第21話 明晰夢
僕は今、夢を見ている。
睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見る夢を
昔、明晰夢をテーマに小説を書いたことがあったことを思い出す。
内容は、明晰夢を見ていたらその世界から出れなくなった主人公が何とか目を覚ますために自らの夢を終わらせるというもの。
夢の状況を自分の思い通りに変化させることが出来るという明晰夢の特徴を知った時に閃いた、僕が創作した中でも比較的完成度が高い分類に入る作品だと自分では手ごたえを感じている。
そんなことはさておき、夢の状況を説明しよう。
小学校の裏門のそばにあるプレハブ小屋のところで、一人の女子を取り囲む数人の男子。普通に文章から判断すれば穏やかではないこの光景であるが、登場人物がみんな体の小さい小学1年生であるのではたから見れば子供が仲良く遊んでいるようにしか見えないだろう。
実際、大学生となった僕が見てもちょっとふざけて不良ごっこのようなことをしているように見えたし、男の子たちも「いいからお前が持ってるその匂い付き消しゴムの香りを嗅がせてくれよお」と脅し文句にしては間抜けなことを言っていたのでそこまでの深刻さはなかったのだと思う。
女の子自身も「えーやだよお」と口では言っているものの、そこまで嫌がっているようには見えず筆箱の入っているランドセルに手を伸ばそうとさえしていた。
全く、このタイミングでどうしてこんな夢を見てしまうのだろうか。
ベッドに横になりながら色々とサクさんの事を考えているうちに、そのまま眠ってしまったことは容易に想像がつく。
だとすれば、サクさん関連の夢を見るのが自然な流れではないのか。
何が悲しくて、僕の小学校入学の際の過去のトラウマが見事に再現された夢を見なければならないのだろう。
何年も前の記憶をここまで夢で再現できる能力があったならば、あのタイミングでもう少し気の利いた言葉が浮かんできても良かったのではないのかい僕の脳みそくん。
まったく。優秀なのかポンコツなのか、はっきりして欲しい。
いーや、二度と思い出したくない過去のトラウマを鮮明に記憶している時点でポンコツか。
そして今でこそ冷静のその状況を分析できている大学1年生の僕であるが、当時小学一年生だった12年前の僕の脳は、やはりポンコツだった。
「お、女の子をいじめるのは良くないんだぞ!!」
きっと僕が干渉しなければ、女の子の匂い付き消しゴムに男の子たちが樹液に群がるカブトムシのように寄ってたかって顔を近づけるという何とも滑稽ながら平和なシーンが流れたのだろう。
だが、現実では社交性と状況判断能力の圧倒的低さから生まれた大きな勘違い野郎の登場のせいで、まるでヤンキー漫画のような殴り込みのシーンに変貌してしまった。
不意を突かれた甘い匂いに群がるカブトムシは、僕の格闘漫画仕込みのドロップキックをもろに受け、その後も次々と繰り出されるパンチやチョップに応戦する暇もなく、呆気なく敗れ、そろって何が何だか分からないまま泣き出してしまった。
その頃僕は、小学一年生の男子の平均身長を大きく上回っていたので余計に僕の攻撃は痛かったと思う。
こうして、ただでさえ友達を作るのに苦戦していた身長が大きいだけの小心者の少年は、文字通り身長も存在もクラスから浮いてしまったのである。
めでたし、めでたし・・・・。
と、ボーっとしていたら、いつの間にか視界が白い天井に変わっていて、そこからひょいと登美子さんが顔を覗かせた。
「あ、起きた」
?!?!?!?!
僕は驚きのあまりベッドから崩れ落ちて、床に頭を強打する。
それを見て、声を上げて笑う登美子さん。
僕は頭と姿勢を整えて、すぐに彼女の正面で正座をした。
「ど、どうして登美子さんがここに?!!」
「どうしてって、鍵、開いてたから」
僕は玄関のドアの方へ視線をやり、大袈裟にため息をついた。
精神状態がそれどころではなかったため、鍵をかけるのをすっかり忘れていた。
それにしても、いくらなんでも鍵が開いていたからと言って家主に無許可で家に上がり込むのはいかがなものか。そんな横暴が許されるのは家族を除けば、恋人か幼馴染か人生の恩人くらいだろう。
あ、この理論で言うとこの人恋人以外当てはまるわ。許す。
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