第7話 陽キャラさん達の集まり②
「それでさ、今日は色々と今後の方針を決めようと思って」
サクさんの機嫌はジュース一本で直り、隣合わせで大学の出口まで向かいながらこの後カフェで話す内容について軽く確認をしていた。
そこまで人通りも多くないので気にするようなことではないのかもしれないが、やはりサクさんとキャンパス内で二人で歩くのは緊張する。
本人は気にしなくていいと言うけれど、やはり小心者の僕としてはどうしても周りの視線が気になってしまう。
サクさんとの話に集中できず、曖昧に相槌を打ちながら周りをキョロキョロしていると、キャンパス内での憩いの場でもある噴水前広場で数十人の集団が騒いでいるのを視界に捉えた。
「あ!であい彩だ。おーーーい!!みんなーー!!」
どうやらその集団とサクさんは知り合いだったらしく、彼女は手を大きく振りながらそう叫び、自分の存在をみなに伝える。
であい彩というのは、確かサクさんが所属しているサークルの名前だ。
具体的にどんなサークルなのかはまだ聞いていないが、一人一人の外見や振る舞い、話し声の大きさからかなりエネルギッシュなサークルであることが伺える。
言っちゃえば、陽キャラの集まり。
少なくとも、僕みたいな人間は一人も居ない。
「おお!!咲良ーー!!」
「さく!そんなところで何してんのーー!」
集団の代表格らしき男女二人が、先頭でサクさんに向かって手を振る。
サクさんは笑顔で応じながら集団に向かって近づいていく。
僕としては、眩しすぎて絶対に関わり合いになりたくないタイプの方々なのでそのままスッと逃げようとすると思い切り腕を掴まれた。
「ごめんね。ちょっとだけだから」
口調こそ穏やかだが、その掴む力から、絶対に僕を逃がさんとするサクさんの執念を感じる。
少しでも目を離したら、また前のように逃げられると思っているのだろう。
気まずいから、ちょっと離れたところに行きたいだけなのに、それすらも許してもらえないほどサクさんの僕に対する信用は低い。
そして、サクさんに腕をグイグイと引っ張られ、とうとうその陽キャラの集まりの前まで来てしまった。
当然みんなの注目は、サクさんの隣に居る冴えない謎の男に集められ、僕の全身からねっとりとした汗が湧き出る。
「なに~?さく。今日の集まりキャンセルした理由がそれ?あらま~。良いご身分だこと」
サクさんに負けず劣らずのルックスを持つ代表格の女性の方が、いたずらっぽい笑みを浮かべながらからかうように言う。
「もー、綾子。そんなんじゃないから。この方があの、私の相方さんだよ」
「へえ~あなたが例のケンくん!どうも、不本意ながらさくの親友やらせてもらってます牧野綾子です」
「ちょっと!不本意ながらって、どういう意味?!」
「え?そのまんまの意味だけど?」
まさにキラキラした女子大生らしく、冗談を言ってはしゃぐサクさんと綾子さん。
ああ、この二人のやり取りと笑顔が尊い。
こんなサクさんの笑顔、僕じゃ一生引き出せないんだろうなあ。
と、そのような感慨にふけっていると、ふと僕はあることに気が付いてしまった。
綾子さんに僕のこと言ってるの?
そっとサクさんに耳打ちすると、彼女は「仲のいい人には言ってるよ~」と僕にとってはかなり重大なことをあっさりと言った。
僕が困惑した表情を浮かべていると、サクさんはキョトンとしながら「何かまずかった?」と首を傾げた。
「い、いえ。だ、大丈夫です!」
本当は自分の知らない人に自分の存在が知れ渡っていることに対してかなり戸惑っているのだが、サクさんとこのような関係を結んだ宿命として受け入れることにする。
実際、向こうが僕のことを知っていたとしてもサクさんの居ないところでこんな奴にわざわざ話しかけに来るような真似はしないと思うし、特に影響はないだろう。
それに、どんな形であれ自分の存在が認められるのは嬉しい。
「さくはたまに訳分からない方向に突っ走るところがあるからケンくんがしっかり手綱握っておいてあげてね~」
「い、いえ。手綱が必要なのは、僕の方で・・・・」
「なに、さく。あなた、ケンくんにどんな調教したの」
「も、元々こういう人だから!調教なんてしてないよ~」
二人のじゃれ合う姿を再び眺めながら、僕は何だかほっこりする。
それにしても、僕なんかにもこうして優しく接してくれる綾子さんも、なんて優しい人なんだろうか。
やっぱり良い人の周りには、良い人が集まるというのは本当の話らしい。
「へえ。お前が咲良の心をばっちり掴んだ作品を書いたケンって奴か」
そんなことを考えていたら、突然あの代表格らしき男性に声を掛けられた。
男性は金髪でイケメンのまさにイケイケのチャラ男って感じで、僕とは正反対の属性に見える。
「そ、そうみたいですね・・・」
男性が放つオーラに圧倒されて身を強張らせながら答えると、彼は僕の反応を見て高らかに笑った。
「こんな奴の作品に夢中になるなんて、咲良も随分変な趣味してるんだな」
「ちょっと、急にどうしたのよ。幸太郎」
幸太郎。
綾子さんの口から発せられた彼の名前を聞いて、ハッとした。
入学式の日から、噂になっていた。
高校時代に出版社が主催するそこそこ大きなコンテストの賞を受賞して作家デビューした金の卵が同学年にいると。
その噂について調べ、僕がたどり着いた名前は原幸太郎。
天と地の差はあると言えども、一度はお目にかかりたいと思っていた存在が、まさかこんな形で相対することになるとは。
「つまらない人間は、つまらない作品しか書けねえんだよ」
天に居る金の卵は、地に居る僕を見下すような表情を浮かべると、挑発的に鼻を鳴らした。
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