具なしパスタから

信仙夜祭

第1話 具なしパスタから始めて

 俺は、将来スポーツのプロ選手になりたいと思っている。

 だから、体を作る。

 親に頼んで、食事は脂分を抜いて貰っている。

 そして、毎日練習後にプロテインを飲んでいた。


「タンパク質が重要なんだ。そして、糖質と脂分が余計なんだ。身長を伸ばして、筋肉を膨らませて、身体能力で優位に立つ! これが最短のはずだ」


 毎日、短距離ダッシュと腕立て伏せ、腹筋、スクワットをオーバーワーク寸前まで続ける。身長は伸びなかったが、筋肉は順調に付いて行った。

 だけど、どうしても体力が付かなかった。持久力が致命的になかったのだ。

 コーチに相談したら……、


「あはは。当たり前じゃないか? 運動前に、炭水化物食べないとエネルギーが作られる訳ないじゃないか。

 なに考えているんだ?」


 ガーン


 そうだったんだ。

 その後、調べてみると、プロのスポーツ選手は、試合前に『具なしパスタ』を食べると書かれていた。


「そうだったんだ……」


 母親に頼んだけど……、


「あんたのおやつの世話をもしろと言うの? 私も毎日忙しいのよ?」


 っと言われてしまった。

 さらに調べる……。


「熱湯を注ぐだけで、パスタが茹で上がる調理器具があるのか……」


 お湯は、電気ケトルで沸かせばいい。電気ポットもあるし。カップラーメン……とは違うけど、俺でも作れると思う。

 そして、これしかないと思った。

 近所の、中古屋を周って、目的の品を定価の半額で購入した。運よく見つかったと思う。

 学校が終わったら家に帰り、さっそく作ってみる。


「モグモグ。味がしないな……」


 その日の練習は、何時もより動けた気がするけど、やっぱりスタミナがないというのは変わらなかった。

 家に帰り、さらに調べる。


「……塩分補給? 汗で塩分が流れ出るので、熱中症になる? スポーツにも重要で、スポーツドリンクには、塩分が含まれる?」


 俺は、甘いモノは避けてたけど、スポーツドリンクには、そういう意味があったんだ……。

 次の日に、『具なしパスタ』に塩をかけてみる。


「……うえ。しょっぱい。分量が分からないよ」


 でも、全部食べて練習に向かった。

 でも、練習は変わらなかった。俺は、走れていない。

 何かが間違っていると思う。

 こうなると、もう止まらない。その日は、徹夜で調べた。


「……結論としては、調理かな? 乳化が重要なんだな」


 その日は、学校が休みだったので、午前中から試作品を試す。

 茹でたパスタと、オリーブオイルを混ぜてフライパンで混ぜて行く。

 油と水が混ざり合うのが分かった。

 ここで、母親が来た。

 パスタを一本取られて食べられる。そして、冷蔵庫からなにかを取り出した。


「……アンチョビって、なに?」


 俺の質問を無視して、母親は少しだけフライパンにアンチョビを入れた。

 そして、固形の調味料を加えて味を調え出した。

 俺の『具なしパスタ』がどんどん変わって行く……。

 最終的に、カイワレ大根も添えられて、お皿に盛りつけられる。

 少し不満かな。俺の料理なのに……。

 でも、食べてみる。


「……美味しい」


 母親は、いい笑顔だ。





 一年が過ぎた。

 俺は、頑張ったがレギュラーになる事なく、チームを去ることになった。

 足手まといなのだそうだ。こればかりは、しょうがない。

 それと、背も伸びなかった。

 誰だ、タンパク質を摂れば、背が伸びるとか言った奴は……。

 もう、食事に気を遣う必要もない。

 甘いモノもたくさん食べるようになった。


「母さん、お昼御飯はどうする?」


「……また、パスタの試作品でしょ? 食べられる物にしてよね」


「プッタネスカ(娼婦風パスタ)は、もう少し挑戦して、名前の由来みたいに『体力を回復するパスタ』を作ってみたいと思うんだけど……、トマトとイカがないね。タコもと言うか、魚介がないか……。今日は他のにしようかな」


「カルボナーラの失敗は忘れてない? 嫌よ、あんなの」


「あれは、難しいんだよ。もっと簡単なのがいいかな」


「……それなら、まずペペロンチーノを覚えてね」


 トマトベースが、簡単でいいんだけどな……。


「あの辛いやつか……。ベーコンある?」


 スポーツ選手の夢を諦めた俺だけど、何故かパスタの研究は続けている。

 それと、変化もあった。

 学校のマラソン大会で、一位が取れたのだ。

 それ以外に、何故か学業の成績が上がったのもある。



 食事を終えて、洗い物を片付ける。


「それじゃあ、走って来るね」


「目的もないのに、良く続くわね。関心するわ」


「こないださ、陸上部から誘われたんだ。

 それと、教師から記録会への参加も頼まれた。

 ハーフマラソンに出てみないかって」


「まあ、いいけど、気を付けて走って来なさいよ」


 準備運動をして、今日も10キロメートルを走る。

 今のところ目的もない。ただの、習慣だ。

 チームに戻りたいとも思わない。

 まあ、マラソン大会での元チームメイトの顔は、見ていて気分が良かったけど。

 結果的に、俺はこの一年で、学校で一番のスタミナを手に入れたことになる。

 意味がなかったとは思わない。これからの俺の行動次第で、意味が出てくると思う。


「具なしパスタから始まったけど、具があった方が結果がいいって不思議だな。

 それに、食事が美味しいと、気分がいい。

 満腹だと力が湧いて来るし。

 それにしても、風が気持ちいいな~」

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