30.蛇が多くなっている理由。ニュースの見落としは命取りかもしれない
おっちゃんから農家さんに話すということで、都合がつき次第連絡がくると言われた。おそらく二、三日中に声がかかるだろうという話である。
その日はポチにつんつんつっつかれながら肉類や卵などを購入して山に戻った。ポチよ、恥ずかしかったのかどうか知らないが、いいかげんつっつくのはやめてほしい。けっこう痛い。作業着が丈夫でよかった。(穴は開かなかったけどつつかれたところがアザになっている気がする)
「雨嫌ですね。調子はどうですか?」
いろいろ片付けてからスマホを確認すると、相川さんからLINEが入っていた。蛇繋がりでヤマカガシについて知っていることはないだろうか。繋がらなければそれでいいと思って電話したら、三コールぐらいで出てくれた。
「もしもし」
「もしもし、佐野さん? どうかされましたか?」
相川さんは変わらず丁寧だ。俺は村でヤマカガシが増えていること。それを駆除する為にうちのニワトリが呼ばれたということを話した。
「それでなんですけど、なんでヤマカガシが増えているのか知りませんか?」
「あー……佐野さん最近ニュース見ませんでした?」
「ニュース、ですか」
何か関係があるのだろうか。
「コブラ効果って知ってます?」
「ええと……やったことがかえって逆効果になるって意味でしたっけ」
「意味というか、それの元となる逸話と似たようなことが近くの町であったらしいんですよ。詳細は全く異なりますが」
概要はこうだ。村の南、山を越えた先にあるS町の、東隣のT町に広い家があった。そこの主人は害虫・害獣駆除などを請け負う仕事をしていたが、昨年亡くなったらしい。亡くなったことで家屋の整理に息子たちが訪れたところ、そこの主人が趣味で大量の蛇を飼っていたことを知ったのだという。それも毒蛇ばかりで、困った奥さんと息子たちが近隣の山にそれらの毒蛇を先月ぐらいまで少しずつ放っていたというのだ。害虫・害獣駆除をしていた人の家族がそんなことをするなんて、亡くなった本人も思いもしなかったに違いない。
最近になって、亡くなった主人が懇意にしていたペットショップの店主が連絡をしたことで発覚。息子たちは毒蛇をそうと知らず放ったと主張しているそうだが迷惑な話である。
「え……てことはもしかしてうちの山にマムシが異常に多いのも……」
「その可能性がないとはいえませんが、村でヤマカガシがいきなり増えたというなら関連はあると思います。故人はヤマカガシも捕まえてかなり飼っていたようですし」
「村の人たち、そのことは知ってるんですかね?」
「それほど大きく取り上げられた事件ではないので、見落としている人も多いのではないでしょうか」
「野山に放つぐらいなら殺してくれればいいのに……」
「そうですね。無害な蛇ならともかく毒蛇は軽犯罪では済まないと思いますし」
とはいえニュースで取り上げられたのはそれ一回きりのようだ。調べればその後の話がわかるかもしれないが、取材のうまみがなければそれっきりしないのだろう。この辺りのことだけにぞっとしない話である。
ちなみに「コブラ効果」の元となる逸話とは、1800年代大英帝国支配下のインドで起きたことらしい。イギリス人知事は蛇が大嫌いだったので「コブラを駆除し届けて出た者には報酬を出す」と触れを出した。(コブラの被害がひどかったからという説もある)最初のうち、人々は野山でせっせとコブラを狩っていたが、そのうち飼育し始める者が出始めた。確かに報酬を得るだけなら飼育した方が早い。それに政府が気づき、報酬を出すということを廃止にしたことで、飼育していた者たちがコブラを野に放ってしまった。結果的によりコブラが増えてしまい深刻な被害が起きてしまったという。
相川さんが言いたかったのは、処理に困って蛇を放ったことで周辺により被害が出ているかもしれないということだろう。
「それに、実は今日リンがハブを捕まえてきたんですよ」
「ハブ!?」
ハブといえば沖縄などに生息している毒蛇じゃなかったか。この辺りに生息しているなんて聞いたことがない。
「それは……間違いなさそうですね……」
「うちは幸いリンやテンが捕ってくれるからいいですが、村とか他の山ではいつ被害が出てもおかしくないと思います」
「湯本さんに伝えてみます。ありがとうございます!」
一旦電話を切り、どこにどのように話せばいいか考える。
まずおっちゃんちに電話をしてニュースを知っているかどうか聞いたら知らないと言われた。
「ヤマカガシだけなら急ぐこたあねえがハブは厄介だな。業者にも頼むかもしれねえが、いつでも出動できるようにニワトリ共に言っといてくれ」
「わかりました」
「ああ、あともしハブの実物があるなら西の山のに見せてくれるよう頼んでくれないか? 勘違いだったらいけないからよ」
「相川さんに伝えておきます」
で、相川さんにまた電話をした。明日にでもおっちゃんちに持って行くので同行してほしいと言われた。もちろん二つ返事で了承した。
はーっとため息をつく。まさかそんなことが起こっていたなんて全然知らなかった。ユマが寄り添ってくれたので羽を撫でる。アニマルテラピーって本当にあるんだなと思った。
「ユマ、ちょっといいかな」
断ってぎゅっと抱き着いた。雨のせいかちょっと湿っぽいけど気持ちいい。ポチやタマは、撫でることは許してくれるが抱き着いたら思い切りつつかれるのでできない。冷たい奴らだ。
「ユマ、ありがとうなー」
「アリガトウナー」
「はは、それは俺の科白だよ」
笑ってふと、桂木さんの顔が浮かんだ。まずい、と思う。きっとドラゴンさんが対処してくれるだろうが注意喚起は必要だ。俺は急いで桂木さんにも電話をかけた。
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