第13話 僕はただ頷くだけ③

「じゃ、じゃあ次はお互いの役割について!!」


自然と固くなってしまった雰囲気を打破するように、サクさんはあえて明るい口調で次のスライドを開いた。


今度もまた『役割』という二文字がドドン!!とあるのみかと思ったが、これに関したは綿密な役割が記されており、原作、作画はもちろんのこと、ネーム作成や編集、作品のPRと細かいところまで分けられていた。


「まあ役割とは言ったけど、ケンくんは今まで通り執筆に専念してもらっていいから。私がコンビを組もうと言い出した以上、あまり負担になるようなことはさせたくないからさ」


その言葉通り、役割分担とは言ってもそのほとんどが「サク」と書かれており、「ケン」と書かれた箇所は原稿の最終チェックと原作、キャラクターや世界観の設定とチェック以外は今までとやることは全く変わらないような内容だった。


「でも、これじゃあサクさんに負担を・・」


「問題なーし!0から1を生み出すのは本当に大変な作業だと思うし、私的にもケンくんには好きなようにバシバシ執筆してもらいたいからさ。漫画にしようって言ったのは私だし、そこらへんの責任は取らせてよ。あ、もちろん気になる点があったら最終チェックでいくらでも指摘してくれていいから。あくまで私の仕事はケンくんの作品を彩ることなんだからケンくんの意見が最優先だからね」


サクさんは、明らかに僕に遠慮していた。

僕としては、自分の執筆の時間を犠牲にしてでも二人で作品を作り上げるものだと思っていたので、サクさんのその遠慮は納得がいかなかった。


でも、もしここで僕がせっかく考えてくれたサクさんのプランを否定するような真似をしてしまったら彼女を傷つけることになるかもしれないと思い、この違和感を口にすることは出来ず曖昧に頷くことしか出来なかった。


僕の反応に違和感を感じたのか、サクさんが「どうかした?何か意見ある?」と尋ねてくる。


僕は懸命に笑顔を作って「役割が明確になったら、何だか実感が湧いて緊張してきてしまって」と誤魔化すように言う。


「ふふっ。可愛いなあ、ケンくんは」


「か、可愛くなんてないです」


するとサクさんはいたずらっぽい笑みを浮かべ、テーブルから身を乗り出して僕の鼻先をツンと指でつついた。


「不束者ですが、改めてこれからよろしくお願いします」


急に畏まって挨拶してくるサクさんに合わせて、僕も姿勢を正し「よろしくお願いします」と丁寧にお辞儀した。


「あはっ。何だかこのやり取り、結婚するみたいだね」


「ししし、しませんから!!!僕みたいなとんかつの揚げカスみたいな人間がサクさんのような超高級食材とけけけ、結婚だなんて、包丁でいくら刺されても罪を償えません!!」


「あら~。私、とんかつの揚げカス結構好きよ~?」


「ちゃ、ちゃんと捨ててくださいよ!!」


「やだ。捨てない。食べる。・・・てか、何の話してるの?結婚からどう結び付けば揚げカスの話になるの。というか、結婚もしないし」


ホント、何の話をしているんだろう。

サクさんの時折見せる男を盛大に勘違いさせるような小悪魔的な部分は天然なのか、わざとなのか。もし後者だとすれば、僕の心臓がもちそうにないので今後一切やめて頂きたい。


結局その日は、それから間もなく解散した。

いよいよこれから二人の活動がスタートするというのに、僕の胸の内はなぜか黒い煙が纏ったようにすっきりとしなかった。

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