58.梅雨が明けたら作業、作業

 結論。俺には朝風呂は向かない。以上。

 というわけでユマにも今日だけだからなと釘を刺した。

 ユマは縦には伸びているが横はそうでもないのでまだ一緒にお風呂に入れている。これ以上でっかくなったら一緒に入れないかもなと言ったら、なんかショックを受けたような顔をされた。まさかな。


「あっついなー……」


 梅雨が明けたら一気に暑くなった。それでも山の上は陽射しが強いぐらいで空気は爽やかである。これが麓に下りると空気感が変わるのだから不思議だなと思う。やはり木の多さとか、足元は基本土だとかいろいろ関係しているのだろう。

 周りの廃屋の解体などは雪が降る前に開始することにした。十一月の終りぐらいから相川さんの知り合いの狩猟関係者が来てくれるらしい。入れる山が少なくなっているから助かるよと言われた。まだ早いが来週中に一度猟師さんのお宅に伺うことになった。

 梅雨の間もそうだったが、太陽の光を浴びて雑草がぐんぐん生える。静かにどんどん範囲を広げていくのだ。植物の生命力をものすごく感じた。

 ちら、と今日も一緒にいてくれるユマを見る。この山の気のようなものを浴びてうちのニワトリも大きく育っているのかもしれない。となると冬になったら成長が一時的に止まったりするんだろうか。って暑くなるのはこれからだよな。この先本当にどこまで大きくなるのだろう。

 家の周りに生えている雑草をどんどん抜いていく。すぐに汗だくになり、朝風呂に入った意味が見事になくなった。家の周り、畑の周り、駐車場周り、川の確認。そして道路の点検などしなければならないことは沢山ある。もちろん廃屋の周りも確認する。


「墓……後で行くかー……」


 昼食を軽く食べて作業をし、三時頃にようやく一息ついた。明日は相川さんちに泊まりだから今日中にできることはやっておかなければならない。山の上の墓の手入れも必要だ。最初のうちはいちいち筋肉痛になっていたが、最近はそうでもない。でも今日は久しぶりにかなり手入れをしているから、明日は身体が痛くなるかもしれなかった。

 三時のおやつにとブルーベリーを摘まんでいたらユマにじーっと見られていた。袋からがさっと取ってユマ専用の皿に移す。


「ポチとタマにはないしょな」

「ナイショー」


 朝ごはんを食べた後は夕方まで帰ってこないのだ。本当にどこまで遊びに行っているのだろう。今度カメラとかつけさせてもらおうかな。


「甘くてうまいなー」


 ちょっと酸っぱい。この酸味がいい。


「アマーイ」


 口の中を青くしてユマが同意してくれる。

 ついつい顔がほころんでしまう。ペットの癒し効果ってすごいなとしみじみ思った。

 その後は軽トラに乗って更に上へ。墓の周りも雑草が生い茂っていた。げんなりしながら抜いて抜いて抜きまくる。来月はここに住んでいた人たちが墓参りに来るんだろうか。俺もじいちゃんの墓参りどうしようかな。

 墓の近くの川から水を汲み、丁寧に掃除する。そこらへんに咲いている花を飾って手を合わせる。俺はここの人たちの子孫ではないけれど、この山に住んでいる限りはしなければならないことだった。


「明日は相川さんちかー……」


 アメリカザリガニがいっぱい捕れるといいな。

 って、相川さんへの手土産は?


「あーもー俺ってヤツはあああああ!!」


 どうせ行くのは夕方だから先に村の雑貨屋でビールでも買っていこう。


「今度は……醜態を晒しませんように」


 墓の下から自分でどうにかせえという声が聞こえた気がした。そうですよね。



 翌日は午前中から川でアメリカザリガニを捕った。ニワトリたち総出でバケツをいっぱいにしていく。さすがに一か所ではそれほど捕れないのでまさに上から下まで周りバケツ一個半ぐらい捕れた。だからどんだけいるんだっての。


「他の川にもいんのかなー……」


 この山にはうちの近く以外にも川が何本かある。水が豊富なことからサワ山と名付けられているのだ。かつては水田もあった土地は草ぼうぼうで見る影もない。高齢化などによりこうやって景色は消えていくのだろう。米作り? さすがにする気にはなれないな。

 やっぱり今回もタマは留守番するようだ。別に留守番してくれるのはかまわないんだが。


「……タマ、夜中山の中で遊んだりするんじゃないぞ?」


 あ、コイツ顔反らしやがった。


「……聞いてくれないなら、連れていくしかないが……」


 タマがズザザッと俺の側から飛びのいた。なんか今マンガみたいな動きしたぞ。うちのニワトリ大丈夫か。


「なぁタマ、頼むよ」

「…………」

「俺、タマのこと心配なんだよ」


 いくら夜目がきくといっても、光一つない山の中だ。もし穴みたいなのにはまってしまったらどうすればいいのだろう。そこをクマのような猛獣に襲われたりしたらタマでもひとたまりもないに違いない。


「あんまり夜遊びしないでくれな」


 タマは返事をしてくれなかった。けっこう頑固なのだ。でも俺の思いは知ってくれただろう。今はそれだけで十分だった。


「さーて、出かけるかー」


 ポチとユマ、ザリガニがたんまり入ったバケツを軽トラの荷台に積んで、俺は山を下りていった。

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