31.蛇問題継続中につき、あちこちに電話してみた。
「ええ!? ハブですか!?」
「西の山に出たらしいです……」
桂木さんはパニックを起こしたようだった。電話口でぎゃーぎゃー言ってこちらの言葉が届かない。どうしよう、と思っていたらユマが俺の手からスマホを取り上げた。
「ユマ!?」
それは押しちゃだめだって!
畳に落とされ、足でタッチされて電話が切れた。
「ユマああああ~~~~!」
大事な話をしている時になんてことを!
しかもユマは俺のスマホを器用に咥えると、そのまま家の奥まで走って持って行ってしまった。
「ユマ、待って待って! 液晶割れる割れる! お願いだから返してくれ~!」
ユマは一番奥の部屋の畳にスマホを落とした。
「ユマあ~……なんでこんなことしたんだよー……」
おそるおそるスマホを持つ。一応落としても大丈夫なように耐衝撃ケースをつけていたせいか、見た目異常はなさそうだった。ほっとして、ユマを睨んだ。
「スマホはダメだって言っただろ」
ユマはすりっと俺に寄り添った。かわいい。
じゃなくて!
「怒ってるんだからな!」
すりすりすり。ああもうこの「お願いだから機嫌直して?」的なあざとさがたまらない。かわいい。たまらん。ってだからそうじゃなくて!
「……もうしないでくれよ?」
すりすり。俺はユマの羽を撫でた。とても勝てません。甘やかしている自覚はあります。だってうちのニワトリ超かわいい。
ってだからそうじゃなくて。
「桂木さんに電話するから、邪魔しないでくれよ。な?」
ユマが変わらず俺の身体にすりすりしてくる。撫でながら改めて電話してみた。ダメな飼主ですいません。
「もしもし、佐野です。すいません、電話が切れてしまって……」
「佐野さん、すいません。さっきは取り乱してしまって……。私混乱すると誰の声も聞けなくなるみたいで……本当に申し訳ありませんでした」
電話が切れたことでどうにか落ち着いたらしい。ユマ、結果オーライだからって許してないからな。
まぁでも取り乱す気持ちはわかる。ハブは怖いよな。俺だって怖い。
「……ハブがこの辺りで放たれたかもしれないってことですよね?」
「あくまで可能性としての話です。ただ西の山には出たそうなので気を付けてください」
「この辺り、ハブって出ませんものね」
「全く聞いたこともないですよ。タツキさんに蛇の特徴を伝えればどうにかなりそうですか?」
「はい、たぶん……」
なんとも頼りない返事だ。明日相川さんが捕まえたハブの実物をおっちゃんちに持って行くと言っていたから、集合してもいいかもしれない。もちろん相川さんには断る必要があるけど。
「じゃあ、明日西の山の方がハブを湯本さんちに持って行くので、ついでに来られますか?」
「あ、はい! 行きます!」
「一応聞いてみますね」
先に聞いておけよ、俺。とか思いながら電話を切り、相川さんとおっちゃんに電話をかけた。
「えーと、桂木さんの飼っている大トカゲにハブを見せればいいんですよね……」
できることならまだ妙齢の女性に会いたくない相川さんである。
イケメンはモテていいよななんて思っていた時期もあったけど、どうもストーカー事件以外でもいろいろあったようだ。ストーカー事件によって妙齢の女性への恐怖が顕在化したのかもしれない。もう顔を出す仕事はしたくないです、なんて遠い目をして言っていた。
「ええ、あとは挨拶ぐらいですむと思います」
「……リンと一緒に行きます。もし何かありましたら、リンが嫉妬深いので女性には近寄れないって、口裏合わせていただいていいですか?」
「わかりました」
リンさんはそうやって相川さんを守っていたんだろうな。桂木さんに対して失礼だとは思うがしかたないだろう。相川さんの心の傷はまだ癒えてない。
でも多分何もないだろう。
おっちゃんに電話をかける。ハブを確認する為に桂木さんも行くと伝えた。
「それにしてもすげえなあ。相川さんが捕まえたのか?」
「いえ、飼っている大蛇が捕まえてきたらしいですよ」
「昇平んとこのニワトリみてえに賢いじゃねえか。大蛇かぁ、見てえなー」
「ええ? たぶん3m以上ありますよ? 連れて行くのは無理じゃないですかねー」
「そっかー。じゃあ今度西の山を訪ねていいかどうか聞いてくれ。どんだけでかいのか見たい!」
「口外無用ですよ……。明日直接交渉してください」
「おう!」
おっちゃんのわくわくした声が届く。アオダイショウは1mぐらいではあるが大蛇と言われるほどではない。(wikiだと100-200cmと書いてあった。ただ細いので大蛇には見えないだろう)見たいという気持ちはわかるが、親しき仲にも礼儀ありだ。って、おっちゃん自身は相川さんとはほぼ初見だろう。不安になったのでまた相川さんに電話してお伺いを立てた。
「うちの山に、ですか」
「どうやらテンさんが見たいらしいんですよ。もちろん断ってくれて全然かまいません。明日いきなり言われたら困ると思ったので」
「わざわざありがとうございます」
電話の向こうで相川さんが微笑んでいるのがなんとなくわかった。
忘れないうちに桂木さんに明日はOKとLINEを入れておいた。
なんか今日は電話してばかりだな。他にやることはーと思った時、玄関の方からガンガンと扉を蹴るような音がした。山のパトロールに出かけていタマが帰ってきたらしい。いっけね、ついクセで鍵を閉めてしまったようだ。
「ごめんごめん、タマー玄関蹴るなー、割れるー!」
「ワレルー」
「ワレルー」
ポチとユマが合唱する。本当に割れたら困るからやめてください。
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注:不快・意味がわからないコメントについては予告なく削除します。気に食わない内容の場合はコメント等残さず、他の方の作品をご覧ください。よろしくお願いします。
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