154.アメリカザリガニ根絶化計画

「今日の昼過ぎにお邪魔します」


 朝、相川さんからLINEが入った。昼過ぎってことはこちらで昼飯は食べないという意志表示かな。こちらが頼んで来てもらうのにそれじゃあなんだかと思ったので、一応「昼は煮込みラーメンにするんですけど一緒に食べませんか?」と返信しておいた。

 即、


「お言葉に甘えていただきます。昼に参ります」


 と返ってきた。煮込みラーメンは量を作らないとおいしくない。(俺個人の意見です)


「今日昼頃に相川さんが来るから。リンさんとテンさんにアメリカザリガニを食べてもらうから川を中心に見回ってもらう」

「ワカッター」

「ヤダー」

「ワカッター」


 タマよ、往生際が悪いぞ。


「川の周りに行かなきゃいいだろー?」


 嫌なものは嫌なんだろうなってことはわかる。好きになれとは絶対に言わない。でもアメリカザリガニは本当に困るのだ。俺はあの川で魚釣りがしたいんだよお! 鮎とか釣りたいじゃん。

 そんなわけで朝食の後は畑と家の周りを見回るぐらいに留めた。ポチとタマはツッタカターと駆けて行った。夕方までまんま帰ってこないつもりだろう。それはそれで全然かまわない。そろそろまた道路の周りも見回ったり、保全に努めなければいけないなと草をむしりながら思った。

 昼ちょっと前に相川さんの軽トラが到着した。下の柵の鍵は開けておいたのだ。南京錠だから開けておけばかけてもらうことはできる。なんだか、軽トラの動きがとても重そうだなという印象を受けた。大蛇が二人(俺にとってリンさんテンさんは一人、二人と数えた方がしっくりくるのだ)乗ってるんだもんな。そりゃあ重いだろう。積載量とか大丈夫なんだろうか。


「こんにちは~」


 夕方頃に帰ってくるかと思っていたのに、何故か呼ばれたようにポチとタマが帰ってきていた。相川さんの軽トラが停まると、その近くまでトトトッとポチとタマが移動した。気にすることないのになと苦笑する。


「こんにちは、ポチさん、タマさん、ユマさん。うちのリンとテンが虫などを食べてもいいですか?」

「イイヨー」

「……イイヨー」

「イイヨー」


 タマは少し含むところがありそうだが返事をした。許可が下りたと、リンさんとテンさんが車を降りる。意外とリンさんは下半身がほっそりしているのでそれでどうにか助手席に納まっているようだ。これでテンさんと同じ太さだったらとても無理だろう。頭の上の方だけでかい蛇というとコブラを彷彿とするけど、テンさんと柄は同じだから完全に突然変異なのだろうな。


「コニチハ、サノ、アリガト」


 リンさんは相変わらず上半身だけキレイな女性の姿をしている。完全な擬態の為表情は動かない。目だけが蛇のそれなので、近くで見るととても怖い。


「いえいえ、こちらもアメリカザリガニで困っていますから、食べ尽くしてもらえると助かります」

「ココロエタ」


 難しい言い回しをするのはテンさんだ。確かにヨルムンガンドといわれればそうかもしれないと思う。その長さも、胴の太さも、ニシキヘビというよりアナコンダっぽくてぞわぞわする。これなら大きい物を食べられるだろうし、人なんか丸飲みだろうな。こわい。


「先に川に行ってもいいですか?」

「あ、はい」


 はっとして、一緒に近くの川まで行った。うちの山は川が多いので、その全てをもし見回れるのなら見回ってほしいことを伝えた。もちろん今日で全部回る必要はない。リンさんとテンさんがよければ何度か来てほしいという話はした。


「サノ、イイヤツ」

「サノ、エライ」


 二人に擦り寄られそうになったが、タマとユマが間に入ってくれた。嫌いじゃなし、敬意もあるけどやっぱりこの大きさで近寄られるのは怖い。だって巻き付かれて締め付けられたら死ぬだろ、間違いなく。


「リン、テン、あまり近寄るな」


 二人は首を傾げた。自分たちが俺の脅威になるとは全く気づいていないようである。まぁ強大な物は手加減も苦手だしな。


「ニワトリには絶対に手を出すなよ。今日はアメリカザリガニだけだ。他に何かあれば聞きにこい」

「ワカッタ」

「ココロエタ」


 二人は川の周りに陣取ると、川の中に頭を突っ込み始めた。

 うわあ、って思った。

 そこで一旦解散となった。暗くなったら戻ってきてもらうことにして、ポチとタマはツッタカターと遊びに出かけて行った。心配して戻ってきてくれていたらしい。胸が熱くなった。


「……佐野さんちのニワトリさんたちって、優しいですよね」


 相川さんがしみじみ言う。


「そうですね。優しいと思います。相川さんちの、リンさんテンさんも優しいですよね」

「……そうですね。優しい、です」


 ペットというかんじではない。種を越えた同居人みたいな、そんなかんじだと思う。ユマが俺の前をトテトテ歩いていく。家に戻ってお茶と、野菜の浅漬けを出した。うどんスープの素で味付けをしたものだ。最近うどんスープにハマっている。N町のスーパーに売っていたうどんスープの素をいろんなものの味付けに使っているのだ。顆粒なのでなかなかに使いやすい。メーカーからお金はもらっていない。手抜きなら任せろというやつである。


「用意しますからつまんでてください」

「はーい」


 土鍋を出して野菜をごっちゃり入れて煮込みラーメンを作る。おとした卵はタマとユマが産んだものだ。うん、新鮮。もちろん火はしっかり通す。サルモネラ菌怖い。


「お待たせしました」

「ありがとうございます。おいしそうですね、いただきます」


 土間から続く居間の座敷でごはんだ。土間があって、台所が上がったところにあって、その横に座敷というへんな造りだが、台所の部分は昔は全部土間だったらしい。そんなわけで土間の部分は玄関の靴を脱ぐ場所、というよりけっこうな広さがある。おかげでそこがニワトリたちの居場所になっているのだからよくできている。


「この卵って……」

「タマかユマのです」

「これをいただけるだけでも来た甲斐があります」


 相川さんは嬉しそうに言った。


「煮込みラーメンもいいですね。一人ではなかなかやりませんが」


 こういうのは囲んで食べるのがうまい。俺も同意した。

 しっかり食べて汗を掻いたのでぼーっとした。ユマは用意した野菜の他に虫などをぱくぱく食べている。家の中にもけっこう入ってくるんだよな。


「……虫除けいりませんね」

「ええ、ほぼ使わないで済んでます」


 二、三日に一度三羽の足をキレイに洗って家の中に上がってもらい掃除を手伝ってもらっている。主に虫を食べてくれるからとても助かっている。羽が落ちるなんていうのは些細なことだ。ほうきでざっと掃いて、あとは掃除機をかけるだけである。ごくたまに雑巾がけもする。手入れをしないと家は傷む。水回りはもっとキレイに掃除しないとな。

 外に出て畑のアドバイスを受けていたらリンさんが戻ってきた。


「バケツホシイ」


 持ち帰りもしてくれるようだ。


「サノ、アリガト」


 バケツを二つ渡したら、無表情ながらも機嫌よさそうに川へ戻って行った。


「バケツ、次来る時にお返しすればいいですか?」

「はい、それで」


 来週も来てもらうことになった。これでほぼいなくなるといいな。川魚食べたいし。


ーーーーー

レビューコメントをいただきました! ありがとうございます!

これからもがんばります!!


近況ノートに「5月の予定」を載せました。ご確認願います。

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