61.五か月は経ったけど
火曜日はおっちゃんちに
昨日タマがおなかの大きいマムシを捕まえてくれた。見せてはくれたけど食べたさそうな顔をしていたので「食べていいよ」と言ったら三羽でガツガツと食べ始めた。もちろん俺は少し離れて見ないことにした。ニワトリの捕食風景こわい。(自分でも何を言っているんだかよくわからない)
正直これだけ捕まえれば来年はほとんど出てこないだろう。油断はできないが、毒蛇が少なくなるというのはいいことだった。川に生息していたアメリカザリガニの数も目に見えて激減した。来年は魚が上がってきてくれるといいなと思う。
話を戻そう。
おっちゃんちである。今日はタマとユマが付き添ってくれた。
「まぁ、これが参鶏湯なのね。初めて見たわ。どう調理すればいいのかしら?」
おばさんは作り方の紙を見ながら野菜をふんだんに入れて作ってくれた。もちろんそれだけでなく唐揚げや野菜の天ぷら、煮物などもごちそうになった。なんか最近ごちそうになってばかりだな。
「そう、みんな予防接種を受けたのね。それなら病気の心配もしなくていいわね。よかったわ」
ニワトリたちが無事予防接種を受けたことを伝えると、おっちゃんとおばさんは我が事のように喜んでくれた。二羽は今土間で野菜くずを食べている。食べ終えたら庭や畑を回るのだろう。
「昇ちゃんには本当に感謝しているのよ。畑仕事で毒蛇に怯えることもなくなったし、ポチちゃんたちのおかげで害虫も食べてもらえるしね。まぁ……この人のマムシ酒コレクションは困るけど……」
「何言ってんだ! 三年は寝かせないとうまくならないぞ!」
そういえば倉庫の棚にマムシの入った酒瓶が並んでいた。昼間はまだいいが夜はとても怖い。まるでホラーだ。絶対に見たくない。
「その三年の間にどれだけ増やす気なのよ!」
「ら、来年はさすがにそれほど捕れねえだろ……なぁ?」
おばさんの剣幕にたじたじになったおっちゃんに振られた。
「そうですね。卵持ちもうちのニワトリたちが捕まえてますので、来年はほとんど見ないと思いますよ」
「それならいいんだけど……」
「何? 卵持ちがいたのか? それは……」
おっちゃんが食いついてきた。
「ニワトリたちが食べましたよ」
「そんなぁ……」
「あんたの山じゃないでしょう! 諦めなさい!」
情けない顔をするおっちゃんをおばさんが叱る。卵を抱えているものはあまりいないのかもしれないが、あれはあれで捕まえるのがたいへんなのだ。けっこう凶暴だし。俺としてはニワトリたちが食べてくれて助かった。
食後のお茶をいただいてやけにほっとした。小さい頃は苦くてあまり好きではなかったが、今はその緑茶の苦味がおいしく感じられる。そういえば相川さんが玄米茶は沸騰したお湯でもいいが、緑茶は温度を下げて淹れるといいと言っていた。まめな人だなといつも思う。
「そういえば、昇ちゃん。ナル山のお嬢さんとはどうなってるの?」
お茶を噴くかと思った。
おっちゃんが席を外したのを見計らったように聞かれ、俺はつまった。
「ど、どうって……」
「ニシ山の格好いいお友達と仲良くするのはいいけど、そろそろどうなの?」
俺は顔が強張るのを感じた。もしかしたらうちの親から電話でもあったのかもしれない。
周りからしたらもう五か月経ったという心境なのかもしれないが、俺にとってはまだ五か月だった。
留学すると言ったかつての婚約者は、向こうの大学に入るべく現地で語学学校に通っているのだろう。それだって半年やそこらでどうにかなるとは思えない。よしんばここで向こうの大学に受かって九月から入学するとしても……それから卒業まで四年だ。さすがにそれだけの時間が経てば吹っ切れるかもしれないが、まだまだそんな気にはなれない。
それに、そんなことを考えるのは桂木さんに対しても失礼だと思った。
「……無理ですね」
だからきっぱりと答えた。
「桂木さんとどうのとか、桂木さんに対しても失礼ですよ。それに今は山の手入れが楽しくてしかたないんです。ニワトリたちもかわいいし……だから心配しないでください」
「そう……昇ちゃんごめんね」
「いえいえ。気にかけていただいてありがとうございます」
正直俺自身はそんなに気にはしていない。若い男女が一緒にいればそう考える人は多いのだ。
「漬物おいしいです」
白々しくなってしまったが実際においしかった。ぬか漬けおいしい。うちでぬか床とか用意できる気がしない。
そうして近況を適当に話して俺はおっちゃんちを辞した。
帰り際に、
「お前んとこのニワトリが回ってくれた田畑は今んとこなんともないとよ。夏祭りの手伝いよろしくなー」
とおっちゃんに言われた。具体的なことが決まり次第また連絡してくれるらしい。
「こちらこそ慣れないことなのでいろいろ教えてください。よろしくお願いします」
日が落ちる時間が遅いのでまだ辺りは明るかった。それでも日が落ちれば一気に暗闇に包まれる。ポチは今頃どうしているだろうか。そんなことを思いながら軽トラを走らせた。
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