87.最終日、ニワトリは変わらず平和です
杞憂ならそれでいい。俺は帰りがけ、タマとユマの影に隠れるようにしてLINEをそこここに入れた。
「ナギさんて知ってる? 知ってるなら会いたい? 会いたくない?」
桂木さんには急いで打ったからよくわからない文章になってしまった。だけど返信はものすごく早かった。
「絶対会いたくないです!」
ビンゴだった。DVの張本人とは限らないが会いたくない人には違いないのだろう。
「わかった。山からは決して出ないようにね」
相川さんやおっちゃんにもLINEした。(一応おっちゃんもスマホは持っている)
「ナル山のことを誰かに聞かれても知らないと答えてください」
桂木さんの事情を話すわけにはいかないので俺ができるのはここまでだ。すぐに「了解」と返ってきた。
俺は極力ナギさんのことは気にしないようにして子どもたちとごみを拾った。
どうにかうちの山の麓に戻り、ごみをまとめて手洗いをさせてさあBBQだ! 奥さんたちがまたおにぎりをいっぱい握ってきてくれたのでみんな大喜びである。飲み物も一応用意はしてあったが各自持ってきてくれたし、みんないい人たちだなと頭を掻いた。
「酒はないんですね」
「みんな車ですからね」
野菜やら肉やら焼いてみんなにいきわたった頃、ナギさんに声をかけられた。どうも田舎=飲酒運転当然と思われてそうで困る。村では、近所といってもあまり歩いて行けるような距離にはないのだ。必然的に免許が取れる歳になれば免許を取る者が多い。年寄りはどうだか知らないが、今の若い人は飲酒運転の恐ろしさをよく知っている。罰則も以前より厳しくなったしな。
「ナギさんは今日はどうやってきたんですか?」
「雑貨屋の方のお子さん家族に乗せてきていただきました」
「へえ……随分仲がいいんですね」
「前回来た時にいろいろお話を聞きまして。実は私、スクールカウンセラーをしているんです」
「えええ?」
すごくびっくりした。
「ってことはもしかして臨床心理士さんなんですか!?」
「……よくご存じですね。まぁスクールカウンセラーは臨床心理士だけとは限りませんけど……」
ナギさんは苦笑した。
「雑貨屋さんとはどんなお話を?」
「守秘義務がありますので」
「ですよね」
スクールカウンセラーってことは雑貨屋のお孫さんについてかな。いや、臨床心理士さん相手ならお孫さんのこととも限らないか。
そんなことを話しながらみんなで楽しみ、どうにかBBQも終了した。俺は空気を読まないかんじでナギさんを延々質問責めにしたので、もし次来ることがあっても倦厭されることは間違いなかった。
最後に、
「あの……ナル山を所有されている方について何か知りませんか?」
と聞かれた。俺はできるだけ平静を装って答えた。
「いやあ……俺も今年こっちに越してきたばかりで全然交流ないんですよ。隣と言っても山ですしね」
「そうですか……」
ナギさんはあからさまに落胆したような様子だった。他の人にも聞きたそうにしていたが俺はナギさんから離れなかった。それで周りも何か感づいたらしく、俺のところには寄ってこなくなったし、片づけなどで俺が離れた後もナギさんの話を聞く人はいなかった。
助かったと思った。
ところで彼の言っていた雑貨屋とはどこの雑貨屋だろう。どこまで情報を掴んでいるのかは知りたかった。
そんなこんなでどうにかごみ拾いウォークは終わった。みんなの車を見送って一息つく。
終りだよ~と言ったらニワトリたちと離れたくないと、泣いたりだだをこねたりする子どもがけっこう多かった。今日で最後だもんな。その子たちを宥めるのはけっこうたいへんだった。
「次はいつやるの?」
と聞かれても、そのうちね~としか答えられない。だって今回は臨時だし。うちの山に遊びにきたいとも言われたがそれは断った。子どもを招けるほど整備はしていない。大事なお子さんに何かあったら責任問題になっちゃうし。
「村に買い出しに行った時はよろしくな」
と言うことしかできなかった。子どもたちは不満そうな顔をしていたがしぶしぶ親と帰っていった。もちろんニワトリたちはどこ吹く風である。野菜と豚肉を大量に食べてご満悦だった。
「……お疲れさまでした」
「昇ちゃんが一番疲れたでしょう?」
「昇平お疲れ」
「佐野さん、お疲れさまでした」
残ってくれたおばさん、おっちゃん、相川さんからねぎらわれた。
周りを見回してごみなどが落ちてないかどうか確認し、器材などを運び終えたらおっちゃんちに行くことになっている。今日はおっちゃんちで打ち上げだ。
その前に桂木さんにLINEを入れて確認する。
「終ったよ。ナギさんてどういう関係の人?」
それによって次に顔を合わせた時の対応が変わるからそこは聞いておかなければならない。
「元彼の親友です。絶対関わりたくないです」
「へえ……」
LINEの返信を見て思わず声が出た。そんな立ち位置の人が探しにくるのかと感心してしまった。
「また今度詳しく話します。教えてくださってありがとうございました」
「うん、ゆっくり休んでね」
後日雑貨屋にも話を聞くのを忘れないようにしないとなと思った。
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