2章 コンビ
第6話 陽キャラさん達の集まり
一昨日、この無駄に広い敷地を持つことだけが取り柄の南空大学の高嶺の花的存在である高橋咲良とコンビを組んだ。
具体的に何をするのかは、まだ僕も知らない。僕がシナリオを描いて彼女が作画し、漫画を創作するとは言っても、オーディションに応募するとか、出版社に持ち込みをするのか、あるいはネット上で作品を展開していくのか、今後の方針は何も定まっていない。
あの後、僕にとっては初めての女子のちゃんとした連絡先を獲得した訳だが(青い背景の白い鳥のアプリは除外)、未だ連絡は来ない。
いつものように広大な敷地を一人でぼんやりと歩きながら、僕は六月のジメジメとした湿気を肌で感じながら思う。
あれはもしかしたら、ドッキリでは無かったのかと。
彼女が役者の、ネット小説を書いているイタイぼっちの僕に身の程を知らしめるための壮大なドッキリ。
僕とサクさんの今までのやり取りは、全て隠しカメラに収められていて、どこかの部屋で大人数がモニターを見ながら勘違いしている僕を笑う。
そうだ。きっとそうに違いない。
考えれば考えるほど、事が僕にしては上手く運び過ぎていて不審に思えてくる。
だとすれば、そろそろネタバラシのタイミングか。
もしドッキリ大成功の看板を持ったサクさんが出てきたら、せめて上手く笑おう。
僕が犠牲になることで、誰かの笑顔が生まれたのならば、それで良かったではないか。
「ケ~ンくん!」
背後から声を掛けられたのと同時に、視界が真っ暗になった。
「だ~れだ!?」
愉快そうなサクさんの声が、耳元で囁かれる。
なるほど。こうやって視界を塞いで、目隠しが外れた瞬間ドッキリ大成功のプラカードが視界に飛び込んでくる仕組みだな。
あるいは、このままどこかの部屋へ連れてかれて、大勢の前でドッキリの事を伝えられるのか。
ああ、考えただけでお腹が痛くなる・・・。
「どうしたんですか、サクさん」
僕がそう答えると、サクさんは僕の目から手を離し、「えー」と非難めいた声で小さく喚いた。
「どうして私って分かっちゃったかなあ」
簡単に当てられたのが悔しかったのか、ご不満な様子のサクさん。
どうやら、ドッキリのネタバラシではないらしい。
「いや、キャンパス内で僕に話しかけてくる人なんて、サクさんくらいしか居ないので・・」
「え、何それケンくんのオンリーワンは私ってこと?なんだ嬉しい。あ、ごめん。今の、無神経だったよね」
「ぜ、全然大丈夫です!慣れっこなので!むしろ変に気を遣わせてしまい申し訳ありません!」
気まずそうに謝ってくるサクさんを見て、またやってしまったと後悔する。
どうして僕は、口を開く度に卑屈な発言をしてしまうのだろう。
これじゃあ、モニター越しに見ている観客の皆様もしらけてしまう。
「てか、どうしてまだサクさん呼びなの?!一昨日にお互いため口で行こうって決めたじゃん!」
「え、あれ本気だったんですか。ただの社交辞令かと」
「そんな社交辞令無いよ!ほら、サクでも咲良でも高橋でも好きなように呼んで!」
「じゃあ、高橋さん・・」
「さらに距離遠くなってるんだけど!何で?!!」
人の名前すら、今までロクに呼んでこなかった僕にとって、ニックネームや呼び捨てなどパラパラのチャーハンをつまようじで食べるくらい至難の業だ。
「まあ、こんなに焦らせるようなことでもないか・・・」と、サクさんは諦めたように呟くと、曇り空を見上げた。
「今日は、大事な話をしようと思って」
大事な話?何だろう。
少し気になって考えてみると、ある一つの答えが僕の中で導き出された。
「ドッキリのネタバラシですか?」
「何それ。ド、ドッキリ?」
「い、いや、2日間音沙汰が無かったものですから、てっきりドッキリだったかなと・・」
「はい?!一昨日別れる時に『自分を成長させるために、連絡は僕からします』って言ったの覚えてないの?!!私、この二日間ドキドキしながらずっと待ってて、今話しかけるのもだいぶ勇気振り絞ったのに!!!」
あ、完全に忘れてた・・・。
「テッテレー。ドッキリ大成功」
何を思ったか、混乱のあまりそんなことを口走った僕に、サクさんは「バカ!!」と罵声を浴びせ、足早に前に進んで行ってしまった。
今の「バカ!!」可愛かったなあ。
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