52.そろそろ梅雨が明けそうです。酒を飲んだ翌朝の梅茶漬けが最高

 会合はいつもより早く終わったようで、老人たちはみなふらふらしながら帰っていった。あの足取り、少し心配である。水路とかに落ちなきゃいいけど。

 いつもなら老人たちも何人か泊って行くようだが、今回はものの見事に帰っていった。おじさんたちが何人か残ったが、今夜の泊り客は少ないという。もちろん俺は泊まりだ。ポチとユマは土間にいる。でっかいんだけど、あの羽に埋もれてるかんじがかわいいんだよな。


「ポチ、ユマ、いつもありがとうなー」


 酒を飲んで近づくと嫌がられるので少し離れたところで礼を言った。ユマのおかげでそれまでピーチクパーチク言ってた人たちが黙ったのだ。やはり百聞は一見に如かずということなのだろう。(なんか違う)

 おじさんたちは浴びるように酒を飲んでいたからもういびきをかいて寝ている。俺もふわふわした状態のまますぐに眠ってしまった。

 翌朝は思ったより早く目が覚めた。台所へ水をもらいに行くと珍しくおっちゃんがいた。


「おはようございます」

「よう、よく眠れたか」

「おかげさまで」


 何をするでもなく、縁側に出た。ポチとユマはとっくに起きていて野菜くずなどを食べた後らしい。広い庭で何やらつついている。のどかだなぁと思う。


「……さすがに暑くなってきたな」

「雨が降らないと暑いですね」


 梅雨もそろそろ終わりだ。

 梅雨が終ればしなければならないことが沢山ある。獣医さんにも連れていきたいし、また草むしりを再開しなければならない。道の状態だって確認したり、山の上の墓の清掃もしなければならない。こんな状態でいつになったら後ろの山を見て回ることができるだろうか。山の手入れはたいへんなのだなとしみじみ思う。あ、廃屋の解体もあるんだった。

 そんなとりとめもないことを考えていたら、おっちゃんに声をかけられた。


「なぁ、昇平」

「はい」

「あのな……昨日やりあった俺が言うのもなんなんだが、じいさんたちも悪気はねえんだ」

「はい」


 それはよくわかっている。


「ただなぁ、長く生きてると考えだのなんだのが凝り固まって、変化についていけなくなる。村の若衆が多かった時代ならいい。だが若者はどんどん村を出て行く。それなのに少なくなった若者たちに、若者だからと負担を強いるんだ。そりゃあ嫌になって出ていっちまうよな……」


 卵が先かニワトリが先かではないが、若者が都市部へ流出してしまうのは情報も大きいだろう。昔ならばなかなか得られなかった、異なった都市の情報が当たり前のように得られるのだ。町の方が仕事は多いし、便利だ。地域の為にあれやれこれやれとも言われないだろう。祭りや神社の掃除などの当番も、ない方が面倒はなく気ままに生きられる。そうやって出て行くのはしかたがないことだと思う。

 村の老人たちはその変化についていけないのだ。結果老人だけが村に取り残される。

 なんとかならないものだろうかと思っても、俺の頭じゃいい考えは浮かばない。


「……俺は山も買いましたからずっとここにいますよ」

「そうだな。あんなでっかいニワトリ、町じゃ飼えねえしな」


 ポチたちを眺めながらおっちゃんが笑った。本当にそうだ。うちのニワトリ然り、大蛇然り、ドラゴンさん然り、である。そう考えると相川さんと桂木さんもここに骨を埋める覚悟なのかもしれない。


「……しっかしなんであんなにでかく育っちゃったんだろうなぁ……」


 なんとなく俺のせいだってことはわかる。ペットに気遣われる飼主。なんとも不甲斐なく情けない。


「なんでだろうなー」


 おっちゃんがガハハと笑った。あんなにでかく育ってしまっては地元に連れて行くことも難しい。じいちゃんたちの墓参り、どうしたもんかなー。さすがに日帰りってわけにはいかないだろうし……一晩留守番してもらうようか。


「暑くなってきたわねー。はい、お茶漬け」

「すいません、ありがとうございます。いただきます」


 おばさんがわざわざお盆にお茶と梅茶漬け、漬物をのせて持ってきてくれた。二日酔いになるほどは飲んでいないが、梅干しのさっぱりとした味に胃が喜ぶのを感じた。こういう気遣いっていいよなとしみじみ思う。


「もっと食べたかったら言ってねー」


 そう言っておばさんは戻っていった。


「……おっちゃん、おばさんとどうやって知り合ったんですか?」

「お? 昇平も少しは考えられるようになったか?」


 おっちゃんがニヤニヤしながら言う。これはわざとだろう。


「いえ……まだそういうことは考えられませんけどね。おばさんはいろいろ気が付いていいなぁって……」


 おっちゃんが微妙な顔をした。そして俺を睨む。


「……やんねえぞ」

「……俺がフられますよ!」


 何言ってんだこのおっちゃんは。

 だいたいおばさんだって初めからなんでも気が利いていたわけではないだろう。おっちゃんと夫婦として暮らしてきたから今のおばさんがいるわけだ。いただけるわけがないだろう。

 それにしてもこの時間でこれだけ暑いのだ。酒が抜けたら早々に退散しようと思う。ふと視線を感じて顔を上げると、ポチとユマがじーっとこちらを見ていた。いつになったら帰るのか、と言っているようだ。すいません、酒が抜けるまでもう少し待ってください。


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「嫉妬」短編・恋愛

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出会いと別れがテーマの作品です。その先に希望はあります。よろしくー

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