105.養鶏場に大集合してみる

 山の上の墓を見に行ったり、雑草抜いたり、川を見に行ったり、雑草抜いたり、道路の確認をしに行ったり、雑草抜いたりしてたら養鶏場に行く日になった。雑草め、枯れたらまとめて焼いてやるから覚悟しろ。あ、もちろん風のない日限定で。天気予報があてになるといいけど。

 松山さんちへの手土産は連名で相川さんが用意してくれることになった。あそこのおばさん相川さん大好きだし。そうでなくても相川さんの手土産が一番洗練されてるし。

 松山さんちに着くと桂木さんがもう着いていた。ドラゴンさんが降りていて、獣医の木本さんがとても嬉しそうな顔をしている。


「あ、佐野君。こんにちはー」

「こんにちは、松山さん、木本さん、桂木さん、もう来てたんだね」


 松山さんが声をかけてくれた。桂木さんは俺の顔を見るとほっとしたような表情をした。知らないお宅だし、緊張もするだろう。


「タツキさん、こんにちは」


 ドラゴンさんに話しかけると目を細めて頷かれた。うん、相変わらず落ち着いている。うちはユマとタマを連れてきた。ポチも行かないかと声をかけたのだが養鶏場=注射と覚えてしまったのか逃げて行った。次接種するとしたら飲水接種だろうからまぁいいんだけど。


「いやあ、こんなキレイなお嬢さんと知り合いだなんて、佐野君も隅に置けないね~」


 松山さんが茶化して言う。


「それセクハラですからね~」


 笑顔で言って、「タツキさん、今日もユマとタマが一緒です」と連れを明らかにした。


「ええ~、そうなのかい? 参ったなぁ。ごめんね」


 松山さんは頭を掻いた。


「タツキさんだっけ? 診せてもらってもいいかな」


 木本さんが桂木さんに許可をとって話しかけた。ドラゴンさんは鷹揚に頷いた。


「では診させていただきますね~。体長は2m50cm……体重は、と。最近何か大物は食べましたか?」

「すいません、いつも勝手に動いているので何を食べているかあまり把握していないんです」

「んーじゃあいいかな。どうしても重さを測りたくなったらS町まで来てください。多分最低でも70kg以上はあると思う。あんまり重い場合は食べた獲物の重さも反映されてる可能性があります。歯磨きをした方がいいかな。爬虫類ってわかりづらいんだよね。一応異常はなさそうです。なにかあったら連絡してください」

「あ、ありがとうございます」


 木本さんは、手際よくドラゴンさんのあっちに触れたりこっちに触れたり口を開かせたりして健康診断を終えてしまった。


「気になることはありますか?」

「あの、私タツキを縁日の屋台で買ったんです」

「ほうほう」


 なんか木本さんの目がキラーンと光ったように見えた。


「その時は本当に小さくて、10cmぐらいしかなかったんですよ。だからただのトカゲかなと思っていたら、二年でここまで育っちゃったんです」

「それはすごいですね」


 10cmがどうやったら二年で2m50cmまで育つのか聞いてみたい。


「10cmとなるとコモドドラゴンでもありえない大きさですね」

「コモドドラゴンではないのでしょうか」

「多分そうじゃないかと思うんだけど、ワニっぽくも見えるし、どちらかというとトカゲっていうより恐竜に近いかなぁ」

「恐竜、ですか……」


 桂木さんは困ったような顔をした。


「この村の屋台で買ったんだよね?」


 木本さんの話し言葉がめちゃくちゃだ。丁寧になったりなれなれしくなったりと忙しい。


「はい。夏の屋台で買ったんです」

「佐野君ちのニワトリたちもそうだったっけ?」

「うちは春祭りですね」

「うーん、ミステリーだねー。桂木さんの大きなトカゲは恐竜っぽい。佐野君ちのニワトリたちは羽毛恐竜っぽいし。屋台を出した人を探しにいきたいぐらいだよ」

「確かに不思議ですね」


 そんなことを外で話していると、やっと相川さんの軽トラが着いた。


「すいません、遅くなりました!」


 助手席にはリンさんが乗っている。まだ暑いけど窓を開けておくかクーラーをつけておけば大丈夫なのかな。


「遅くないよ~。相川君もいらっしゃい」


 松山さんがにこにこしながら応えた。


「こんにちは」

「こんにちは~」


 挨拶をして助手席の方に回る。


「リンさん、こんにちは」

「サノ、コニチハ」


 美人の無表情。下半身が蛇だと知らなければけっこういける。そういえば相川さんて前回木本さんに挨拶してたっけ?


「相川さん、こちらは獣医の木本さんです」

「こんにちは」

「こんにちは。この間も見たけどイケメンだね~。相川さんも山持ちだっけ? こちらのお二人みたいに規格外のペットはいないのかな?」

「規格外、ですか……」


 相川さんは面食らったようだった。そしてドラゴンさんとうちのニワトリたちを見る。


「ちょっと失礼」


 そう言ってスマホを操作しだした。そして、


「こんな大蛇なら飼っています」


 テンさんの写真を木本さんに見せた。


「ああ!」


 木本さんがいきなり大声を上げた。ニワトリたちが迷惑そうな顔をする。


「前に蛇の予防接種はないかって電話してきてくれた人かな?」

「よく覚えてましたね」

「うん、珍しいこと聞くなと思って覚えてたんだよね。そっか、大蛇かぁ……なんかニシキヘビっぽく見えるけど、ちょっと模様が複雑だよねぇ……」


 どうやら以前相川さんが予防接種のことで電話した相手も木本さんだったらしい。N町にも獣医はいると聞いたけどそっちじゃなかったんだな。


「あら~? みんな揃ってるなら入ってきなさいよ~」


 家の中からおばさんが出て来て声をかけてくれた。立ち話もなんなのでお邪魔することにした。


ーーーー

レビューコメントいただきましたあああああ!! ありがとうございます!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る