第9話 足立よる

足立さんの発言に、周囲は驚いていた。


話したことはないけれど、一応小学からの付き合いだから分かる。

足立さんは、大勢の人の前で発言するようなタイプではないのだ。


僕ほどではないにしろ、どちらかと言うとクラスではあまり目立たないタイプ。

まあ足立さんの場合、容姿も整っているし、お淑やかでコミュ力も申し分ないほどあるのでその気になればクラスの中心的ポジションになることも出来たのだと思うが、本人が控え目な性格もあってそうはならなかった。


僭越ながら僕が彼女に対して抱いているイメージを発表させていただくと「常に恥ずかしそうに身体をよじって俯いている」だ。


だからまさか彼女がわざわざこのような局面で僕の肩を持つような発言をするのは意外であったし、そう感じているのは僕だけではないらしい。


「ご、ごめんなさい!私、何言ってるんだろ・・・」


周囲の注目を一気に集めた足立は顔を真っ赤にして僕の従来のイメージ通り恥ずかしそうに俯いた。


そしてその縮こまった背中を、バンバン叩く猛者が一人。


「ありがとうよるちゃん!私のこと、庇ってくれたんでしょ?本当に天使だよ~」


「さく。多分よるちゃんが庇ったのは、あんたじゃなくてケンくん。二人、元々知り合いなんだって」


「え、本当?!」


「・・・」


綾子さんがあっさりと僕と足立さんの関係性を周囲にバラし、それがまずかったのか、足立さんはさらに頬を紅潮させ、「うう・・」と小さく唸り声を上げてひゅるひゅるとしぼんでいってしまった。


「そんな恥ずかしがることないのに~。ケンくんと元々知り合いだったなんて、羨ましい限りだよ」


サクさんは子供を慰めるような格好で足立さんの頭を撫でた後、僕のそばへと駆け寄ってきた。


「ごめんね~。変なことになっちゃって。それじゃあ、そろそろ行こうか」


よこ目で原くんを見ながら「幸太郎にはまたの機会にちゃんと謝らせるから」と耳打ちするサクさん。


「それではみなさん。お騒がせしました~」


綾子さん達に別れを告げて、その場を後にするサクさんについていこうとした時、原くんが僕のそばに近寄ってきて小声で呟いた。


「お前、こんなんでいいのか?作家どうこうの前に、男として、人間として、ダサすぎるだろ」


原くんのナイフのような言葉を、僕はわざと聞こえないふりをして、逃げるように駆け足でサクさんを追った。


自分がダサい事なんて、とっくの昔から知っている。


それを今さら誰かに指摘されたところで、ダメージなんて・・・・ない。


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