推し幽霊会にようこそ!

兎緑夕季

幽霊が見える人々の話

 早川英明14歳はごく普通の中学生二年生だ。

ただし、他の子と違うのは霊感があるという事。

彼の日常は幽霊が見える現実が広がっている。

その特異体質のせいで彼は孤独な人生を歩んでいた。

小学生の頃は特にひどく、見えない者との会話を目撃した同級生には変人とののしられた。現在では幽霊に接触されても無視を決め込んでやり過ごしているが、それでも彼の孤独と疎外感は強まるばかりだ。

だから、正常な判断ができなくなっていたのだ。

でなければ、ネット上に存在した幽霊が見える会というコミュニティにアクセスするなんて暴挙には出なかった。

我に返った今だってこうして会員の集会場にやってきている時点でどうかしている。


「やっぱり帰ろう…」


怪しい集団満載感漂う雑居ビルを前にして、英明は反対方向に歩き出そうとした。


「あっ!新しい人ね」


声をかけられて振り返れば、ブレザー姿の少女がいた。

おそらく高校生だろう。


「えっ!いや…」


英明はしどろもどろに口を動かしながら俯いた。

基本、生身の人間と話すのは苦手なのだ。

それも女子となんてもってのほかだ。

彼女はそんな英明の様子になどお構いなしに雑居ビルに中に連れ込む。

ガタガタの不穏な音が鳴るエレベーターの先に開けた会議室には年齢がバラバラな数名の人々が円になって座っていた。


「あら、葵ちゃんその子新しい子?」


60代ぐらいの上品な女性が女子高生に話しかけた。


「そうなんです。私より下の子は初めてだから嬉しくって」

「すっかりお姉さんね」


笑い合う女性と女子高生を見つつ、英明はここに連れ込んだ彼女が葵という名前なのかと心に刻み込んでいた。ブラウンの髪と瞳の彼女は美人の分類に入るだろう。


「じゃあ、座って。もうすぐ会が始まるから」


そう促されて、葵の隣に座る英明。


「では、今日の推し活動会の開催を宣言します」


推し活動会?僕は幽霊の見える人の会に参加したはずでは?


英明は場所を間違えたかと首を傾げていた。

その事に即座に気づいた葵はニッコリとほほ笑んだ。


「君は初めてだからね。見てれば分かるわ」


40代ぐらいの男性がスクリーンに映し出したのは平安貴族風の女性が空を浮遊する写真だ。透けている所を見ると幽霊だろう。それは分かる。


「僕の推し幽霊、とある貴族さんの日常を記録したものです」


推し幽霊?なんだそれは?


英明は話についていけずにポカンと口をあけていた。


「今日も愛しの若君を探して情念たっぷりに昼下がりの空を散歩しているレアショットに感動しました」


うっとりとした様子で語る男性に拍手喝采が送られる。

次に挙手した20代の女性は傷心しきったような悲痛な顔をしながら立ち上がった。

「私の推しである名前も分からない足軽さんは昨日、無事成仏しました。ずっと推していただけにショックでなりませんが、この世に未練を残さずにあの世に行けたのならファンとして嬉しい限りです。でもショック…」


涙をポロポロと流す女性に会場中から慰めの声がかかる。

そのほとんどが、大丈夫よ。次の推しが見つかるわ、といった言葉だった。

英明はこの会について、なんとなく理解を巡らせ始めた。


「分かった?ここは霊感が強い者達が自分の推し幽霊を発表する場なの」

葵はそう言った。

「なぜ、そんな事を?」

「私達は幽霊が見える。だけど見えない人には理解されないばかりか、幽霊達にまとわりつかれる事も後を絶たない」

彼女の言葉は葵にもよく理解できた。

「そんな時に思ったの。見えるのはどうしようもない。逆に彼らを好きになれば人生も楽しくなるってね」

中々飛躍した考え方だと英明は思った。

「そうして生まれたのがこの会よ。皆、日々を彩る推し幽霊が成仏する日を楽しみに彼らを観察しているの」

「はあ…」

英明は突拍子もない会に来てしまったなと思った。

そんな彼の考えなどよそに推し幽霊自慢は続いていくのであった。

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推し幽霊会にようこそ! 兎緑夕季 @tomiyuki

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