93.カレーは正義! だと思う
……食べ過ぎた。でもしょうがない。だってカレーだし。男はカレーに逆らえないと決まっているのだ!
「いっぱい食べていただけて嬉しいです。その……また作りすぎてしまったので少し持って帰りませんか……?」
「是非!」
ちゃんと以前借りたタッパーも持ってきている。準備は万端だ。
「よかった。今朝作ったのを冷まして冷蔵庫に入れておいたんですよ。帰る時にお渡ししますね」
「ありがとう」
桂木さんがにこにこしているので俺もにこにこしてしまう。いや、これはやはりカレーのせいか。
食べ終えて少しぼーっとした。
「……あれから、なんかあった?」
「いえ、特には……おばさんには話しました。元彼の親友が来るなんておかしな話ねって言ってましたけど」
誰が聞いてもそう思うだろう。
「それで……もしかしたらその親友の方が私を好きなんじゃないかとか言われて……」
俺もそう思った。言わなかったけど。
「桂木さんは、ナギさんのことはどう思ってるんだ?」
聞いてみるととても嫌そうな顔をされた。
「……キモいです。うざいです。あんなの顔がいいだけです」
「臨床心理士だって聞いたよ。頭もいいだろう」
「職業は関係ないです。あの、なんというか……君の為を思って、的な押し付けが許せないんです!」
「ああ……」
そういう人なわけね。一度しか会ってないからよくわからないけど、桂木さんと元彼のよりを戻させようとしたぐらいだしな。
「私……今度あの男に会って偉そうなこと言われたら殴る自信があります!」
拳を振り上げて桂木さんが言う。うん、元気ならよかった。
「それぐらいの気概があるならいいけど。困ったことがあれば言ってくれよ。できる範囲で手伝うからさ」
そう言うと、桂木さんはみるみるうちに赤くなった。そしてぶつぶつと何やら呟く。そしてキッと俺を睨んだ。
「佐野さんは……お兄ちゃんですよね」
「うん、桂木さんがそう言ってるよね」
なんだろう。頼りなさすぎてクビだろうか。
「じゃあ、もう少し落ち着くまで代わりに買い出ししてもらってもいいですか?」
「いいよ。別に何も予定ないし」
夏祭りも終わったし、お盆も過ぎたし特にやることもない。
「ああうう……じゃあ今度相川さんも連れてきてください」
まだ言うか。
「……いいかげん諦めたら?」
「目の保養がしたいんですー」
「悪かったな。目の保養にならなくて!」
相変わらず失礼な娘だ。いや、自分がイケメンだとはただの一度も思ったことはないけれど。
はぁ、と嘆息する。
「聞いてはみるけど、期待はするなよ。相川さんには嫉妬深い彼女もいるし」
リンさんのことである。嫉妬深いかどうかは知らないし、本当の意味で彼女かどうかも知らない。でも確かそんな設定だった気がする。
「……あれ? そういえば車で待ってた美人でしたっけ?」
桂木さんはリンさんのことを忘れていたらしい。
「うん」
「そっかー、ならいいです」
意外とあっさり断られた。俺のこの手に持ったスマホはどうすればいいのか。
「佐野さんとくっついてるのを見るのがいいんですよねー……」
食器を片付けながら桂木さんがそんなことを呟いていた。一気に鳥肌が立った。
お、男同士の友情がいいって以前言ってたよな。きっと気のせいだ。うん、気のせいだ。大事なことなので二度言いました。
土産にと持たされたタッパーはやっぱりでかかった。
「……ありがとう」
「れ、冷凍すればけっこう持つと思うんで!」
カレーだしな。三食食べても飽きないからすぐに食べ終わるだろう。
「そうだね。とても助かる。じゃあまた何かあったらLINE入れてくれ。電話でもいいし」
「はい! ありがとうございます!」
もちろん麓まで一緒に行き、桂木さんが鍵をかけて帰っていくところまで見送った。一応タマとユマには人の気配があったらすぐ知らせるように言いつけて。誰かに見られて困ることではないが、念には念を入れて、である。
桂木さんの山の中で、タマはけっこう好き勝手に回っていたようだ。雑草は軽く落としたが、帰宅したら水洗いする必要があるだろう。
帰宅してからはっとした。そういえば誰にどこまで話していいか聞くつもりだった。
でも桂木さんはごはんを食べにきてほしいと言っていた。だからそれはそれでいいのだろう。
せめてこれだけでもと思ってLINEを入れる。
「そういえば聞き忘れたけど、ごみ拾いウォークの打ち上げどうする?」
桂木さんからすぐに返事があった。
「まだ後一週間ぐらいは怖くて出られないと思うので、私抜きでやってください。ごめんなさい」
……まぁそうだよな。しばらくは俺がフォローすればいい。
「わかった」
とだけ返して、おっちゃんや相川さんにも連絡した。
「役立たずだよなぁ……」
女の子一人守り抜くこともできないなんて。
世界を救うことができないなんて子どもの頃には悟っていた。でもヒーローにはなりたいと思ってた。
西の空が今日も赤く燃えている。ユマがとてとてと近づいてきて、俺の前でコキャッと首を傾げた。俺はそっとユマに触れた。すでにタマの姿はない。ユマさんマジ天使です。ありがとうございます。
今日のことが少しでも桂木さんの気分転換になればいいと、俺は思った。
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