないとユマはもう軽トラの助手席には載せられないかもしれない。そんなことを言っていたら、それを聞いていたらしいユマがすりっと擦り寄ってきた。
「? ユマ? どうしたんだ?」
「佐野さんは本当にニワトリさんたちに好かれていますね」
「ええ……まぁ……」
好かれている自覚はあるけど、このすりっの意味がわからなくて困った。
「ユマ?」
そんなつぶらな瞳で見つめられてもわからないって。
「今日は出かけないぞ?」
「……ワカッター」
なんか出かけると思われたらしい。もしかして軽トラの助手席の話をしていたからだろうか。やっぱりタマほどの理解はしていないようだ。そこがまたかわいいんだが。(ニワトリバカだって? ほっとけ)
そんなこんなで相川さんたちを見送った後でポチとタマが戻ってきた。
「ポチ、タマ、おかえり。相川さんたちは帰ったよ」
「タダイマー」
「タダイマー」
とてもいい返事である。タライを出してお湯を足し、二羽をざっと洗う。秋の日はつるべ落としだよなって、西の空を見ながらいつも思う。もう少ししたら家の中で洗うことになるのだろうか。だいぶ寒くなってきた。俺はともかく、ニワトリたちに風邪を引かせるわけにはいかない。
「また相川さんたちには来週来てもらうから。思ったよりザリガニ多いみたいでさ。近くだけじゃなくてどの川にもいるっぽいんだよなー」
そんなにがんばって繁殖しなくてもいいじゃないかと思う。手入れを怠ればすぐそういうことになるのだ。かつてはこの山にも水田があったと聞いている。でももうその痕跡は全くない。もしかしたらそこらへんをある程度掘り返してみればわかるのかもしれないけど、そこまでする気にはなれないし。
翌日は山の中の道路をじっくりと見て回った。昨夜ニュースを見ていた時、台風が発生したと出ていたのだ。幸い今年はまだこの辺は影響を受けていないが、台風の備えも必須だろう。そんなわけで道路の舗装状況(アスファルトが割れてないかなど)や、その山肌などを確認することにした。以前相川さんに教えてもらった柵をつけたところは大丈夫そうだったが、他がちょっとあやしい。
「もう全部柵つけるかネットで覆うとかした方がいいんだろうなー」
木なども密集しているところはできるだけ切ってメンテナンスもしなければならない。重機はないからチェーンソーで切っていくようだ。
「木、切ってもいいけどどーすっかな……」
炭焼きでもするか。一人じゃ難しいけど。川の水のろ過装置にも炭は必須だ。
一人でやるには限界もある。木を切るにしても素人じゃ自分がその木の下敷きになりかねないし。
そんな時は、
「相川さん、昨日はありがとうございました。すみません、また相談があるんですけど……」
先達に聞くのが一番である。もちろんおっちゃんにも連絡した。なんでもかんでも聞くのはどうかと思うが、すぐ近くに経験者がいるのに話を聞かないのはもったいない。
「そうですね。台風も確かに来ていますし……じゃあ明後日にまた伺いますよ。応急処置できるところはしてしまいましょう。その代わり、うちの山も手伝ってくださいね」
「はい! ありがとうございます、助かります!」
おっちゃんにも聞いたら畑の後ろの山を改めて見てくるそうだ。今のところイノシシ被害はないらしい。(まだ数日だからわからない)
明後日はうちを見てもらって対策できるところはして、その次は相川さんちの山、そのまた次はおっちゃんのところの山を見に行くことになった。桂木さんはというともう村の人に頼んでいるらしい。仕事が早い。さすが女子だなと思った。
「ええー? 佐野さんたちは自分たちでされるんですか? そしたら私も入れてもらえばよかったー」
「いやいや、女の子にそんな力仕事はさせられないから」
「それって偏見じゃありません?」
「俺の中の女の子像はそうなんだよ。そりゃあ桂木さんが筋骨隆々な女子だったら一緒にやろうってなるけどさ」
「私だって筋肉ついてきたんですよー」
「だからさ、自分の身を守れない子を守り切る自信は俺にはないんだって」
男なら自力でどうにかしろって思うけど。だって俺男だし。
「むむむむむ……」
「なんか困ったことがあったら声かけてくれ。応えられるかどうかはわからないけど」
「……もー、そういうところなんですよねぇ」
よくわからないことを言って桂木さんはやっと解放してくれた。
でもま、男だけってのもむさいなーと思うことはある。だけど、タマとユマがいるからいっかと思い直した。アイツらも立派な女子だよな。
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