60.酒気帯び運転ダメ絶対!
今回頭痛はしなかった。
が、ぼんやりと目覚めた視界にニワトリのドアップがあって混乱した。しかもそのニワトリの顔がでかい。目の前がニワトリの顔でいっぱい。それはなんかのクリーチャーっぽく見えた。
とさかが立派じゃないから……。
「近いよ、ユマ……おはよう」
自分の声がひどくしゃがれていた。
「オハヨー」
ユマは挨拶を返すと座敷から出て行った。
「サノ、オキター」
と声が聞こえる。相川さんに知らせにいってくれたようだった。布団からどうにか身体を起こし、なんかいいなと思う。ニワトリだけじゃなくて誰かがいる生活は楽しそうだ。その誰かが全くイメージできないけれど。
布団を畳む。
顔を洗い、玄関先の土間に移動する。土間にテーブルがあるというのもこの家ならではだ。
ポチとユマが土間の隅で野菜くずなどを食べていた。テーブルにはもう漬物などが置かれている。冷茶が入ったピッチャーも置かれていて、相川さんの女子力の高さが窺えた。
「おはよー、ポチ、ユマ……」
「オハヨー」
「オハヨー」
ちゃんと挨拶してくれるうちのニワトリたちマジ天使。
相川さんには何から何まで世話をしてもらって申し訳ないと思った。朝と昼ごはんをごちそうになった。酒ってそれなりに飲んでしまうと寝て起きてもなかなか抜けないものだ。そんなわけで飲酒の翌日はせめて昼過ぎまで車を運転しないようにしている。ただ村ではそこらへんがアバウトで、駐在さんもわざわざ飲酒運転の取り締まりなんかしないものだから、中年以上のおじさんたちは酒を飲んでも平気で運転したりしている。事故らないことを祈るばかりだ。
そういえばイタリアでは昼から飲酒するのが当たり前だから、赤信号が大きく作られてるなんて聞いたことがあった。実際の交通事故発生率が気になるところではある。
「いつもすみません……」
恐縮する。
「そんなに気にしないでください。やりたくてやってるだけですから」
相川さんはそう言ってほがらかに笑った。
「たまにだからできるんですよ~」
確かに毎日はできないかも。そう考えると村の奥さんたちはすごいなと思う。家事をして、子どもの世話をして、畑仕事までして。どんだけ俺たちはいろんなことを女性に任せているんだろう。ま、うちは俺だけだけどさ。母親のありがたさが身に沁みる。
帰宅してからまたいろいろ考えた。ニワトリの健康を考えるなら歯磨きもした方がいいだろう。何せうちのニワトリたちには立派なギザギザの歯が生えているのだ。素直に磨かせてくれるかという問題もある。
「とりあえず大きめのブラシを買うか……」
靴を磨く用のブラシとかがいいのかな。普通の歯ブラシをまずは買ってみよう。
ずっと健康でいてほしい。相川さんはリンさんとテンさんの歯磨きをしているらしい。確かに食べることは全ての基本だしな。猫の歯槽膿漏とか聞いたことあるし。
「明日買物に行くかー……」
今日はもうダメだ。家の中の換気の為窓を全て開け放ち、俺は畳に倒れた。
帰宅後ひと騒動あったのだ。
珍しくタマが家の玄関先でうずくまっていた。
「ただいまタマ、どうしたんだ? ……って、あーーっっ!」
なんということだろう。俺は無意識で玄関に鍵をかけて出てきてしまっていたらしい。毛があっちこっちに跳ねて逆立っているところまである。また夜じゅう山中を駆けていたのかもしれない。だが今日はさすがにそれを責められなかった。何せ家に入ろうとしたら入れなかったわけである。
「タマ、本当にごめん!」
はたして玄関には鍵がかかっていた。なんとも申し開きができる状態ではなく、俺は即タマに頭を下げた。
当然のことながら延々つっつかれた。ごめんなさいごめんなさい。これからはもっと気を付けます。
で、どうにか宥めて洗わせてもらい、土間でお昼寝してもらった。これがニワトリだったからいいけど人間だったら大問題だと思う。もう少し気を付けなければいけないなと思った。
ポチとユマはパトロールに出かけた。暑いのにご苦労なことだ。
「平和だなー……」
タマには悪いことしたけど。
夜おっちゃんに電話した。料理のことなのでおばさんに代わってもらう。
「先日松山さんのところから
「あら、いいの? お隣の山の人と分けないで」
「相川さんも共に行っていただいたので、そちらの分は一緒に食べたんですよ」
「そう……」
おばさんは何か言いたそうだったが、火曜日に持って行くことにした。
今週はあと木曜日に猟師さんに会いに行く。この辺りで狩猟関係の取りまとめをしている人らしい。もしかしたら秋本さんにも関係があるのではないか。そう考えて秋本さんに電話したら、
「あー、あの人か。ニワトリ連れて行った方がいいよ」
と言われた。基本気難しい人らしいが、多分ニワトリを連れて行ったら仲良くなれるのではないかという。わけがわからないがそうすることにした。
今週もいろいろ楽しみだ。
明日はまた山の手入れをしよう。いつになったら裏山を探検できるだろうか。土地が広いのはのびのびと暮らせていいが、その分の手入れもたいへんだなと思った。
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