56.養鶏場にて予防接種。ニワトリはどこまで成長するのか。
すぐに松山さんと獣医さんである木本さんが出てきてくれた。
「こんにちは、佐野さん。家の中に入ってもらった方がいいかな」
「そうですね。入ってもらいましょう」
木本さんと松山さんが俺たちを家の中に促した。
「ええと、これから友人の相川さんも来るのですが、どうしたらいいですか?」
「じゃあ僕が待っていることにするよ」
松山さんは外で待機してくれるようだ。ありがたいことである。
しかし一番の問題はそれではない。
ポチを囲むようにしてタマとユマが軽トラから下りた。木本さんが目を輝かせた。
「おお! 立派なオスですね~! すぐ終わるから身長と体重も測らせてもらっていいかな~」
「すいません、多少……その、気が立っているようで……」
「うん! わかる、わかるよ! 君たち頭がいいんだね!」
木本さんはとても嬉しそうに何度も頷いた。ニワトリたちは羽があっちこっちに飛んでて盛大な寝ぐせのようになっている。もちろんポチが一番ひどい。そんな三羽を眺める木本さんは上機嫌だった。松山さんのお宅の土間をお借りして身長体重などを測ってもらう。また10cmぐらい伸びていた。お前らはどこまで成長するつもりなんだ。
そして肝心の注射だが、
「すぐ済むよ~」
あまり痛みを感じなかったらしく三羽ともスムーズに終わった。それか木本さんの腕がいいのだろう。蓋を開けてみればすぐに終わり、拍子抜けだった。
「はい、終わったよ。えらかったね~」
「ありがとうございました」
三羽は注射を終えると逃げるように表へ出て行った。確かにニワトリたち自体にもう用はない。
「もうけっこうな月齢だよね」
「そうですね、三月に買ったので……五か月近く経ちますね」
「それならしばらくは打つ必要はないかな。気になるようなら、鶏伝染性気管支炎用の飲水接種はした方がいいとは思うよ」
「ワクチンによって接種方法が違うんですか」
「うん、人間だってそうでしょ」
「そうですね」
そういえばBCGはハンコ注射だった。経皮スタンプとかいうんだっけか。よく知らないけど。
それにしてもまたでかくなっていた。体重はそれほどではないが上に伸びているのがすごい。
「佐野さんちのニワトリは面白いね。見てて飽きないよ。また見せてね」
一緒に表に出て、松山さんに終わったことを伝える。木本さんはそこらへんをつついているニワトリたちを嬉しそうに見ていた。そうしているうちに軽トラが一台入ってきた。相川さんだった。
「こんにちは、初めまして。遅くなりましてすいません。相川と言います」
「こんにちは、別に遅くはないよ。松山と言います。君はかなりの男前だなぁ……今日はいっぱい食べていってくれ」
「ありがとうございます、遠慮なくいただきます」
いつも通りリンさんが助手席に納まっていた。タマは近くにいたが、相川さんの姿を認めるとすごい早さで逃げて行った。だからどんだけリンさんたちが苦手なんだよ……。
俺は気を取り直してリンさんに挨拶をした。
「リンさん、こんにちは」
「サノ、コニチハ」
そうして松山さんの近くに戻る。リンさんに関してのやり取りがあったようだが、それも済んだらしい。
「ニワトリたちはそのままでいいのかな。一応養鶏場には近づかないように言っておいてね」
「はい」
鶏舎の中に納まっているとはいえ、当然換気はしている。ニワトリたちが近づかないに越したことはなかった。タマ以外は近くにいたので、ポチとユマにあっちの建物の近くには行かないように言った。二羽は反対方向へ駆けて行った。
「こちらの山は松山さんの持ち物なんですよね?」
「うん。この山の範囲なら好きに遊んでてくれていいよ。ついでに蛇とか捕まえてくれると助かるかな~」
農家にニワトリを貸し出していたことはみんな知っているのだろう。
「そうですね。捕まえたら持ってくると思います」
「頼もしいね~」
「うん、やっぱり羽毛恐竜だね」
木本さんがうんうんと頷きながら言う。ニワトリですから。先祖返りしてるかもしれないけどニワトリですから。(大事なことなので二度言いました)
家にお邪魔し、おばさんが準備してくれた手料理に舌鼓を打った。
うん、鶏おいしい。たまらない。
ちなみに、おばさんは相川さんを見て頬を染めた。
「あらあらあらあらまあまあまあまあ! いい男ねぇ~!」
「ど、どうも……」
こういうのってなんとも答えようがないよな。でも若い女性ではないので相川さんも普通に接していた。
手土産はさくらんぼだった。
「んまあ、大粒ね! ありがとう~」
山形のさくらんぼらしい。確かに粒が大きくておいしそうだなと思った。
「よかったらうちのブルーベリーも採っていってね~」
松山さんのお宅は養鶏場だけでなくブルーベリーも作っているらしい。山なのでまだ少し早いかもしれないが、おいしい季節だと聞いた。
ちなみに、ポチがマムシを二匹を捕まえてきた。そのおかげか、「また連れてきてね~」と上機嫌で送り出された。
ポチ、グッジョブ。こちらにはとてもお世話になっているし、一度派遣を考えた方がいいかなと思った。
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