32.山暮らし三人衆集結! っていうより怪獣大集結かもしんない

 翌日も雨だった。おっちゃんに昼頃来いと言われたのでそれまで畑の確認や家の周りを見て回った。今日もタマは留守番してくれるらしい。


「一緒に行ってもいいんじゃねーの?」


 と言ったら盛大につつかれた。わかってないわねッ! と言われているかんじだった。サーセン。

 昨日も雨の中パトロールしてたみたいだし、普段どこまで行ってるんだろう。走るスピードは速いけど持久力はどうなんだろうなとか少し考えた。

 ところで昨日の今日だから手土産はいらないだろうか。でもみんなで食べるお菓子ぐらいは持っていってもいいかも。ポチとユマを軽トラの助手席に乗せ、(だいぶきつくなってきた)タマに見送られて村に降りた。うちのニワトリたちは律儀で、俺が出かけるというとちゃんと見送りをしてくれる。その後本当にどこで何をしているんだろう。タマにカメラつけてって言ったら怒られそうだなぁ。

 おっちゃんちに到着。途中雑貨屋でまた煎餅を買った。何枚も袋に無造作に入ってるものを買っているが、一枚一枚が大きくて食べ出があるのだ。実はうち用にも常備している。

 おっちゃんちである。車がないことから、まだ二人は来ていないようだった。


「こんにちはー」

「昇ちゃんいらっしゃい。ちょうどいいわ、ヨモギとり手伝ってちょうだい」

「はーい」


 おっちゃんちの畑の向こうに雑草が生えている区画がある。蛇などがひそめないように適度に刈り込みはされているが、いろいろな植物が雑多に生えている。念の為ポチとユマにボディガードを頼んで二人でヨモギの葉を摘んだ。つばの広い麦わら帽子は多少雨避けになるので、あまり雨を気にせず摘むことができた。


「ありがとう、助かったわ。最近毒蛇が多いって言うじゃない。ちょっと怖くてね」

「ですよね」


 そんな時うちのニワトリがいれば万全だ。蛇だけじゃなくて畑や田んぼの害虫も食べてくれる。実はニワトリって万能なのでは?(普通のニワトリは蛇を捕ったりしないしイノシシも倒しません)

 そうしている間に車の音がした。相川さんだった。


「こんにちは、お邪魔します」

「相川さんでしたっけ? いらっしゃい。ま~、聞いてた通りカッコいい子ねぇ~」


 なんかおばさんの目の色が変わっている気がする。俺はさりげなくおばさんの前に出るようにして相川さんに挨拶した。


「こんにちは、相川さん」

「こんにちは、佐野さん。ヨモギ採りですか。まだ食べられるんですね」

「そうなんですよ~。天ぷらにしようと思うんだけどどうかしら?」

「おいしそうですね」


 おばさん相手だと大丈夫なのだろうかと思ったが、よく見ると口元が引きつっている。


「おばさん、濡れますから」

「そうね。あらあらあたしったら、どうぞ上がってちょうだい」


 おばさんが慌てたように相川さんを促す。


「ありがとうございます。荷物出しますね」


 おばさんが持っている籠に摘んだヨモギを入れ、俺は相川さんの軽トラに近寄った。果たして助手席ではリンさんが気だるそうにとぐろを巻いていた。リンさんが乗る為に座席は外してあるらしい。かなり大きいもんな。うちも座席を外した方がいいのだろうか。


「リンさん、こんにちは」

「サノ、コニチワ」


 相変わらず美人である。表情は動かないのでとっつきにくい美人というかんじだ。でも好意を持ってもらっているということはわかる。リンさんは腰から下には大きな布をかけているので、車の中を覗き込まれても蛇の部分は見えない。

 少しだけ窓を開けて風を感じている姿はアンニュイだ。確かにこの美人にかなう人はいないだろう。あとはもう少し滑らかにしゃべれれば完璧か。いや、このカタコトも魅力といえば魅力かもしれない。


「いてっ! 痛いっ、ユマ痛いって!」


 珍しくユマにつつかれた。なんでだ。

 おばさんはもう家の中に入った。ハブが入っていた瓶は梅酒を漬けるような大きな物で、その中でハブはとぐろを巻いていた。思っていたよりもけっこうでかい。頭が三角形で、薄黄色地に黒っぽいかすり模様がある。確かにハブだった。


「大きいですね……」

「おそらく1m以上はあったと思います。リンが咥えて持ってきたんですよ。明らかにハブなのでどうやって保管しようか悩みました」

「リンさんお手柄ですね」


 蓋のところに小さな空気穴がいくつも開いている。おっちゃんちに入ると、相川さんはまずおばさんに手土産を渡した。俺も慌てて煎餅を渡す。


「あらあら気を遣わなくてよかったのに~」


 と言いながらおばさんも嬉しそうだ。


「おう、昇平来たか。それがハブか、随分でけえなあ。ああ、相川さんだっけ? 上がってくれ」

「昇ちゃん飲み物持ってきてくれる?」

「はーい」

「僕も手伝いますよ」


 おっちゃんは居間から出てきてハブの入った瓶をまじまじと見た。おばさんに言われて相川さんと倉庫に飲み物を取りに行ったら車が止まる音がした。桂木さんがみえたようだった。


「さ、佐野さん……」

「大丈夫ですよ」


 すでに相川さんの顔が心なしか蒼褪めている。本当にトラウマになっているのだなと思った。


「……遅くなってすいません。山菜を採っていて……って、えーっ、えーっ!?」


 桂木さんが軽トラから降りてきた。彼女は相川さんを見ると一瞬止まり、そして驚いたように声を上げ始めた。相川さんがススッと俺の後ろに隠れる。いや、貴方の方がでかいですからね。俺の後ろじゃ隠れられないですからね。


「桂木さん……こちらが西の山の相川さんです。相川さん、こちらが東の山に住んでいる桂木さんです」

「よ、よよよよろしくお願いしますううう!!」

「……よろしく」


 桂木さん動揺しすぎ。顔真っ赤だし。そんな桂木さんを、荷台の方から降りてきたドラゴンさんがぐいぐい押した。


「タツキさん、こんにちは」


 ドラゴンさんが軽く頷く。それはなんだか謝っているようにも見えた。ドラゴンさんは悠然と相川さんの軽トラに近づき、リンさんを確認するとまた軽く頷いた。リンさんの目がすごく怖い。

 背丈が1m以上あるポチとユマは近くにいて何やらつついている。虫でもいるんだろうか。

 これぞ怪獣大集結。俺もしかして早まったかも。桂木さんをおっちゃんちに促しながら、なんだかとても嫌な予感しかしなかった。

 相川さんは、桂木さんが家に入るまで俺の背中にへばりついていた。暑い。


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