推し活 in 廃トンネル
イノリ
推し活はほどほどに
いえーい、皆さん見てますかー?
心霊スポット探索系配信者、ナナでーす。
本日はこちら、××県××市にある廃トンネルを探索していきたいと思いまーす!
もしかしたら、ネットの噂で知ってる人もいるかも? そう、この廃トンネル、死者の霊が出るって噂なんです!
そして、なななんと! 私が大好きな轟くんの霊が、ここに現れるらしいんです!
轟くん、知ってますか?
まあ、皆さん絶対に聞いたことはありますよね。
超人気アイドルの轟くんが事故で亡くなったって、一時期ニュースですっごい流れましたからね。私も悲しくって、何度も泣いちゃいました。
でも! 死んじゃった推しが出るとなれば、それが心霊スポットだとしても行くのがファンの務め、配信者の務めじゃないですか!
というわけでいざ、突入しましょう!
いやー、やっぱり暗いですねぇ。こういう場所の探索には、懐中電灯が欠かせませんね。ヘッドライトもあると便利ですけど、私は画面映えしないから外しちゃいましたねー。
あ、その経緯は三つ前くらいの動画にのってるから、よかったらみんな見てね?
――ようこそ!
ふと声が聞こえた。背後から。
振り返るとそこには、ニコニコとしたイケメンの男の人――私がわからないわけがない、轟くんだ!
いきなり会えたんだ!
――轟くん! 轟くんですか!
――わぁ、もしかしてファンの人? こんなところまで来てくれたんだ!
私は昔から霊感が強かった。だから心霊現象にハマってこんな配信なんて始めたわけだけど、今回はアタリだった!
推しにも会えたし、しかもこれ絶対バズるよね? やばいやばいどうしよ!!
――キミは?
――わ、私、ナナっていいます! 心霊スポットを探索する配信をしてるんです!
――ああ、その手のカメラ。こういうの久しぶりだなぁ。でも幽霊ってちゃんと映るのかなぁ。
――え、あ、確認してみます!
私はスマホで自分の配信を開いて、確認してみる。
しかしどういうわけか、映像はどこかもわからない崖下から空を見上げたような構図を映している。
――あれ?
――やっぱり映ってなかった?
――ええー、せっかく轟くんと会えたのに!!
カメラの設定を弄ったりしても、映像に変化はない。
――ん?
――どうかしたの?
――いえ、その……ん? なにこれ、集団荒らし?
コメント欄が酷いことになっている。
「やばいやばいやばい」というコメント――こういうのは心霊スポットを探索していればいつも来るコメントだからいいとして、「これ通報案件だろ」とか「誰か通報した?」とか意味不明のコメントが並んでいる。
ここの廃トンネルは立ち入り禁止の場所ってわけじゃないし、何か犯罪行為をしているわけでもない。配信サイトの規約にも違反していないはずだ。前に一度規約違反で動画を削除されて、そのときしっかり規約を読み込んだから、間違いないはず。
じゃあ、やっぱり荒らしか。
――ねぇ、ところで……
――あ、ご、ごめんなさい轟くん。なんですか?
会話に応じながらも、目はコメント欄をどうしても追ってしまう。
「これ助かるの?」「こういう場合ってどうなるの?垢BAN?」「おいさっきの映像切り抜かれてSNSで拡散されてるぞ」「ヤバいじゃん」「俺そのSNSで知って来たわ」――なにこれ?
あ、また来た。「俺たちの推しが
――死ん……え?
「俺たちの推しが死んでしまった」
――ナナちゃん、キミはどうして亡くなったの?
震える手で、配信画面をもう一度よく確認する。
どこかの崖下。その崖の頂上は、ガードレールも何もない。だってこの辺りはもう誰も通らない。だから道も整備されてない。
そうだ、あそこは……この廃トンネルに向かう最中に歩いた、歩いた、歩いた、歩いた、足を滑らせて、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――
そんな、そんな、そんな、そんな、そんな――
見下ろした先。
私の体には、足がなかった。
推し活 in 廃トンネル イノリ @aisu1415
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