第10話 自己肯定感×
「私、結構ケンくんにも怒ってるんだからね」
いつものカフェに到着して、いつもの端の席に座って早々、サクさんは膨れっ面を浮かべ口火を切った。
ちなみにこのカフェの名前は
「ごめんなさいそうですよね。僕、モーレツにダサかったですよね。さすがのサクさんも愛想が尽きましたよね。すいませんちょっと死んできます」
「いやそういうことじゃなくて!ダサいとかじゃなくて、う~ん、何て言えばいいんだろ。どうしてあそこで言い返さなかったかって話」
「僕が誰かに言い返せるような人間に見えますか?」
「そう開き直られちゃうと困っちゃうけど!まあ、確かにケンくんにあそこで言い返せと望む方が無理か・・・」
頭をわしゃわしゃと掻きながら呆れたように嘲笑を浮かべるサクさんに、僕は何度も「すみません」と頭を下げた。
その僕の態度にサクさんはさらに腹を立てた様子で、熱々のカフェオレを勢いよく飲み込むと、「あー!!」と締め切り目前の漫画家のようなため息をついて人差し指を僕に突き付けた。
「そーゆーとこ!あのね、ケンくんはもう少し自己肯定感を上げた方がいいよ。人に遠慮したり、波風立てないために自分を下げる気持ちは分からなくもないけどさ、ケンくんの場合は、度が過ぎてると思う。もう少し、自分の意見を言ってみたり、思ったことを口にしたりして良いんだよ?私でさえ、幸太郎のあの発言ははらわたが煮えくり返りそうになるくらいだったんだから、ケンくんの怒りや悔しさなんて計り知れないでしょ?!」
サクさんは興奮気味に話した後、再びカフェオレに口をつけた。
目の前の彼女は、僕に対して純粋な怒りをぶつけている訳ではなくて、あくまでも僕自身のことを考えて怒りをぶつけてくれているのだ。
憎悪から来る怒りではなく、優しさから来る怒り。
そうならば、僕が彼女に取るべき行動は「すいません」と頭を下げることではない。
「ありがとうございます」
僕のために、怒って下さって。
礼を言うと、サクさんはスッと表情を和らげて小さく首を傾げた。どうして自分が礼を言われているか、分からないといった反応だった。
「実を言うと、僕自身がバカにされるのは別に何とも思わなかったんですけど、サクさんのセンスまで疑われた時はさすがに腹が立ちました。本当は、その場で言い返したかったんですけど僕は黙って見ていることしか出来なかった・・・」
僕だって、もう少し強い自分を手に入れたいと思っている。
彼女はそんな僕にキッカケを与えてくれている。
自分自身を変えるための、キッカケを。
「僕、これから努力してみようと思います」
「ケンくん・・・」
「だって、僕があんまり情けないと、僕や僕の作品を受け入れてくれたサクさんの価値まで下げることになりますから」
「あ、そゆこと・・・」
何が不満なのか、サクさんは感動した表情から一転して、苦笑いを浮かべる。
「成果は出ないかもしれませんが、出来るだけのことはやろうと思います」
「ま、まあ思っていた展開とは違うけどケンくんがやる気を出してくれたのなら私はそれでグッジョブだよ!」
サクさんは空になったマグカップを左手に持ったまま、右手でグーサインを作った。
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