僕の推し=顔も知らないアマ小説家

DITinoue(上楽竜文)

僕の推し=顔も知らないアマ小説家

 いつの日でしょうか? 多分夏だった気がします。僕はいつも通り、パソコンの液晶画面を眺めていました。

 当時はブログ更新をして、コメントに返信して、ブログをカスタマイズして、ブログ訪問をしてという、いわゆるブロガー生活を送っていました。


 その時、僕の読書経験は図鑑と科学漫画くらいでした。小さい頃は絵本も読んでいたものです。小学5年生の夏の読書感想文はオランウータンの解説本でした。

 物語は大好きでしたが、小説はというと、全く読みませんでした。当時は文字がずらずら並んでいて絵が全くない、読みにくい読みにくい書物だと思っていたんです。


 そんな僕の隣で、親友のA君は「角川つばさ文庫」という少年向けの小説をすらすらと読んでました。

「読書が大好きです」

 こう明言していたのですが、まだまだ本の幅は狭いものなんだなぁと思いました。

 小さなころから図書室にばかり通っていた僕。A君を見てずっとこう思っていました。

「追いつきたい」

 A君と同じように小説を読んで、感想の交流をしたいと思うようになりました。

 でも――「めんどくさそう」という気持ちは正直、結構強いです。まるで脳腫瘍のように自分の読書神経を圧迫していたのでした。




 そんなことをずっとずっと心の中に閉じ込めていた僕。確か夏休みでした。

 いつも通り、キーボードを激しく早打ちする自分。いつも通り記事書いてコメント返してブログ訪問して。その過程で、ブロガーさんが「カクヨム」という小説投稿サイトを使って小説を投稿していると知りました。

 実際、そのサイトの存在は知っていました。ブログの会社がカクヨムのサイトを共同開発していましたから。

 想像力が豊かなことを自負していたので、このサイトのリンクを見ると、ついついマウスを合わせてしまうのですが、「小説を読まない」を理由にクリックできないのでした。


 その方はとても仲の良いブロガーさんだったので、小説を開けて、読んでみました。

 確か、その日は時間がなかったのでブックマークして後日読むことにしたんだと思います。

 読んでみると、その小説は恋愛小説でした。二話のものですが、それが妙に面白かったんです。漢字は得意だったので、不自由なくすらすらと読破してしまいました。

 ああ、その小説の甘酸っぱくってキュンキュンしたこと。いやぁ、そのブロガーさんってすごいんだなぁって本気で思いました。

 感想をそのブログ記事にコメントで書くと、ブロガーさんは


「カクヨムに載せるだけでそれっぽく見えますよね(笑) 文才とか気にしなくていいんです。書きたいものがあったら書いてみる! その勢いで書くのが一番ですよ。書けば書いただけ上手くなりますから、一緒に書いてみますか? どんなお話を書かれるのか、とっても気になります! 私の方の物語は時間がある時にチラッと見て下されば嬉しいです」


 という“カクヨムのすゝめ”を出してくれたんです。

 そうだ――。

 そう、ブログを始めたときもそうです。一度父からブログの存在を聞いて興味を持ち、親を説得してブログを始めた、自称行動力の高い僕なのです。

「あの伊能忠敬だって五十を過ぎてから測量を始めたのだからな――」

 ブログで、何かに挑戦しようか迷っているという記事をたまに見ます。そんな人には良くこんなことをコメント欄に書き込み、エールを送るのでした。

「その言葉をかける自分が実践せずにどうする」

 そう思って、その日のうちに母親に声をかけました。

「なあ、僕小説書きたい」

 って。




 母親の反応は憶えていませんが、それからしばらく両親が話し合った末、OKが出ました。

「ヤッター!!」

 また新しい活動をスタートできるのだと思うとめちゃめちゃワクワクしたものです。このワクワクはチャレンジャーしか味わえないワクワクです。それを一年で二度も味わえるなんて。僕は幸せ者だ。

 ですが、そこからが長かった。両親とも仕事が忙しく、終わってパソコンをするときには母は厨房でいそいそと料理を作る時でした。なので、2分くらいで終わる

「ユーザー登録」なるものを実現するのに軽く二週間はかかったと思います。

「今なら登録できるで」

 夏休みも、もうすぐ終わりの八月二十二日。母はこう声をかけてきました。これは確かその日の午後のことだったと思います。

 チャンスは今だ――!


 というわけで、ユーザー登録を済ませると、早速小説を書いてみました。読んだこともないのにやけにスムーズに執筆をすることができました。

 それが、生まれて持っていた才能だったらいいなぁと思います。

「『地下の小部屋の怪人形』できた」

 それが、僕のデビュー作の誕生です。

 やらなければいけないことはまだあります。そのブロガーさんに報告せねば!


「両親にやりたいって頼んでみたいんですよ。それで、OKでました! なので、今日始めました!」

 勧めてもらった時の記事に再度コメントを。その日のうちに返信は届きました。

「すぐに実行に移せる行動力が素晴らしいです!そして読ませていただきました! ホラー苦手なのでビクビクしながら読みましたが、なの香の存在すら消えてしまって「ひぇっ!」となりました。男性の言葉も怖かったですし、ホラーお上手ですね! これからの作品も楽しみにお待ちしています!」

 この日がカクヨム開始の日。そして、なんとその方との出会いの始まりである、ブログ開設半年でもあったんです。運命ってこんなものなんですね。




 それから、しばらく作品を書きました。短編ばっかり書いてましたけど、それを公開するたびに「その方」は♡と☆をくれました。モチベーションの原動力は彼女だったのかもしれません。そして、コメントには感想とアドバイスがぎっしりと。アドバイスを読んで、実践するたびにだんだん気持ちは育ったのかもしれません。

 今では色んな方に読んでもらって、決して人気のカクヨムユーザーってわけじゃないですけど、それなりに成長出来てるなぁと思います。


「僕な、将来小説家になりたいねん!」

 家族には思わずそんなことを言ってました。少し前までは恐竜を調べる「古生物学者」だったのですが、何やら目指す分野が大きく変わってしまいました。




 小説を書き始めてしばらく。気付けば、A君が読むような子供向け文庫はもちろん、芥川賞、直木賞、本屋大賞などの受賞作などの単行本や文庫本、ノベルスを読むようになりました。やっぱり書いたら、読む方にもハマるもんなんですね。

 そして、それを「めちゃめちゃ面白い」と感じるようになっていました。やっぱり読書は楽しい。視野が広くなるたびに読む本が増えました。どんどん読み漁ってどんどん書く。それが楽しくて楽しくて。

 勝ち負けの話じゃないですけど、自分の中でA君を超えられた感があります。二人でもっと面白いものの交流ができたらいいなぁと思います。


 ちなみに、図書館では面白そうな作品をどんどん必死に探すせいで、ただでさえ長かった滞在時間はどんどん長くなりました。

「もう図書館行かへんで」

 と親に脅されるたびに、急いで本を決めて貸出手続きをするのが日常でした。もう少しゆっくり選ばせてくれてもいいのになぁ……。




 そんな小説を書くこと読むことが今では大好きになった僕の始まりを作ってくれたあの方。あのブロガーさんが恐らく僕の推しです。

 小説を書くきっかけと小説を読むきっかけを「カクヨム」に作ってくれた。大人になっても書き続けてそれを職業にするという夢を見つけさせてくれた。

 その僕の推しに対しての「推し活」として僕ができるのはまさしくこれでしょう。

「その作家さんの小説をたくさん読んで、感想を送ったりすること。そして何より、より大きな作品を書いてみなさんに認めてもらうこと。小説の世界に大きく翼を広げること」

 新しい出会いをさせてくださって、本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします――。

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