11.イケメンとペットについて話してみた。やっぱ怖い

 お茶を淹れ、煎餅を出した。

 相川さんが持ってきた手土産はなんとハムだった。いわゆるお中元とかお歳暮で送られてきそうな高級なヤツである。


「え? こんな高そうなものいいんですか!?」

「お世話になっている農家さんから大量にいただいたんです。なのでよろしければどうぞ」

「ありがとうございます!」


 俺は満面の笑みを浮かべいそいそとハムを冷蔵庫にしまった。この村では普通にお中元とかお歳暮の習慣があるので農家の冷蔵庫はいつでもパンパンだ。しかもじいちゃんばあちゃんはやたらと物を貯め込む傾向にある。物資欠乏の時代を生き抜いてきたからなんだろう。でもいくら缶詰だからって賞味期限が二年以上過ぎたものは食べられないと思う。(あくまで俺自身の感覚です。賞味期限を過ぎても食べられるとは思いますが、ご利用は各自の判断でお願いします)

 相川さんはきょろきょろとうちの中を見回した。


「台所ってリフォームされたんですか?」

「ええと……?」


 俺は首を傾げた。言われた意味がよくわからなかった。俺が返答に困っているのがわかったのか、相川さんが補足する。


「うちの山も以前人が住んでいたので、残っていた一部の家屋を使っているんですが、台所が土間だったんですよ。で、昔ながらの窯とかがあって、とてもそれじゃ調理はできないなと思って今風にリフォームしたんです」


 ああそういうことかと納得した。確かに昔ながらの家屋は土間が一般的だろう。


「ここは引き渡された時もうこうなっていたんです」


 元庄屋さんがギリギリまで手入れしてくれていたみたいだし。


「それはよかったですね」

「はい、幸運でした」


 ただ庄屋さんちだったからかけっこう広い。十畳ぐらいの部屋が三つもあるし。俺自身の荷物はそんなにないので今のところは定期的にほうきで掃いたりしている。

 相川さんが居住まいを正した。それにつられて俺も背筋を伸ばす。


「昨夜はすいませんでした」

「いえいえ、こちらこそ……」


 侵入者を感知して駆けていくとか、本当にうちのニワトリってなんなんだろう。やっぱ桂木さんが言ってた通りコカトリスなのかな。でもコカトリスだと羽に鍵爪とかついてそうだし……。


「それでちょっと気になりまして……こちらのニワトリって、この山に最初からいたんですか?」


 やっぱ気になるよな。俺は苦笑した。


「いえ、こちらに越してきて三日目ぐらいに村でお祭りがありまして。そこでひよこを三羽買ったんですよ」

「ああ、あのカラーひよこですか。最近はなかなか見ませんよね」

「はい。今はもう色も落ちちゃってますけどね」


 相川さんは難しい顔をした。


「すいません、あの……そういえばこの山の東側の山にお住いの、桂木さんには会われましたか?」

「ええ、つい先日お会いしましたが……」


 なんで桂木さんの話が出てくるんだろう。はっ! もしかしてこのイケメン桂木さんのことも狙っているとか? ……まぁ今の俺には関係ないけどさー……。内心遠い目をしたら、


「桂木さんの飼っている動物って見ました?」


 どういうわけだか桂木さんのペットの話になった。あれ、ペットってサイズじゃないとは思うけど。


「はい。すごく大きなトカゲですよね。なんかドラゴンっぽいなーと思いました」

「ですよね。あのトカゲもこの村の縁日で買ったと聞いたんですよ」

「あ、それ俺も聞きました」


 相川さんはまた聞きらしい。

 それでふと思う。相川さんはペットを飼っているのだろうか。


「相川さんは動物は?」

「一応……僕は三年前にこちらへ引っ越してきたんですけど、初めての村のお祭りで小さな蛇を二匹買ったんです」

「へえ……三年前は蛇だったんですね」

「ええ。毒のない蛇だとは確認して買ったんですが……」


 相川さんはため息をついた。


「えっと……何か問題でも?」


 蛇ってことはもしかして巨大化したのだろうか。ニシキヘビとか、もしかしてアナコンダだったとか? そんなの売るなよ。下手したら飼い主が餌になってしまうじゃないか。


「それが……かなりでかい物だったらしくて……」

「ニシキヘビですか?」

「多分それに近いのではないかと思うんですけど、なんであんな風に育ってしまったのかどうしてもわからないんです」

「はぁ……」


 困っている様子だが実物を見ていない俺にはなんともいえない。相川さんは俺の傍らにいるユマを眺めた。


「佐野さんちのニワトリもけっこう大きいですね」

「ええ、先日測ったら50cmぐらいあって……」

「しかも尾が羽じゃないですよね」

「ええ、なんかトカゲみたいですよね。先日桂木さんにコカトリスみたいだって言われたんですけど……」

「それだ!」

「え?」


 相川さんはカッと目を見開いた。いったいどうしたんだろう。


「理由まではわかりませんが、この村のお祭りで売られている動物はみんな伝説上の生き物なんじゃないですか?」

「ええ?」


 この人もファンタジー好きなんだろうか。ちょっと引く。


「え……でもただの奇形かもしれませんし……」


 そう言ってから改めて考える。尾が全て爬虫類っぽくなってるニワトリが三羽とか。でももしかしたら奇形の子を集めて売っていたのかもしれないなとも思いなおした。


「それでは説明ができないんです。うちの蛇は……」


 普通の蛇じゃないとなるとどんなのだろう。もしかして八岐大蛇的なのとか? まさかね。


「えーと、首が多いとかですか?」


 でもそれなら買う時に奇形だとわかるはずだ。それか育っていくうちに尾が増えたとか。それぐらいしか想像ができない。

 しかし現実は俺を超えていた。


「……昨日、佐野さん見ましたよね」

「え?」

「髪が長くて顔が白い……」

「ああ……」


 昨夜の光景を思い出して身震いする。生きている人だとはわかったけどそれでも恐ろしい画だった。


「今日も助手席に乗ってました」

「……え?」


 昨日の彼女、だよな? クァーッッ! とまだ外ではポチの威嚇するような鳴き声が響いている。

 まさか……そんな……。


「え? 冗談、ですよね?」


 ドッキリであることを願いたい。


「紹介します」


 そう言って相川さんは立ち上がった。俺もしぶしぶ立ち上がる。

 昼間なのに背を冷汗がだらだら伝う。なんとも不快だった。この辺りっていったいなんなんだろう。

 玄関を出るのがこれほど恐ろしいと思ったことはなかった。

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