157.山での作業は終わらない

 翌日はおっちゃんと相川さんの山を見に行った。道の端などキレイに整えられていて性格が感じられる。うちなんか大雑把だしな。


「でも草刈りがあんまりできていないんですよ。けっこうテンが道なき道を進むので一歩山に入ると木が倒れていたりして危ないんです」


 リンさんはともかくテンさんは確かに、細い木ならなぎ倒して進みそうだもんな。やっぱり重機がほしいという話になった。道に落ちてきそうな折れた木などを何本か動かしただけでへとへとになった。乾いているわけではないからかなり重い。もちろん乾いていたとしても重い。


「……クレーン車がほしい」


 相川さんがしみじみ言う。確かに欲しい。


「ショベルカー、まだ持ってた方がよかったかー」


 おっちゃんがしまったというように自分の頭を叩いた。確かにクレーン車じゃなくても動かすことはできるもんな。

 とまぁそんなかんじで、相川さんの山で作業をした。

 昼ごはんは大量の唐揚げとキャベツの千切り、そしてお味噌汁とごはんだった。もちろん漬物もある。


「なんでこんなに唐揚げってうまいんだろうな」


 おっちゃんがしみじみ言いながらもりもり食べていた。俺も相川さんも負けじと食べる。唐揚げは正義だ。(自分でも言ってる意味がわからない)


「そういや人見知りの彼女さんはどうしたんだ?」


 おっちゃんが思い出したように言った。そういえばリンさんの設定ってそうだったな。忘れてた。


「人見知りなので裏の方にテンと出かけてますよ」


 相川さんが苦笑して言う。


「あの大蛇と一緒なら安心だな」

「そうですね」


 おっちゃんがもし、リンさんも大蛇だと知ったらどうするんだろう。つか、そんな日は一生こなくていいと思う。知らなくていいことは知らないままでいいのだ。それにしても相川さんが作ったえのきの和え物うまいよなぁ。


「今時はやっぱり男も最低限料理ができないとな!」

「ええ、そうですね。湯本さんも蕎麦を打たれますよね。昨日のうどん、とてもおいしかったです」

「おお! そいつはよかった。俺が蕎麦打ちだのなんだのを始めたのは退職してからだからなぁ。うちのには散々苦労させたから俺もできることはするようにしてるんだよ」

「そうなんですか」


 おっちゃんと相川さんがしみじみ語り合っている。これで酒が飲めないのがつらいところだがしかたない。

 今日はポチとユマもこちらへお邪魔させていただいている。昨日の段階で相川さんに伝えて、リンさんとテンさんの許可は取ってあるから大丈夫だ。相手の縄張りを侵すんだから断りは必要である。しかし何故今日着いてから直接言わなかったのかといえばおっちゃんがいたからである。テンさんはあまり考えが及ばないそうで、話しかけられたら答えてしまいそうなので直接会って許可を取るのは見送った。みんな違ってなかなか面白いと思う。

 午後もどうしてもこれは……という木を撤去したり、炭焼き小屋の確認をしたりした。うちの山にもあるが、相川さんの方が本格的にやっているようなので今度こちらに参加することになった。

 炭焼きはただ火を入れて放っておけばいいというものではない。夜も窯の中の温度が下がらないよう管理しなくてはならないのだ。だからほぼ徹夜である。おっちゃんと二人で一度やってみたが煙いし眠れないしでたいへんだった。人数がいると多少は楽になるだろうと思う。


「炭はあると便利ですよね」


 うちも川の水の濾過に使っているから炭はけっこうほしい。相川さんの言に頷いた。


「炭があると焼き鳥もうまいしな!」


 おっちゃんは食い気のようだ。


「そういえば焼き鳥とか、最近食べてないかも」


 串に刺した鶏肉とかステーキっぽいのとか唐揚げとかは食べているが、焼き鳥はついぞ見ない。


「そうですね。村に焼き鳥屋さんってないんですか? 見た記憶がないんですが……」


 相川さんが聞く。


「んー……何年か前まではあったんだがな、今は廃業してらあ。でも鶏と炭を持ち込んでやりゃあ振舞ってくれるかもしんねえな」


 自分で焼くより仕事として焼いていた人が焼いたものの方がきっとおいしいだろう。でも法律とかどうなんだろうな。友達が材料を持ってきたのを焼いて振舞うぐらいならいいのだろうか。

 そんな話をしていてもさすがに腹は減らなかったが、周りの匂いに敏感になったのかもしれない。


「? なんか甘い香りが……」


 どこかで嗅いだ匂いなんだよな。なんだろう。


「ああ、キンモクセイですね。この頃咲き出したんですよ。きっと佐野さんの山でも咲いていると思いますよ」

「あったかなぁ……ちょっと記憶にないですね」


 こんないい香りしたっけかな?


「キンモクセイは日本だと自然に増えはしねえからな。昇平の山に住んでた人たちが植えてなきゃあねえよ」

「え? そうなんですか?」


 それは初耳だった。


「ああ、日本には雄株しかねえから、挿し木でしか増えねえんだ。ま、これはうちのの受け売りなんだけどよ」


 おっちゃんはそう言って頭を掻いた。正直である。

 挿し木でしか増えないなんてまるでソメイヨシノみたいだな。桜の理由はまたちょっと違うんだっけ。今度調べてみよう。

 明日はおっちゃんちの山を見に行く予定だ。今日は重機の必要性をよく感じた日だった。免許取らないとなと思った。



ーーーーー

フォロワー4000名様、110万PV、本当にありがとうございます!

これからもどうぞよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る