132.うちのニワトリがとにかくかわいいです
……どうにか帰ってきました。今、山の上の家の前にいます。すでに大分暗くなっていますが、俺がんばった! がんばったよ、ユマ!
つーかなんでユマしかいないんだよ。ポチとタマはいつになったら帰ってくるんだ?
「ユマ、ただいま」
「オカエリー」
かわいい。トテトテと近づいてきてくれるのがすごくかわいい。汚れてるから抱きしめる前にまず洗うけど。
「荷物中に入れたら軽く洗うから、待っててなー」
とりあえず冷凍物は冷凍庫に入れて、と。なんかお取り寄せしたみたいなみそ漬けの肉とか、さぬきうどんとかもらってきたようだった。母親が詰めた物をただもらってきただけだから確認してなかったんだよな。悪いことしたなって少し思った。
だからって泊まりでなんか行く気はない。夕飯食べて、地元出て他のビジネスホテルかなんかに泊まればよかったかもしれない。
レトルトカレーとかもなんか高級そうなものを詰められてしまった。一袋100円なんて安いものじゃない。もちろん一袋100円のレトルトカレーでも十分おいしいと思うけど。こういうのも、実家にいたら全く気づけなかった。きっとあのまま結婚して、実家に行くことがあったら今日みたいにいろいろもらって。でも中身を確認したりするのは奥さんだろうから俺はずっと気づかないままで。
でももう少し放っておいてほしい。相川さんみたいに三年とかかかるかもしれないけど、もしかしたら全くどうにもならなくて何年かかるかわからないけれど。
それでもまだ、たまらなくつらいんだ。
どうにか片付けをして表に出ると、ポチとタマも戻ってきていた。
「ポチ、タマ、おかえり」
「オカエリー? タダイマー?」
「オカエリー」
ポチがコキャッと首を傾げる。タマはアンタ間違ってるわよ、って言いたそうな顔をしていた。
「ただいま。ざっと洗おうな」
日が落ちるとかなり涼しくなってきた。家の外灯と懐中電灯を吊るしたりして明かりをとり、三羽をどうにか洗った。
「もう少し早く帰ってこいよ。そろそろ風邪引くぞ」
今後はお湯を準備したりする必要があるかもしれない。病気になったら困るもんな。ってさすがにもっと寒くなったら洗うこと自体嫌がるかな。
水気をとってバスタオルで拭いて、家の中に入れる。
「オミヤゲハー?」
「オミヤゲー」
「オミヤゲー?」
ええええ。なんか要求されてるんですけど。
「あー、ちょっと待ってな……」
冷凍物は無理だし、そういえば缶詰があったな。漁ると鮭の中骨缶があった。味もついてないしカルシウムもとれるしいいかもしれない。って、鮭はニワトリにあげていいのでしょうか。教えてエロい人。(俺は何を言っているのか)
夕飯を準備するついでに出た野菜くずと野菜を出し、その上に鮭の中骨缶を分けて乗っけてみた。噛み切れるよな? どっかに引っかかったりしないよな? だってあんな鋭利な歯が沢山生えてるし……。ってどこまで規格外なんだうちのニワトリは。
「オイシー」
「ナニコレー」
「オカワリー」
気に入ってくれたようだった。ユマ、今日はもうありません。
ユマがショックを受けたような顔をしていた。わかった、今度買ってくるから。
夕飯を食べ終えてほっとして、桂木さんと相川さんにLINEした。
「おかえりなさーい。無事済んでよかったですねー」
桂木さんの返信。
「お墓参りは無事済みましたか? 僕もそろそろ祖父母の墓参りに行こうと思います。今日はゆっくり休んでください」
相川さんの返信。
二人とも性格が表れていてとてもいいと思う。
「サービスエリアだけどお土産を買ったので今度届けに行きます」
と送って、今度はおっちゃんに電話した。
「おー、昇平か。どうしたー?」
そういえば何日に実家に行くとは詳しく伝えていなかったかもしれない。
「墓参りも兼ねて実家に行ってきました」
「そうかそうか。それはよかったな」
「母から預かったものがあるのでまた今度持って行きますね」
「おう、すまねえな」
報告も無事済んでほっとした。
なんかどっと疲れた気がする。
「……誰にも会わないで済んで、よかった……」
次は春の、お彼岸を過ぎてからだろうか。山だから冬は雪が降るみたいだけどどう過ごせばいいんだろう。
家の中を見回す。けっこう広さがあるから寒いだろうなと思う。そしたらユマともふもふしていればいいかとも考える。羽が抜けてくるようになった。夏の羽が抜けて、冬の羽に変わるのだろう。生き物というのはよくできている。
「オフロー」
落ち着いたら風呂をねだられた。
「ちょっと待ってな」
多少は手がかかるけど、それ以上に幸せをもらっている気がする。
ペットっていうか相棒ってかんじだ。いつまでも長生きしてほしい。
「桂木さんところも見に行かなきゃいけないよな……」
スズメバチの巣を食べているのは誰なんだろう。タツキさんならいいけどクマだったらやヴぁい。
クマがいるかもしれない。スズメバチもいる。マムシだっているし、虫もいっぱいいる。でも山にいる方がずっといい。そう桂木さんに言わせてしまった男はのうのうと暮らしている。勧善懲悪とか、ドラマみたいにはいかないけど、みんな一歩ずつ前に進んでいる。
今はそれでいいんだ、きっと。
そう思わなきゃやってられないから。
今日は早く寝ることにしよう。
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30万字超えてしまったー。これからもよろしくお願いします。
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