16.アメリカザリガニは特定外来生物ではありませんが

 家の周りの草を刈るのが早いか、伸びるのが早いかと、最近は雑草と勝負をしているような気がする。草が生えすぎるとそこが蛇の隠れ場所になったりするから危ないのだ。毒のない蛇ならいいがマムシは危険すぎる。そろそろ道路の周りの草木なども刈っていかなければならないだろう。

 あれから特に何事もなくGWは終わった。

 桂木さんの元カレについて言うと、慰謝料をもらった当時は働いていたというからGWが終われば早々来られないだろうという判断である。山中さん(桂木さんの知り合いのおばさん)も気にしてくれたらしく、村のあちこちに声をかけてくれたりしたのだと教えられた。警戒は引き続き必要かもしれないけど、情報収集をしていればなんとかなると思いたい。つっても俺ができるのは話を聞くことぐらいだ。

 今日も今日とてニワトリたちは山の中を駆けずり回っている。今日の俺のお供はポチだった。

 どうも最近飼主と思われていないような気がする。お供というよりお守りをされているような……。由々しきことだった。

 川の周りを見回っているとポチがマムシを捕まえた。本気でこの山マムシ多い。作業着を着てはいるし靴も靴下も山仕様の少しごついヤツを履いてはいるけどそれでも噛まれたら、と考えてしまう。春から夏にかけていろいろなところを見回り、スズメバチなどが飛んでいないかも確認しなければならない。春のうちはそれほど凶暴性はないらしいが(それでも刺される時は刺される)夏から秋にかけてどんどん凶暴性が増す。巣など見つけたらできるだけ早く駆除しなければならない。山の生態系はそれなりに把握しておかないとニワトリたちにとっても危険だ。

 虫や動物の動きはそれなりに面白いと思う。全くわからないのがきのこや食べられるかもしれない野草類だ。きのこは素人は絶対に手を出すなとおっちゃんに厳命されている。この時期はまだあまり見ないが、秋になってくるときのこが増えてくるので採りたくなる人もいるらしい。だがきのこは見分けが難しいので、この辺りでは毎年何人か毒きのこを食べて食中毒になったというニュースがあるそうな。そういえばシイタケに似た毒きのこがあると聞いたことがある。こわっ。きのこ、こわっ。

 マムシはポチにあげた。ポチはマムシを食べ終え満足そうに頭を上げると、今度はいきなり川の中に頭を突っ込んだ。


「え? 何? それはデザートなのか?」


 その鋭いくちばしで捕まえたのはなんとアメリカザリガニだった。わしゃわしゃ動いてる。どうする? とばかりにそのまま首を傾げられたので、「……食べていいよ」と許可を出した。そういえばアメリカザリガニって海老みたいな味がすると聞いたことがあったが、わざわざ調理して食べる気にはならない。食べる物に困ったら食うとは思うけど。

 そこでふと西の山の相川さんと、その飼い蛇(そんな言い方あるんだろうか)のリンさんの顔が浮かんだ。リンさんはアメリカザリガニが好きらしい。西の山にも川はあるが、けっこう流れが急でアメリカザリガニが住むには厳しい環境なのだとか。対して、うちの家の近くの川は浅くてそれほど流れは急ではない。他にもこの山にはいくつか川があるとは聞いている。(まだ全ては確認できていない)

 ただアメリカザリガニというのは一般的に都市近郊で増えているもので、こんな田舎の山にいるはずはないのだが、以前誰かがこの辺に捨てたのだかなんだかで多くなっているらしい。誰だ捨てたヤツ。責任者出てこい。

 ポチの様子を見ていたがどうも殻で少し苦戦していたようだった。イノシシは倒すくせにザリガニの殻は苦手とか面白い。


「そういえば、相川さんちにお邪魔するなんて話があったなー……」


 社交辞令じゃないことを願いつつ、善は急げと、しかしおそるおそるLINEを入れてみた。ヘタレだって? ほっとけ。

 川の見回りを終え、家に戻った頃返信があった。いつ行ってもいいらしい。


「失礼ですけど、リンさんアメリカザリガニ食べます?」

「生きたまま持ってきていただけるなら嬉しいです」


 と返ってきた。確かに死んだらすぐに悪くなっていくもんな。できるだけ新鮮な方がいいよな。相川さんちを訪ねる前に捕まえるとしてポチに聞いてみた。


「なー、ポチ。アメリカザリガニって捕まえるの簡単?」


 任せろとばかりにクンッ! と頭を上げ、コッ! と返事をされた。


「じゃあ今度いっぱい捕まえてさ、相川さんちのリンさんのお土産に持って行きたいんだけど……」


 そう言ったら何故かポチが川の方に向かって走り出した。


「ええ!? ちょっ、まっ、ポチ! 今日じゃない! 今日じゃないからぁーっ!!」


 早とちりしたニワトリを追いかけて俺はまた川に戻ることになった。頼むから話は最後まで聞いてほしい。


「今日じゃない! 今度だから! その時言うから!」


 とすでに二匹ほど捕まえたポチに訴えたら盛大につっつかれた。すごく理不尽だ。

 ちなみにポチが捕まえたアメリカザリガニはタマとユマのおやつになった。なんかやっぱり殻がうまく外せなくて食べづらそうだったのが不思議だった。



アメリカザリガニについて(環境省HP)

https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/amezari.html

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る