10.不法投棄ダメ絶対! 西の山のイケメンがきた

 山のふもとまで軽トラで移動し、金網の外に出る。この外側も山の範囲なので俺の土地である。

 もう少し下っていくと分かれ道があり、右側に行くと西側の相川さんの山、左に行くと右手に橋が見える。橋を渡った先が村だ。渡らないでそのまままっすぐ進み、もう一つの橋を渡った先では道がまた分かれている。左側に上がっていく道があり、そちらは桂木さんの山である。上がらないでまっすぐ進むと、また右側に村へ向かう橋がある。さらにまっすぐ行けばそのまま上りになり、桂木さんの更に東側の山に続く。そちらも所有者がいるが住んではいないらしい。説明が下手で申し訳ない。

 村の西側の道と南側の道を下っていけば町に出る。東側は更に山奥へと続いている。東側にも小さな村落があるらしい。その更に山奥にも住んでいる人がいるとか。こんな不便なところで暮らすなんて、と以前の俺なら思っただろうが、山を開墾して田畑を作ればごはんは食べられる。今みたいに周りの情報がほとんど入ってこない生活ならば、一生村を出ないで暮らしていた人も多かっただろう。病気にかかったらどうするんだと思うかもしれないが、山奥に村を作った当初は食べていくだけで精いっぱいだったに違いない。年貢がきついから山に逃げたって人もいるんだろうなとか、開墾すれば土地がもらえるなんて時期もあった。でも情報化社会になって、出稼ぎに行ったり、不便を嫌ったりと若者はどんどん町へ出て行く。この村には小中学校はあるが高校はない。医者も診療所が一軒しかないし、平地がほとんどないから移動は車がないときつい。

 ポチとタマが率先して麓近くの山の中を見回りをしてくれている。ありがたいことだ。

 ユマと不法投棄などがないか道に沿って歩いていた時、ふと昨夜のことを思い出した。

 あれ? ニワトリって夜目がきくんだっけ? ほとんどの鳥は実は鳥目じゃないと聞いたことがあるが、ニワトリはどうだっただろうか。


「ユマってさ……夜でも見えるの?」


 ユマはそうだと返事をするように俺を軽くつついた。雌はあまり鳴かないのでよくわからない。でもオウムみたいに言葉はしゃべるんだよなぁ。まだ意味は通らないけど。


「そっか、ニワトリって夜目がきくのか……」


 後で改めて調べたらニワトリは鳥目だった。(諸説あります)やっぱりうちのニワトリはどこかおかしい。

 明らかに適当に放られたようなごみを集め、ポリ袋にまとめる。一応可燃不燃には分けなきゃいけないがこんな汚れたペットボトルは可燃でいいだろう。


「意外とごみってあるもんだなー」

「ダナー」


 周囲に人の気配がないせいかユマが返してくれた。

 プラごみは生分解しないから勘弁してほしい。最近は生分解性の製品もあるらしいがこんなペットボトルとかはそうじゃないだろう。あ、タバコの吸い殻も落ちてる。勘弁してほしい。不法投棄というほど大きな物はなかったのでほっとした。

 あらかた片付けて軽トラの荷台に乗せる。改めて看板を確認し、人の姿がないことをチェックしてから俺は家に戻った。今日は相川さんが来ることになっているので金網の南京錠は開けてきた。パッと見、開いてるかどうかわからないように細工はしてきたから知り合い以外が入ってくることはないだろう。

 今日の昼ごはんは肉野菜炒めごはんだ。野菜はおっちゃんちからいただいた物。米はさすがに買った。肉は村の雑貨屋で買った冷凍品だ。町のスーパーへ行けばもう少し新鮮な肉が買えるかもしれないが、そこまでこだわりはない。

 毎日がそうだけど労働の後のごはんはものすごくうまい。空気もうまいせいかなーなんて思う。ニワトリたちは俺が調理に使った際に出た野菜くずを食べ、更に外に出て自力で餌を探す。ごはんも満足に用意できない飼い主でごめん。

 午後は畑の手入れをしていた。バッタ類や蛾の幼虫など畑の害になりそうなものはニワトリたちが率先して食べてくれるので助かる。ニワトリは雑食らしい。イノシシの内臓とかも食べてたしな。あれはなんというか、衝撃映像だった。思い出した光景を頭を振って追い出す。こわいこわい。


「そういえば卵って産むのかな?」


 ポチがいるから有精卵になるんだろうか。そしたらさすがに食べるのには躊躇するな。

 そんなことを考えながら雑草を抜いていたら車の音がした。相川さんが来たらしい。


「お客さんだ」


 ポチがさっそく出迎えに行く。思った通り相川さんだった。


「遅くなってすいません」


 日の光の下で見た相川さんはやっぱりイケメンだった。うん、亀〇和也に雰囲気がそっくりである。よく見ると茶色の髪は地毛のようだった。作業着姿なのにカッコイイのずるい。

 軽トラをうちの軽トラの横に止めてもらう。助手席には髪の長い女性が乗っていたがどうやら降りる気はないようだった。


「あれ? 彼女さんは……」

「人見知りが激しいので気にしないでください」


 相川さんが苦笑していう。人見知りは激しいけど一緒にはいたい、と。くそっ、リア充め。

 なんかポチが相川さんの軽トラに向かってクァーッ! クァックァッ! と何度も威嚇するように鳴いている。珍しいこともあるもんだ。


「ポチ、だめだよ。いったいどうしたんだ?」

「ああ、気にしなくて大丈夫です。いつものことなので。それにしてもこちらのトリさんたちは優秀ですね」


 タマが得意そうに首を上げた。うん、いつも思うけどこっちの言ってることしっかりわかってるよね。


「ええと、じゃあ上がってください」

「お邪魔します」


 相川さんは手土産まで持参していた。丁寧で気遣いのできるイケメンとか全く勝てる気がしない。いや、だからはなから勝負にならないけど。

 俺はこの時、相川さんがなんでわざわざ挨拶に来たのかわからなかった。その理由はあまりにも衝撃的で、山暮らしってなんなんだろうと遠い目をしてしまったのである。

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