第16話 中町登美子・・・ちゃん②

「それで、今日は何用でいらしたのでしょうか?」


僕は正座のまま、ベッドでうつ伏せになりながら漫画を読むみたいにして水色のキャンパスノートに向き合う登美子さんに尋ねた。

ちなみにそのノートの内容は、僕にとっての「やましい事」であった登美子さんがモデルの作品のプロットが書かれている。ちなみにやましい事についてはあの後30秒で吐かされた。


「何って、そろそろ大学にも慣れた頃かなと思って、様子を見に来たのよ」


登美子さんは生足をバタバタさせながら、顔だけこちらに向けて答えた。

胸元からは谷間がちらついていて、その無防備な姿にいくら相手が登美子さんとは言えど、発情してしまいそうになる。


僕がドギマギしている様子を悟ったのか、登美子さんは誘惑的な表情を作って、わざと胸元を僕に見せつけるように広げた。


これには性に関しては既に悟りを開いている僕もさすがに耐え切れなくなって、すぐに視線を逸らす。


「可愛いなあ。健作さえよければ、私はいつでも大歓迎なんだけど」と大人の余裕を見せつける登美子さん。


「か、からかわないで下さい!!」と声を荒げると、彼女はケラケラと笑って再び「可愛いなあ」と呟いた。


かなりのくせ者である登美子さんだが、僕への面倒見の良さは本物で、まるで実の弟のように接してくれている。


僕も先ほどは散々な対応を取ったが、彼女のことは面倒だとは思っているが、それは思春期の男子が母親に対して抱く感情と似たようなものであり、心底嫌っている訳ではない。


むしろ反対に、僕はそんな自由奔放で破天荒な登美子さんの事が大好きである。


友達居ない歴=年齢の僕にとっては親戚を除けば、唯一の理解者と言っても良いし、気を遣うことなく本音で話せるのも、彼女以外他に居ない。


登美子さんもそれを分かっているから、手のかかる弟として僕の事を本人が嫌になるくらい気にかけてくれるし、時には親身になって僕のぽっかり空いた足りない部分を補なったりしてくれる。

まあ多少、やり方は強引なところはあるけれど・・・。


とはいえ、コミュニケーション能力からこの超卑屈な思考まで、明らかに社会不適合者の僕がここまで何とか人間社会からフェードアウトせずにやっていけてるのは彼女による尽力が大きい。


その点では、登美子さんには本当に感謝しきれないほどに恩を感じている。


高校卒業時に同じようなことを直接口で伝えたら、登美子さんは大粒の涙を流しながら「じゃあいっそ私のこと貰ってよ。そんなふうに言ってくれるの、健作だけだよお」と迫ってきた。


年齢が11個下で、男としては最底辺レベル、ましてや赤子の時から面倒を見ていた弟のような存在にそんな懇願をするのだから、どれだけ登美子さんが切羽詰まっていることが伺える。


もういい加減、可哀想になってくるから早く誰か貰ってあげて欲しい。

誤解されやすいけれど、悪い人ではないんです。



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