第14話 日当たりが悪いんです

突然ながら、僕のアパートの説明をしようと思う。ま、誰も興味はないと思うけど・・。


僕が一人暮らししているアパートは、大学から徒歩5分の利便性に特化した場所にある。家賃は5万円くらいで、駐車場は無し。日当たりはあまりよいが、僕にとってはこの暗さが逆に心地よく感じる。

唯一の悩みといったら洗濯物がなかなか乾かないくらいか。


部屋の間取りは大学生の一人暮らしの鉄板でもある1Kで、玄関からリビングに繋がる廊下が広がっており、左脇には洗面所やキッチン、右脇にはトイレやバスルームが配置されている。

リビングは、白ベースの洋室でこの空間こそが僕が唯一心から気を休めることの出来る城だと言っていい。

しろしろ

・・・すみません次に物件探すときは幽霊物件にしてオバケに呪われて死んできますだから許して下さい。


6畳くらいのリビングには、テレビやベットなどの一般家具を除けばほとんどが僕の作品執筆のためのスペースになっている。

かなり幅をとる1.8mくらいの本棚(大)に、ホームセンターで買った本棚(小)。パソコンや資料などが置かれた学習机。


これらが部屋を圧迫し、暮らしていても正直かなり窮屈に感じられる。

恐らく友達が家に遊びに来たら、確実に「お前の部屋せまっ」と言われるだろう。まあ、根本的な問題としてまずは友達が居ないのでその心配はただの杞憂であるのだが。


さて、このような窮屈な部屋で僕はいつものように学習机に座り、7月からサイトに投稿を始める予定のライトノベルを執筆していた。


次のジャンルは、少女漫画っぽさを意識した29歳のOLが主人公のラブコメ。

実は今回の作品は、モデルがいるのだが結構クセが強い人物で説明するのが難しいので詳しくはまだ語らないでおく。

ちなみにその人とは実家が隣のだけのただの腐れ縁というか、僕が一方的にいじめられている的な感じなので、決して友達だとか恋人だとか誰かに羨望されるような関係性ではない。


僕は一章の中盤まで書き終えると、椅子にもたれかかって白い天井を見上げた。

控え目な光を放つ蛍光灯が、いつもよりもやたらと眩しく感じる。

この程度の光にさえ耐えられなくなったら、とうとう僕は吸血鬼にでもなってしまうのではないか。

誰かの血を吸わなければ生きていけないなんて、独りを極めし僕にとってはあまりにも苦行過ぎる。


だって、お腹が空く度に誰かと接しなければならないんでしょ?それだけで充分ハードモード過ぎる。

おまけに、血を吸うなんて相手からしたら大の迷惑だし。ならば僕は、飢え死を選択するしかないじゃないか。


せめて吸血鬼として生きられるくらいのコミュ力は欲しかったな・・・。


サクさんと今後の方針を話し合ってから、一週間が経過した。


それからの進展は、僕はあまり実感がないのだがサクさんは一人でサクサクと原稿を書き進めているらしく、進捗状況が毎日LINEで送られてくる。


「本当に、これでいいのだろうか」


自分の気持ちを確かめるように、あえて口に出して言ってみる。

写真で送られてきた原稿は、確かに素晴らしい。


だが、時々話の展開の仕方や登場人物の表情など、もっとこうしたほうが良いのではないかと思う箇所もいくつかある。


サクさんは、僕の原作に完璧に則って漫画を描いてくれているが、僕が書いたのは漫画の原作では無くてあくまでネット小説なので少し違和感を感じるのも当たり前だと思う。


漫画と小説じゃ、ストーリーのスピード感や登場人物たちのやり取りの仕方など、何もかもが違う。


例えば僕の作品で説明すると、登場人物のセリフが割と長いのだが、文字だとあまり違和感を感じないところ、漫画にすると物凄くテンポが悪く感じるし、こいつ一人で喋りすぎだろと思う。


話の展開も、僕的には要らない描写や会話文、エピソードをもう少しカットしてサクサク進めて貰って構わないのであるが、サクさんの漫画はそのすべてを詰め込もうとするため一読したときに少々だらけた印象が与えられる。


物語を書く人間として、小説だけでなく漫画も、一般の人の数倍はこれまでに読んできたつもりだ。

だからこそ、自分の作品が漫画として明らかに足りていないものやダメなところが嫌でも目についてしまう。


本当は、漫画用に一から書き直したいとさえ思っているのだが、そんなこと今更言えるはずがない。


こうしてる間も、サクさんは僕の原作を読みに読み込んで必死にペンを走らせてくれているのだ。その頑張りにケチをつけるような真似なんて、出来るはずがない。

だけど、やっぱり創作に関してはどうしても妥協できない気持ちもある。


「あ~!!どうすれば良いんだ!!」


天井に向かって普段は出さないボリュームで声を荒げたその瞬間だった。


ピンポーンとインターホンがなり、僕は引っ越してから初めての経験に思わず固まってしまう。


恐る恐る腰を上げて、インターホンの画面の前に行くと、そこに映っていたのはまさに今書いているラノベの主人公のモデルである29歳独身のOLであった。



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