57.予防接種の後で。参鶏湯おいしい

 前回の失敗を踏まえて、自分の分を冷蔵庫に確保しつつブルーベリーをニワトリたちに与えたら……うん、全部食われたね。しかも冷蔵庫に入ってるのわかってるらしくじーっと冷蔵庫見てるんだよね。勝手に開けて食べられないことを祈る。(普通に開けそうなところが怖い)

 さくらんぼは通販で買ったらしく相川さんがおすそ分けしてくれた。もう本当に頭が上がらない。ニワトリたちにじーっと見られたが、確かバラ科の果物は与えてはいけなかったはずだ。それにこんな大粒のさくらんぼはすごく高いんだぞ! ブランド品だぞ! 絶対に食われてなるものか~! 恨めしそうな視線を感じたが当然無視だ無視。

 帰り際に、木本さんが気になることを言っていた。


「普通のニワトリとは違うからなんともいえないけど……もしかしたらそろそろ卵を抱えるかもしれないね」

「……有精卵と無精卵って区別つくんですか?」

「外側からはわからないよ。割ってみないとね。温め始めて十日ぐらいすれば、暗い部屋で光を当ててわかることもあるかもしれないけど」

「そうなんですか」


 卵を産んだとして、そもそもユマとタマがくれるかどうかもわからない。取ることを許してくれるなら取らせてもらうぐらいの気持ちでいた方がよさそうだった。だってあいつらでかいし。生き物として勝てる気がしない。

 さて、またパウチしてある鶏を一羽もらってきたがどうしようかと悩んでいる。前回は相川さんと一羽を食べたが今回は相川さんも一羽いただいている。

 どうしたものかなーと思っていたら相川さんからLINEが入った。


参鶏湯サムゲタン、どうします?」


 同じことを考えていたようだ。


「また二人で食べますかねー?」


 二回集まって食べることになるのか。それはそれでいいけどこちらがもてなすのはたいへんだ。


「湯本さんにおすそ分けしたらどうですか?」

「その手があったか!」


 さすがにまんまあげると角が立つので、手に入ったから一緒に食べてほしいとお願いすればいいかもしれない。さすがにうちのニワトリに食べさせるのは……と思っていたのだ。参鶏湯の他に鶏肉を買わせてもらったのでお土産に持っていけばいいと思った。


「うちの分は食べにきてください。明後日に泊まりなんてどうですか?」

「酒がなしならいいですよ」

「ビールぐらいいいでしょう」


 そんなやりとりをして、土曜日はまた相川さんの山に泊まることになった。なんだかんだいってお世話になっているからあまり逆らえない。それにまあ、ニワトリたちはずっと側にいてくれるけど寂しいと感じる夜だってあるのだ。って、何を言い訳してるんだろう。


「うーん、そしたらおっちゃんちはどうしようかなー」


 参鶏湯は冷蔵で一週間は持つと聞いたから、月曜日以降に持って行けばいいかと思う。しばらくは参鶏湯三昧だなと思った。でもおいしいからいいや。鶏肉好きだし。あ、うちのニワトリは食べないよ。つーか、絶対捕まえられないし。


「予防接種したから、様子は見といてくれって言ってたな……」


 一応三十分はアナフィラキシーショックが出る可能性があるから近くにいるようにと言った。その後なんともなく、山中を駆けずり回っていたから大丈夫だと思う。あれ? でも、そもそも予防接種した後ってあんなに動き回っていいものなのか? 動くなって言っても聞きそうもないけど。

 ユマは毎日一緒にお風呂に入っていると伝えたら、今夜は一応控えた方がいいかなと言われた。大丈夫だとは思うけどまずうちのニワトリ自体前例がない。予防接種の副反応とかもあれば詳しく教えてほしいそうだ。


「佐野さんちのニワトリの為に日参したいぐらいだよ~」


 木本さんがそんなことを言っていた。


「そんなに気に入っていただけました?」

「だって羽毛恐竜だよ、羽毛恐竜! ときめくでしょ!」


 面白いおじさんである。うちのニワトリにときめかないでください。ニワトリですから!

 夜はたいへんだった。


「オフロー」

「ごめん、今日はだめだって」


 ユマがコキャッと首を傾げた。そんな可愛い仕草してもだめ。


「注射したから、入れないって。明日一緒に入ろう」

「オフロー……」


 すごすごと土間に戻ったユマがなんとも可哀そうだった。やっぱり一緒に入ろう! と言いたくなってしまう。ユマがちら、とこちらを振り返った。あああユマかわいい。あざとい! しかしだめなんだ。これはユマの為なんだ!


「明日なー」


 土間で背を向けて丸くなっているユマの背中が寂しそうだった。明日は一緒に朝風呂するか。もちろん夜も入るようだけど。でも朝風呂ってどうなんだろうな、とかぐるぐる考えてしまって全然風呂に入った気がしなかった。しかも風呂から出たらユマが脱衣所の外で背を向けて座ってるし。


「ユ、ユマ~……明日の朝、入ろうな?」


 ちら、と振り向かれた。


「アサー」

「うん、朝風呂に入ろうな!」

「ハイルー」


 ユマはそれで納得してくれたらしく、トトトッと土間に戻って行った。俺はその後、廊下を拭き掃除することになった。

 朝風呂? もちろん一緒に入ったさ……。

 かわいいニワトリの為だからな! タマに何やってんの? って目で見られた。つらい。

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