17.西の山を訪問してみる。イケメンと仲良くなりました
それから二日後、相川さんの山にお邪魔することになった。
朝から川でニワトリたちにアメリカザリガニをこれでもかと捕ってもらった。大きなバケツの中がいっぱいである。もちろん川も上から下までまんべんなく見回った結果ではあるが、こんなにいたらいくらキレイな川でも魚がいないのではないかと心配になった。外来種だから駆逐してもいいんだろうなと思い、捕れるだけ捕ってもらったのでいい土産ができたと思う。
ニワトリたちは全員行くのかと思っていたがタマは留守番らしい。
「もしかして、リンさん怖い?」
冗談で聞いたつもりだったが思いっきりつつかれた。ごめんなさい。
相川さんの話は前回うちの山に来てくれた時だいたい聞いていた。
約三年前にサラリーマンを辞め、知り合いの伝手を使って西の山とその裏の山を買った。うちと同じく二山持ちらしい。知り合いの友達が売ってくれたらしく、その友達は山が売れたことで町の方へ引っ越した。山で暮らすということで、身を守る為に狩猟免許を取ったので、この村ではハンターたちの知り合いはいるらしい。イノシシを解体してくれた秋本さんについて尋ねてみると、もちろん知っていた。
「新鮮な動物の死骸が落ちてたら持ってくるように言われましたよ」
なんて苦笑していた。
自分の山でも猟銃を使ったり罠を使うには狩猟免許が必要らしい。その反面、それらを使わないで捕まえたとか、落ちてたなんて扱いならば免許は必要ないようだ。この間うちのニワトリたちが捕まえてきたのはどういう扱いになるのだろうか。自分の山だからいいのかな。
相川さんの山も桂木さんの山のようにけっこう急なとんがっているような山である。その裏山はどちらかといえば丘のようになっているらしく、うちの裏山が大きく見えるのだとか。そういえば裏山見に行ってないな。そろそろ行くようか。裏山の奥の山も誰かの土地だとは聞いたけど、そこに繋がる道がないので今は誰も管理していないらしい。そんな土地もけっこうあるようだ。(後日国有地だと判明した)
相川さんの家は山の中腹にあった。大体どこもそれぐらいの場所に家がある。その方が管理しやすいのだろう。
「こんにちは、お邪魔します」
相川さんの軽トラの横に車を止める。ここまでの道はかなり丁寧に管理されているようだった。
「こんにちは。あれ? 今日は二羽なんですね」
「一羽は留守番するそうです」
「優秀ですね」
そう言って相川さんは笑った。うん、やっぱりイケメンだ。少し目頭付近にしわが見えたような気がする。確か三十代前半だと言っていた。
荷台からアメリカザリガニが入ったバケツを下ろすと、相川さんは目を丸くした。
「すごい数ですね……たまにお邪魔したいぐらいです」
「いつでもどうぞ。俺もこんなに捕れるとは思ってなくて……一応うちの近くの川を辿っただけなんですけど」
「……誰かが捨てて……雑食だから植生豊かな場所で繁殖したんでしょうね」
「多分そうだと思います」
「お言葉に甘えてまた今度お邪魔させてもらいます。リン! テン! 佐野さんがお土産を持ってきてくれたぞ!」
リンさんにはこの間会ったがテンさんはどうなのだろうと思ったら。
わあ、大蛇。
多分ニシキヘビなのだと思う。
リンさんは上半身が人間のようだけど、テンさんは蛇そのものの姿だった。いったい何mあるのだろうか。
「コンニチハ。アリガト」
リンさんが能面のような顔で挨拶をしてくれた。
「こんにちは、リンさん。そちらがテンさんですか?」
「テン、ハナス。アリガト」
「わぁ……」
大蛇なテンさんもしゃべった。蛇の姿なのに声帯とかどうなっているのだろう。やっぱり普通の蛇じゃないんだろうな。
「テン、ニワトリは佐野さんちの家族だ。絶対に食べるなよ」
「ワカッタ」
いつのまにかポチとユマが俺の前にいた。なんか尾が立っている気がする。まぁ大蛇だもんな。下手したら俺一人ぐらい飲み込みそうだし。って考えたら怖くなってきた。
相川さんがバケツを持ってテンさんから少し離れた場所に置く。
「佐野さんからの土産だ。食べてもいいけど僕たちが家に入ってからにしてくれ。残さず食べるんだぞ」
「ワカッタ」
リンさんとテンさんの姿に圧倒されていたが、相川さんの家はけっこうな大きさだった。こちらも庄屋さんだったのか、部屋がいくつもあるように見える。
「どうぞ、こちらへ」
「お邪魔します」
擦りガラスの引き戸をくぐると広い土間があった。内装はかなりリフォームしたのだろう、コンクリートの土間にテーブルと椅子がある。
「へえ、おしゃれですね……」
「これでも二回リフォームしたんですよ。リンとテンを飼い始めてから大きくなる種だと知りまして」
ということは夜とか、寒い時期は蛇たちをここに収容するのだろう。テーブルの横に大きなストーブもあった。
「あの……うちのニワトリたちが虫とか草とか食べてもいいですか?」
「どうぞご自由に。畑の雑草とか食べてくれると嬉しいですね」
「リンさんたちは……肉食ですもんね」
「そうなんですよ。おかげで草取りも手伝ってもらえません」
相川さんが楽しそうに言った。
「適当に虫とか草とか食べてもいいって」
ポチがクンッと頭を上げて見回りに行った。ユマは残ってくれるようだった。
「本当に優秀ですね」
嬉しそうに言い、お茶を淹れてくれた。お茶菓子はやっぱり煎餅だった。湯呑も急須もなんかおしゃれで気後れしてしまう。台所は隣の部屋らしい。外観からは想像できないほどスタイリッシュな家だった。
「和室はないんですか?」
「こちらの奥は和室ですよ。畳も全部入れ替えたのでたいへんでした」
「ですよね」
うちだって手入れしてくれていたからそのまま使っているが、こちらの家はほぼ放置されていたらしいから余計だった。猟銃は和室に置いているらしく、ちょっとだけ見せてもらった。散弾銃だった。さすがに持たせてはもらえなかったが筒が長くてけっこう重そうだった。近くで見たらすごい迫力だった。銃怖い。
「俺も狩猟免許とった方がいいですかね。なんか裏山にクマがいるかもしれないって聞いてて……」
「……狩猟仲間が増えるのは歓迎しますが、いろいろ物入りですよ。銃の所持には「銃砲所持許可」もいりますし」
「そうなんですか」
帰宅して改めて調べたらいろいろ面倒な手続きが必要だということはわかった。俺には無理だと思った。
相川さんは凝り性らしく山菜を採って自分で料理もするらしい。
「実は……この山に人を呼んだのは初めてなんです。いっぱい食べていってくださいね」
わあ、お初いただきました。ユマにできれば野菜くずなどをいただけると助かりますと言ったらなんか感動された。
「ニワトリってエコですね。蛇もまぁ……相棒としては頼もしいですけど」
「それぞれによさがありますよね」
筍ごはんやら煮物やら天ぷらなどを大量にごちそうになった。この山の幸ってのはいくら食べても飽きない。なんか相川さんが作ってくれた料理はおしゃれで、レストランにいるような気分だった。
「またいつでもいらしてください」
「はい、また伺います」
あまりリンさんやテンさんの話はできなかったが、いろいろな話が聞けて楽しかった。男が寡黙だなんてのは嘘だとすごく思った。
アメリカザリガニはキレイに食べ尽くされ、リンさんとテンさんに寄り添われた。感謝の気持ちだったのかもしれないがすごく怖かった。ちびらないですんでよかったデス。
まだまだ聞きたい話があったので、相川さんとはその後も定期的に行き来するようになった。
そんな風に過ごして暑くなってきた頃、珍しく相川さんから切羽詰まったような電話があった。さすがに尋常ではないなと思い、俺はポチ、ユマと共に軽トラを走らせた。
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