104.残暑が厳しい。雑草との仁義なき戦い

 飲んだら乗るなってことで。おっちゃんちでのんびりして、夕方になる前に帰った。

 結局桂木さんは話さなかった。それはそれでいいと思う。この先誰かさんが二度と来なければフェードアウトする話だし。

 帰宅して、日が落ちた頃にポチが戻ってきた。相変わらず汚い。俺が山にいる時はそれほど汚くはならないのだが、いないとなると暴れるのか。フィーバーってヤツか。意味わからん。

 ポチに水浴びをさせて洗っていたらタマがトトトッと近づいてきた。


「ん? タマも水浴びするか?」

「スルー」


 やっぱり暑いんだろうな。


「わかった。ちょっと待ってな」


 ポチをよく洗って、離れたところでぶるぶるするように指示してからタマも洗った。すごく気持ちよさそうである。ちなみに、納戸で見つけたビニールプールには盛大な穴が空いていた。残念だったが処分した。来年は買ってやろうと思う。でもけっこう鉤爪が鋭いからすぐに穴を開けられちゃうかな。そこらへんはまたおいおい考えよう。

 二羽を洗ってから夕飯にした。秋ナスをもらってきた。来年はもっと畑を拡充しようと思う。小松菜はまだまだ採れるがキュウリはもう終わりの時期だ。収穫を怠ってでかくなりすぎたキュウリを採って適当な大きさに切る。一部は炒めて食べるがそれ以外はニワトリの餌だ。


「やっぱウリなんだなー。種でけえ」


 まぁ炒めれば食えないことはないんだが、育ちすぎたキュウリの種はあまり食べたいとは思わない。


「ひまわりも植えればよかったなぁ」


 確か種を炒れば食べられるはずだ。かつての同僚がわざわざ買ってきてポリポリ食べていた気がする。時間潰しとか、TV見ながらとかなら最適だろう。

 来年の栽培計画を考えながら、夕飯を終え、ユマと風呂に浸かった。ユマと一緒ってのがいいんだよな。

 幸せだなとしみじみ思う。ここにいれば俗世のことは忘れていられる。

 たまにふと思い出してしまうのがとても嫌だ。もう俺の心をかき乱す誰かはいないのに。


「大丈夫、いない、終わったことだ……思い出すな……」


 自分に言い聞かせるように呟いてユマをぎゅっとした。ユマはただ寄り添ってくれる。


「……ユマ、ありがとうなー」


 ユマはコキャッと首を傾げ、風呂から上がった後はトトトッと土間に移動した。ふかふかの羽毛の三羽が土間に座っている。見た目すんごくかわいい。……規格外の大きさだけど。

 思わず写真を撮って相川さんに送ってしまった。で、送ってからはっとした。俺は女子か。


「かわいいですね」


 すぐに返信があった。本当にごめんなさい。ペットの写真とか送ってこられても困るだろうなぁと思ったら、リンさんとテンさんの画像が送られてきた。

 うわ、すげえ。クリーチャーっぽい。怖い。

 でもこうしてまじまじ確認してみると、鱗の文様がすごくキレイだ。いつまでも見ていられるなと思う。なので、


「鱗、綺麗ですね」


 と返した。もしかしたら相川さんもペットの画像とか見せ合いっこする人がほしかったのかもしれない。

 ちょっと和んだ。



 翌日、いろいろなところに連絡をした。桂木さんがドラゴンさんを診てもらいたいと言っていたから、獣医の木本さんに電話をした。養鶏場の方に行く用事があるかどうか尋ねると、ちょうど様子を見に三日後に行くという。ならばそれに合わせてドラゴンさんを診てもらうことができるかどうか、松山さんにも場所の提供なども含めて電話をした。あれもこれもで頭がこんがらがりそうである。


「でっかいトカゲかぁ。いいよ~、その時にでもごみ拾いウォークの話を聞かせてくれるかい?」

「はい。何時頃にお伺いすればいいですか?」

「お昼に合わせておいで。ごはん食べていきな~」

「いつもありがとうございます」

「気にしなくていいよ。若い人と関われるのが楽しくてしかたないんだから。またニワトリたちも連れてくるだろう?」

「はい、ご迷惑でなければ」

「全然迷惑じゃないよ。前に来たお友達も連れておいで」


 ということで桂木さんだけでなく相川さんも連れて行くことになった。


「行くのは全然かまいませんが……できれば佐野さんの隣に座らせていただければ……」

「そこらへんは大丈夫ですよ」


 桂木さんが苦手なのか、それともやっぱり妙齢の女性が苦手なのか悩むところではある。どちらにせよ、俺はサポートするだけだ。

 あっちに連絡し、こっちに連絡し、おっちゃんにも報告し、となかなかに忙しかった。

 養鶏場の用件が済んだら、そう日を空けずに桂木さんの山に行くことになった。なんだかんだいってイベント盛りだくさんである。

 電話だのLINEだのしただけなのにかなり疲れた。こんな時はタマとユマの卵に限る! と思ったが今日は排卵調整日らしくて産んでくれなかった。切ないよ、やる気が出ないよ。

 朝あからさまにがっかりしてたらタマにこれでもかとつつかれた。ごめんなさいごめんなさい。ユマはよくわかっていないようでいつも通りだった。


「さー、草むしりすっか……」


 こんな時間なので日陰を主に草むしりしようと、今日も雑草と格闘するのだった。そろそろいいかげん塩撒いて枯らしたい。



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