94.養鶏場にお礼に。昼食をごちそうになった

「時間が必要なのかもしれませんね」


 相川さんからこんな返事があった。確かに、桂木さんには時間が必要だろうと思う。相川さんの問題については一応解決? したものの、本当の意味での解決自体に三年以上もかかっている。そして相川さんは未だ妙齢の女性が苦手だ。桂木さんについてはゴールデンウィークに村に来た人物が判明しただけである。元彼の親友であるナギさんが諦めてくれればそれで終わる問題だと思う。それを確認することはできないけど。

 相川さんのような解決は望めるものではない。そのままフェイドアウトする可能性の方が高いのだ。もちろんナギさんのように探しに来るというパターンもあるだろう。そもそもなんで探しにきたんだろう。いろいろ疑問が残った。


「養鶏場にお礼に行こうと思うのですが、相川さんの都合はどうですか?」

「いつでもいいですよ」


 ということなので松山さんに連絡をして明後日の昼に合わせて伺うことにした。こちらにもお茶とお茶菓子のセットを用意してある。お礼はしっかりするべきだ。

 翌日も仁義なき雑草との戦いに明け暮れた。もう除草剤を買った方がいいのかと思い始めてきた。……いや、うちにはかわいいニワトリが三羽もいるのだ。除草剤はよくない。見た目はもうかわいいってかんじじゃないけどな。

 そして養鶏場に向かう日、ユマとタマがついてきてくれることになった。ポチは残るらしい。


「夕方には帰ってくるからなー」


 念の為玄関の鍵は開けてある。万が一俺が帰ってこない場合に備えてだ。そう考えると前に鍵をかけてタマを締め出してしまった時はやヴぁかった。そりゃあつつかれるのは当たり前である。あれ以来鍵は何度も指さし確認するようにした。

 そういえば、と思い出す。家の鍵はともかくとして、麓の鍵をかけ忘れることがたまにある。あれはまずいかもしれない。今までは何もなかったが、ナギさんみたいな人が来たらたいへんだ。勝手に敷地内に入られたりしたら目も当てられない。もっと気を引き締めようと思った。

 これぐらいの時間に向かうということは連絡してあるが、基本相川さんとは別行動だ。だってお互い軽トラだし。

 手土産も持った。

 で、軽トラを走らせて村の奥の方、隣村との境近くの山まで行けば養鶏場がある。


「こんにちはー」


 駐車場の側におばさんがいた。


「佐野君こんにちは。この間は大量に発注してくれてありがとうね」

「こんにちは。こちらこそとても助かりました。すごくおいしかったです。ありがとうございました」


 おばさんはにこにこしていて上機嫌だった。タマとユマを下ろすと、


「よく育ってるわよね~。また大きくなってない?」


 と言われた。ええ? また巨大化してるのか?


「そうですか? 毎日見てるからよくわからないんですよ」

「そうよね。毎日見てると変化がわかりづらいわよね~」


 おばさんの許可をとって、タマとユマには養鶏場の反対側に遊びに行かせた。養鶏場には行かないように言ってある。


「あれからね、問い合わせが来るようになったのよ」

「鶏肉、ですか?」

「そう。卵はないって言うと残念そうにされるのが少し心苦しいけどねぇ」


 そんなことを話している間に相川さんの軽トラが入ってきた。今日は助手席にリンさんが乗っている。


「こんにちは、お邪魔します。先日はありがとうございました」


 相川さんがにこやかにおばさんに挨拶をした。


「相変わらずいい男ね~。いいのよ~うちも余剰分がはけたから助かったわ~」


 相川さんとおばさんが話している間にリンさんに近づく。もちろんそれなりに離れてだが。


「リンさん、こんにちは」

「サノ、コニチハ」

「彼女はまた下りてこないの?」

「人見知りが激しいので」

「そう? じゃあ帰りに鶏肉持って帰りなさいね。調理してもらって~」

「お手数おかけします」


 招かれて家の中にお邪魔する。そこでお互い手土産を渡した。相川さんと合同で、と思ったのだが相川さんも別に用意していたようだった。悪いことをしたなと思った。


「お昼ご飯食べていくでしょう? 例のごみ拾いウォークの時のことを教えてね~」


 漬物やキムチ(キムチも漬物だけどキムチはキムチな気がする)、鶏の唐揚げ、参鶏湯サムゲタン、プレートでタッカルビまで用意してくれた。おじさんは養鶏場の方で作業をしていたらしく、料理が出来上がった頃に戻ってきた。


「やあやあ佐野君、相川君こんにちは。いや~お客さんがくると豪勢でいいな」


 と言っておばさんにどつかれていた。

 タッカルビは鶏肉をコチュジャンで甘辛く味つけし、野菜やもちなどを鉄板の上で直接炒め、混ぜて食べる料理らしい。ここらへんは相川さんがよく知っていた。おばさんはどうやら韓国料理が好きらしい。

 さすがに男が三人いるとどんなに料理の量があってもあっという間になくなってしまう。


「まーたくさん食べたわねー!」


 平らげた時はさすがにおなかがぱんぱんになっていた。おばさんはキレイになくなった皿を見て上機嫌だった。

 もちろんごみ拾いウォーク時の話もしたし、松山のおじさんはお祭りで屋台をしていたことからその時の話も少しした。

 ごみ拾いウォークの話はおじさんの方がかぶりつきで聞いてくれた。


「人通りがあった方が不法投棄は少なくなるんだろうね。うちの方でもやるべきかなぁ」


 なんて言っていた。もちろんその後のBBQで鶏肉がかなり好評だったことも伝えると、二人ともとても嬉しそうだった。


「やっぱり若い人がいると違うわね~」


 また遊びにきてねと言われ、是非、と約束した。ただの社交辞令とはとても思えなかったので。

 本当は桂木さんもこれたらよかったなと思う。そのうち連れてくることにしよう。鶏肉おいしい! って彼女も絶賛していたから。


ーーーーー

タマさん締め出し事件については60話を参照してくださいませ~

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