最終話 千年後の未来に転移したら、おにぎりが衰退していた。
ルイスは黒幕であるおにぎり魔族四天王・マイダを倒した。あの終わり方ではただおにぎり影武者におにぎり食わせただけなのでは? と言いたくなるだろうが、とりあえず倒したという事にしとこう。これにてルイス達の任務が完了した。
その後、ルイスとプリマリアは周りに異常がない事を確認しカオッカへと戻った。異常はないと言っても周囲には灰色おにぎりが大量に落ちていたし、戻る際にまたもルイスがおにぎり縮地でプリマリアを置いてきぼりにするトラブルもあったが……まぁ、それ以外はおおむね何事も無く戻れた。プリマリアはこの件について「また置いてきぼりにするな馬鹿!」とコメントしている。
カオッカの周辺ではルイスがおにぎり魔族であるマイダを倒した影響なのか、おにぎりピードは比較的収まっていた。この状態ならカオッカにもう危険は無いだろうが、数十人のおにぎり士たちが事後処理で魔物を追い払ったり土くれおにぎりを魔物に食べさせたりしていたためルイスもそれに混じるように事後処理に参加した。事後処理の際にルイスが美味しいおにぎりを魔物に食べさせたため、魔物がおにぎりの美味しさに驚いてまた暴走したりもしたが……まぁ、それ以外はおおむね何事も無く事後処理は進んだ。プリマリアはこの件について「また暴走引き起こすな馬鹿!」とコメントしている。
そして事後処理が終わり。おにぎりピードが完全に終結した翌日にルイスはギルドマスターのスタルードに呼ばれた。
「でかした、ルイス。おにぎり魔族におにぎりを食べさせる事で、おにぎりピード計画を阻止するとはよくやった。お前は我がギルドの誇りだ」
スタルードはルイスを褒め称える。その顔には満面の笑みを浮かべている。
「俺は大したことはしてない。ただ他のおにぎり士と同じように、美味しいおにぎりを作っただけだよ」
「謙遜するな。お前以上のおにぎり士なんてそうそういない。もっと誇れ。……そして今回の件で、領主さんもお前に礼を言っていた。あの方はおにぎりへの思いやりに満ちた優しい方だからな。きっと多額の褒美が出るだろう」
「そうか」
ルイスは自分の功績を謙遜したものの、スタルードはルイスを更に褒める。更に今回の件で領主がルイスに感謝しており、褒美が出るかもしれないと言う情報も告げた。
「俺達からもギルドの報酬を出そう。俺が作ったおにぎり一年分だ。大事に食えよ」
「こんなにくれるのか。ありがたく頂戴するよ」
スタルードからも、今回の報酬がルイスへと渡された。今回のおにぎりピード計画を止める任務で支払われたギルド報酬はスタルードが作ったおにぎり一年分。もちろん土くれみたいなクソまずいタイプのおにぎりだ。まだまだおにぎりの技術が衰退した状態なのは変わりないようだが、ルイスは何故か嬉しそうに貰った土くれおにぎりを道具袋に入れた。
「そしてルイス、おめでとう。今日付けでお前のおにぎりランクはBランクに昇格できる」
「おっと。もうちょっとCランクのままのんびりやるつもりだったんだが、意外とあっさりと昇格するんだな」
「当たり前だ。お前はおにぎりピードを止めた英雄だと、この都市のお偉方が王都に進言したんだ。上層部も昇格させざるを得ないさ」
同時に、ルイスのおにぎりランクはBランクへと上がった。どうやらウルマーさん達ら都市のお偉いさん達が王都のギルド上層部に進言してくれたらしい。
「だがBランクにもなると、お前を指名する依頼も増えて今後更に忙しくなるだろう。お前にその覚悟はできているか?」
「もちろん」
Bランクになるという事は、仕事量が増えるという事でもある。スタルードはそれに対し覚悟があるかをルイスに尋ねた。すると彼は薄く笑みを浮かべて頷く。
「俺はおにぎり士になるために生まれてきたんだ。幼い頃から、おにぎりのことだけ考えて生きてきた。だからこれからもおにぎりを作るために生き、おにぎりを作るために死ぬよ」
ルイスはおにぎりへの尋常じゃない決意をスタルードに伝える。なんかプロローグの「幼い頃から魔王を倒す事だけを考えて生きてきた」と言う説明と矛盾している内容が混じっているが、ルイスの瞳に嘘をついている様子はなかった。過去すら捻じ曲げるほどおにぎりに心酔しているのかもしれない。
「君もそうだろ、プリマリア? 俺とプリマリアは、おにぎりで心がつながっている。だから君も俺と同じようにおにぎりしか考えられないって分かってるさ」
そしてルイスは、横にいるはずのプリマリアにそう笑いかけた。そのセリフは大分決めつけが含まれており、いつものプリマリアだったら「おにぎりで心繋がった覚えないですし、おにぎりしか考えられないような思考回路になった覚えはありませんっ!」とツッコミを入れていただろう。
……しかしルイスの隣には、いつもいるプリマリアがいない。
「……プリマリア? どこだプリマリア?」
「プリマリアならこのメモをルイスに渡せって昨日来たきり見てないぜ?」
「そうなのか? 確かに昨日の夜辺りから見ないと思っていたが……」
「連れがいなくなったのにずっと放置するとは、意外と薄情だなお前」
どうやら昨日の夜から、プリマリアはいなくなったようだ。ルイスはなぜ彼女がいなくなったのか疑問に思いながらも、プリマリアが残したと言うメモをスタルードから受け取る。
メモは薄いおにぎりでできていた。どうやらこの都市のメモはおにぎり素材の物しかないようで、プリマリアも仕方なくこのメモを選んだのだろう。で、そこに書かれていたのは……。
『ルイス様へ
ルイス様が元に戻るまで一緒にいようと決心してましたが、シリアスな雰囲気になるたびに全て許してしまいそうになる自分にいい加減腹が立ってきたので自分を見つめなおす旅に出ます。探さないでください。
プリマリア』
どうやらプリマリアは自分が嫌になって、色々と放り投げたようだ。その筆跡からは何もかも嫌になったような感情が伝わってくる。
「……まったく。プリマリアはおちゃめだなぁ。もぐもぐ」
ルイスはそう笑って、プリマリアの残したメモを食べるのだった。プリマリアだったら絶対「食うなあああああっ!」とツッコんでいただろうが、その叫びをする者は既にこの場にいなかった。
【千年後の未来に転移したら、おにぎりが衰退していた。勇者なのでおにぎりで無双する!~千年勇者のおにぎり伝説~ 終わり】
千年後の未来に転移したら、おにぎりが衰退していた。勇者なのでおにぎりで無双する!~千年勇者のおにぎり伝説~ momoyama @momoyama
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