第18話 三者面談
「どーも!健作の姉的存在かつ保護者的立ち位置でもあります中町登美子でーす。呼び方は任せるけど、登美子ちゃんって呼んでくれたら嬉しいかな~」
「はじめまして!健作君とは大学で最近仲良くなりました高橋咲良です。今日は誘っていただき、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ!突然呼び出しちゃった上にこんなおばさんの相手をさせちゃってごめんね」
「おばさんだなんてとんでもない!登美子ちゃんはオトナのお姉さんって感じで一目見た瞬間に憧れちゃいました」
「そそそ、そう?!ちょっと、マスター!この店で一番高いやつこの天使に食べさせてあげて!」
聞いているだけで胃もたれしそうになるくらいのカースト上位の女子トークであるが、トークを繰り広げている二人が自分と近しい女性ランキング(母親を除く)1位と2位なので、何だかあっさりとこの状況を受け入れてる自分がいて怖い。
これがサクさんや登美子さんじゃなかったら、あまりのキラキラした眩いほどのやり取りに失明するところだったと思う。
「何よ。めちゃくちゃいい子じゃない。アンタと交換して、サクちゃんの姉になりたいくらいだわ」
隣に座っている登美子さんが。顔を近づけてそっと耳打ちしてくる。
確かにサクさんが良い人なのは間違いないが、このやり取りだけですっかりそうだと判断して信じ込むなんてチョロいにも程があるだろう。
サクさんもサクさんで、いきなりこんなカロリーの高いアラサーと絡んでこれだけの対応力を魅せるなんてさすが過ぎる。
それにちゃっかし初見でいきなり登美子さんを「ちゃん」付けで呼んでるし・・・。
そのコミュニケーション能力と人心掌握術のレベルの高さに敬礼。
そんなことはさておき、どうして二人がすっかりお馴染みとなったカフェ『翔』で相対する状況になっているのか説明しよう。
僕の悩みを聞いた登美子さんがまず一番に言ったことは「サクちゃんに会わせて」だった。
僕は当然「何をするつもりですか」と警戒心を隠すことなく彼女に抗ったが、一度走り出した暴走機関車をミジンコが止められるはずも無く、結局気づいたらサクさんに電話させられていて、今に至るというわけだ。
だから、登美子さんの思惑が全く分からない以上、僕の心中は決して穏やかでは無いし、何なら今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られていた。
けれどもしここで逃げてしまったら、ここに二人だけの空間が成立してしまうので僕としてはそっちの方が末恐ろしく、こうして小さくなって二人のやり取りを見守ることしか出来ないのである。
こうしている間にも、二人は僕では話に混ざれないくらいの高度な世間話を繰り広げている。化粧品の名前だろうか、聞き覚えのないカタカナの単語が飛び交っていてここが日本であるかすら怪しくなってくる。
そんな二人の会話が一旦中断されたのは、先程登美子さんが浮かれるあまり注文した「この店で一番高いやつ」チョコレートケーキが運ばれてきた時だった。
「「ヤバっ」」
二人は口を揃えてそう漏らし、目を星にさせながらテーブルの中央に置かれたケーキを凝視する。
綺麗な長方形の形に、表面には鳥の羽のような装飾が施されておりまさに「映え」のスイーツであった。
あまりこの手の食べ物に関心のない僕でさえも、思わず涎を垂らしそうになるほどのその圧倒的なクオリティに大きく関心のある二人の写真を撮る指が止まらない。
「マスター、こんなかくし芸持ってたんですか?!」
サクさん、かくし芸って・・・。
このケーキを宴会の場で使える一発ギャグみたいな言い方をするのはどうかと思いますよ?
「やれば出来るじゃん!!マスター!!」
そして登美子さん。あなたに至ってはこの店初見ですよね?
どうしてそんなに馴れ馴れしく出来るんですか。僕なんて、まだマスターと一度も会話らしい会話をしたことがないというのに。ジェラシー感じちゃいます。
「いえいえ。ただの裏メニューです」
ちょっと照れくさそうに一言告げると、マスターは逃げるようにカウンターへ戻り、二人のこれ以上の追随から逃れた。
分かりますよマスター。僕もきっと同じ立場なら、同様の行動を取っていたでしょう。動揺して、同様の行動を取るってね。
・・・あれ?どうしてそのチョコレートケーキを二等分してるんですか。ここには三人いるはずなんですけどおかしいなあ。
数分後、二枚の汚れた皿と、一枚の綺麗な皿をマスターが回収していった辺りから、二人のマシンガンの打ち合いのような女子トークは徐々に減速していき、やがて沈黙が訪れ、高校の三者面談のような謎の緊張感が走った。
登美子さんはもちろんの事、恐らくサクさんも気づいているだろう。
ただ女子トークやチョコレートケーキを食べるため(僕に至っては食べれていないわけだし)にこの場がセッティングされたわけじゃないことに。
前説は終わりを告げ、いよいよここから本題が始まる。
口火を切ったのは、当然この状況を作った張本人である登美子さんだった。
「今から私は、可愛い弟と大事な大事なお友達のために心を鬼にしてこのナイフになろうと思います」
彼女はチョコレートケーキを【二人分に切った】小型ナイフをまるで殺人鬼のように刃先を上にグーにして持ってニヤリと笑って言った。
一体どういうことですか?!
と、僕らが口を挟む前に登美子さんはバッグから一冊のノートを取り出してサクさんに渡す。
その光景が以前サクさんが僕に原稿を渡してくれた時と重なり、彼女を制する手が遅れてしまい、僕は何も出来ないままそのノートを確認して頭を抱えた。
そんな僕を横目に、登美子さんは小声で呟いた。
「言ったでしょ?私、ナイフになるって」
僕たち二人の関係を見事に切り裂こうとしている人間にふさわしく、悪魔のような冷ややかな口調だった。
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