153.外来種の駆除は骨が折れます

「アメリカザリガニですか……けっこうしぶといですね」


 相川さんに電話をした。


「繁殖力がかなりあるみたいで……」

「一匹見つけたら三十匹じゃないですけどそんなかんじですもんね」


 Gかよ。でも日本の川では天敵がいないからそんなかんじかもしれない。なんでも食べるし、食べ物がなければ共食いもするって聞くし。恐ろしい話だ。


「そういえば、リンさんとテンさんは冬眠ってされるんですか?」


 アメリカザリガニが冬眠するという話から思い出して、ふと尋ねてみた。


「……動きは鈍くなりますけど、リンは冬眠しませんね。テンは冬眠するので使っていない小屋に行かせます。鍵をかけておくので誰にも邪魔もされません」


 確かにあの大きさでは土を掘って埋まるというのも一苦労だろう。


「そうなると少し寂しくなりますね」

「そうですね。でも小屋にいるってわかってますから、それはそれで安心です」


 大体11月の終りぐらいから3月半ばぐらいまで冬眠するらしい。リンさんは冬眠はしないものの体温が下がるらしくあまり食べなくなるのだとか。


「よく食べるのも今のうちですから、明日か明後日辺りお伺いしてもいいですか。リンとテンを連れて行きます」

「はい、なんのおもてなしもできませんけど……」

「いえいえ、ポチさんのおかげでイノシシ肉をいただけましたから。冬はシシ肉いいですよね~」


 イノシシを家畜化したのが豚という話だが、肉の味も扱い方もかなり違う印象がある。生物学的には同じ種で交配は可能らしい。どちらもうまいがイノシシはやはり狩猟でしか食べられない。


「相川さんも罠とか設置するんですか?」

「テンが冬眠したら設置します。今はまだリンとテンのごはんになりますしね」


 大蛇のイノシシ捕食風景……想像しただけで身震いする。とても怖い。


「お二人って、後ろの山も見回られてるんですかね」

「それほど動きが早いとはいえませんから、あまり行ってはいないようです」


 それもあって猟期は仲間に後ろの山を開放しているようだ。うちも裏山全然見に行ってないもんな。俺が買う前からかなり長いこと手入れできてなかったみたいだし、そう考えるととても怖い。でもうちのニワトリたちは見回りをしているのだろうか。


「明日でも明後日でも、来ていただけると助かります」

「わかりました。明日の朝改めて連絡します。佐野さん、何も用意しなくていいですからね」

「はい」


 素直に応えて電話を切った。が、「何も用意しなくていい」なんて言葉を鵜呑みにしてはいけないのだ。いくら相川さんが本気でそう思っていたとしても、ある程度のもてなしは必要である。野菜は昨日おっちゃんちからもらってきたからいいとして、問題は肉類である。


「何作るかなー……煮込みラーメンでもいいか……」


 先日実家から荷物が届き、その中に煮込みラーメンがあったのだ。一人で食べるのはな~と思っていたからちょうどいい。昔は和田〇キ子がCMをしていたような気がしたが、パッケージに和田〇キ子の姿はなくなっていた。なんとなく煮込みラーメンといえば和田〇キ子みたいなイメージがあったから、起用タレントを変えたのかと少しだけ残念に思った。(特に好きとかいう話ではなくただのイメージである)

 きのこ類もおっちゃんちで分けてもらえた。おっちゃんちの山とか、うちの山で採ったものらしい。山菜採りに関してはいつでも声をかけてくれればいいと思う。俺はわからないから採らないし。

 そういえば裏山の件だ。


「なー、タマ。この山のさ、後ろにある山とか行ったりすんの?」


 本人に聞くのが一番だと、北の方向を指さして聞いてみた。


「アソブー」


 あっさり答えられてしまった。どうやら裏山も回っているらしい。


「そっか。なんか珍しい生き物とかいた? って、これじゃわかんないよな。イノシシとか、タヌキとか見た?」


 タマはコキャッと首を傾けた。


「イノシシ、トルー?」


 いるんだな。うん、わかった。頼むから足をタシタシしないでほしい。今捕ってこられても困るから。


「大丈夫、今日はいらないよ。また今度頼んだ時に狩ってきてもらってもいいか?」

「ワカッター」


 なまじっか狩れるだけの能力があるからフットワークが軽い。特に羽も切ってないから短い距離ならバサバサと羽を動かして飛ぶ。野鶏かよ、と思ったこともあるが、ただのニワトリではありえないだろう強靭な足と、爬虫類を思わせる長く太い尾はディアトリマを思わせる。でも形はニワトリなんだよな。つーわけでうちの子たちはニワトリだ。嘴の中は鋭い歯がいっぱい生えているけれど……ニワトリなんである。歯磨きもしてるんだぞ。歯は大事だからな!

 日が陰ってきたなと思った頃にポチとユマが帰ってきてくれた。まだそれほど冷えていないから外にタライを出し、お湯を足してニワトリたちをざっと洗った。毎日これぐらいに帰ってきてくれればなと思っていたから助かったが、よく考えたらユマに愚痴っていたりするから、ユマが気を利かせてポチを連れて帰ってきてくれたのではないだろうか。

 本当に、ニワトリたちには助けられてるなぁと苦笑した。

 俺、やっぱ甘えすぎかも。

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