88.打ち上げの後って大概こうなる気がする

 打ち上げということでおっちゃんちでしこたま飲まされた。相川さんはざるっぽいし、おっちゃんはご機嫌だしで飲むのを止めることができなかったのだ。これが上司だったら間違いなくパワハラである。


「ううう……」


 久しぶりに盛大な二日酔いになった。本当に勘弁してほしい。

 ちなみにおっちゃんちにはタマとユマがついてきてくれた。ポチは留守番するという。なんか最近留守番するのを楽しんでいるような気がする。俺の居ぬ間にどこまで羽を伸ばしているんだろう。


「……あんまり夜更かしするなよ」


 とは言ったが、明後日の方向を向いて聞いていないアピールをされたから、一羽でフィーバーしてるんだろうな。……いったいどういうかんじがフィーバーなんだろう。想像もつかない。やっぱカメラつけさせてもらおうかな。

 昨日も肉が多少余ったのでおばさんが全部夕飯で調理してくれた。タマとユマもおいしく食べていた。よかったよかった。

 昨日のナギさんのことははっきりとは話せなかった。

 桂木さんの事情を知っているのは俺だけだし、それも詳細に聞いているわけでもない。同棲してDV野郎になった元彼がどんな容姿だったかもわからない。ナギさんはその親友だと桂木さんは言っていたがどこまで本当かは不明だ。今夜帰宅してから電話で聞くことにはなっている。どこまで話していいかわからなかったので、おっちゃんと相川さんにはまた今度説明しますと伝えた。


「まー、話せるならでいいからよ」


 おっちゃんはそう言い、相川さんはにこにこしているだけだった。おばさんは何事か聞きたそうな顔をしていたが、おっちゃんに目配せされて肩を竦めた。それが昨夜のことだ。

 二日酔いの朝である。

 つらい。

 胃もたれというか、み、みず……と言いながら這って行きたい心境である。これで目の前にミミズを出されたら相手を抹殺しそうだ。あ、タマとユマなら諦めて俺が倒れます。


「佐野さん、立てますか?」


 相変わらず爽やかな出で立ちで相川さんが呼びに来た。


「……今日は無理です……」


 ちょっとでも身じろぐと頭がぐわんぐわんする。


「……冷たい水をもらってきますね」


 相川さんは喉の奥で微かに笑うと一度部屋を出て行った。うん、笑われてもしかたないんだけど……でもアンタも飲ませたからな!

 どうにか起き上がって周りを見回す。相川さんが寝ていた布団はキレイに畳まれていた。

 ……復活したら畳もう。


「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」


 いただいた水をゆっくりと飲んだ。まだ気持ち悪いけど、少しすっきりしたような気がする。


「まだ飲みます?」

「……いえ」

「ごはんは食べられそうですか? おばさんがお茶漬けを用意してくれるそうですけど」

「……いただきます」


 のろのろと居間に移動するとおっちゃんが待っていた。


「おー、昇平! 二日酔いかー?」


 ……頭痛い。すんごく頭に響く。


「ううう……お、おはようございます……」


 どうにか挨拶だけした。


「あんた、そんな大声出したら可哀そうでしょ? 昇ちゃん、食べられる量だけでいいからね」


 そう言いながらおばさんが梅茶漬けを用意してくれた。泣きそうである。


「……ありがとうございます」


 みんな待っていてくれたらしく無言でお茶漬けを食べた。食べているうちにだんだん楽になってきて、やっぱ梅ってすごいなと思った。

 縁側に移動してぼーっとする。今日は一日使い物にならないとわかっているのか、おばさんは何も言わなかった。手土産の紅茶のセットは昨日のうちに渡してある。すごく喜んでくれた。おばさんはどちらかといえばお茶が好きなようだった。

 タマとユマが時折戻ってきては、縁側でぼーっとしている俺を見て首をコキャッと傾げまた駆けていく。いつ帰るの? って聞きにきているのだろうか。この調子だと夕方になっても酒が抜けそうもない。でもさすがに夕方には帰らないといけないだろう。


「何時ぐらいに帰りますか?」


 相川さんがお茶と煎餅を持ってきた。


「……夕方ですかね。全く抜ける気がしないので」

「そうですね。かなり飲みましたものね」


 そう言って笑う。


「……お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」


 しみじみと言われたので俺もそう返した。


「佐野さんのおかげで今年はあまり大物はなかったです。例年だとテンとリンが見回っていても全ては網羅できないんですよ。でも今年は人がなんだかんだいって歩いていましたから……」

「やっぱり人目があるところには捨てないんですね」

「捕まったら困りますからね」

「……そんな危ない橋を渡るぐらいならきちんと処理すればいいのに」

「世の中いろんな人がいますから」


 相川さんの言うことが真理なのだろう。俺には理解できないような考え方をする人は一定数以上いる。そう、みんながみんな自分のような人間だったらさまざまな事件は起こっていないと思う。それはそれで驕りなのかもしれないけれど。

 落ち着いてから居間に戻って明日以降の予定をなんとなく話していた。桂木さんとも打ち上げをしたいという話をしていたが、そこらへんは桂木さん次第なので明日以降決めることにした。

 そして夕方になり、俺たちは撤収した。もちろん布団はちゃんと畳んできた。

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